第53話 人道支援だ、エルフさん
「忍者が欲しい」
「それを俺の前で言うかぁ~」ミツルギは呆れた様に言う。
この日、珍しく『王の目機関』の室長のミツルギが訪ねてきた。
「本当に久し振りね。元気だった?」
リーフリットは、久し振りに仲間に会えて嬉しそうだ。
アイシャは、少し緊張している。
「諜報員が欲しいのなら、シーフ技能のある奴を、鍛えれば済むだろう」
「そうだけど、ロマンが無い」
情報だけなら、マリアンヌ嬢の商会経由で手に入るが、商人の噂話程度で、精度に欠けて、情報自体遅い。
やっぱり忍者はロマンだ。
異世界召喚の勇者って、俺が初めてではないはずだし、
先輩勇者の誰かが、忍者軍団を組織していたら、嬉しいな。
百地三太夫、服部半蔵、猿飛佐助に霧隠才蔵、風魔小太郎。
あ~どこかに不遇な忍者落ちてないかな~
いたら、全力で保護するのに。
「それなら、『忘れられた大地』はどうだ?
あそこの奴隷にされた獣人たちを、保護したらどうだ?
獣人の身体能力は高いぞ」
俺は嫌そうな顔をする。
魔王を倒した最終決戦の地だ。
居るだけで、言いようのない不快感に見舞われる、長居したくない場所だ。
加えて俺は、ケモナーではない。
どこにでもいる善良なエルフ好きだ。
無理する理由も見つからない。
「今の話で思い出したが、
中央大陸で起こった200年前の戦争で、
ダークエルフの里が戦渦に巻き込まれて、焼け出された。
一族郎党戦火を逃れて、この大陸に移り住んだ。
その隠れ里が、ビザンティンにあるって話だ。嘘か本当か知らないがな」
「へ~へ~へ~」俺はうわづった声を上げた。
((ピック・ピック))
リーフリットとアイシャが、同時に反応した。
「これはもう、人道支援の案件だな」俺はニヒルに決めて立ち上がる。
「ちょっと、待ちなさい!!」リーフリットが、待ったを掛ける。
「まさかとは思うけど、可愛そうな獣人無視して、ダークエルフの保護なんて、言わないわよね」
今度はアイシャが詰め寄る。
「そうか、行った事の無いアイシャは、知らないか。
あそこは、狂人の集まりだ。
虐げられている者も含めてな。
助けた相手を平然と襲う。
可哀そうなんて言っていたら、命が幾つあっても足りない場所だ」
ニヤリと笑って、言葉を続ける。
「しかし、ダークエルフの件は違う。
安住の地を与える代わりに、『精霊樹』の世話をしてもらう。
ネッ、合理的だろう」
「つまり聖樹様のお世話係を探しに行くと。
それで間違いはない?」
リーフリットの言葉に、うんと答える。
「じゃあ、私達が同行しても、問題ないわよね」
ニッコリと笑うリーフリットの言葉に、思わず目が泳ぐ。
あわよくば、ダークエルフのハーレムを。
そう考えていた壮大な計画が、音を立てて崩れ去った。
「話が纏まったようだし、俺は帰るぞ」とミツルギ。
「碌なおもてなしも出来ないで、ごめんなさい。
次は、キチンとおもてなしさせて頂戴ね」
リーフリットの言葉に、
「気持ちだけもらっておく」と言って、ミツルギは去った。
早速、出港と思ったら、まだ、船の名前を決めて無かった。
天使の階級は、上から、熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、天使の順番だ。
人間世界と関りを持つのは、権天使まで、権天使は国と国の指導者の守護者としての側面が強いので、実質、人を守護し導くのは、大天使までとなる。
実際、大天使の逸話は、ヨーロッパ各地にたくさんある。
神の側近の熾天使、智天使、座天使より
自然の運行や神界も含めてた宇宙の運行を、滞りなく管理し、神の奇跡の代行をする、主天使、力天使、能天使より
現場で、人助けに奔走している大天使たちの方が、知名度もあって、親しまれているのは、当然の結果だと思う。
前回、権天使。
大天使では安直だし、天使では味気ない、6枚の翼の熾天使、4枚の翼の智天使では、流石に恐れ多いか。
うんうん、唸って、ふと思いつく。
うる覚えの知識の中に、初期のキリスト教では、天使の事を『アイオーン』と呼んでいた気がする。
音も良いし『天使』に決めた。
俺たち3人は、そそくさと天使に乗り込むと、王都の港まで、一気に転移した。
普通に出ると、護衛艦がつくので、折角の旅が台無しになるから。
王都では、補給と出国許可と隣のビザンティン=ローマへの入国審査の書類を貰いに来た。
「相変わらず、派手な登場ですな」にこやかに法務伯。
「帆が派手だから、目立っただけでしょう」答える俺。
「派手でも、あのような船、羨ましい限りです。
それで、どの様な目的で、ビザンティンへ?」
「観光目的です。あわよくば、東方の香辛料を買い付けられればと、思っています」
「東方の香辛料は高いですからな。お裾分け、楽しみにしています」
「良い物が入りましたら、是非」俺は営業スマイルで答える。
書類も食料、水などの補給も整い、さぁ出発と思ったら、行き先を誰にも告げて無い事に気付く。
慌てて領都に転移して、家宰のセドリックと執事のバトラーに、事情を話して、しぶしぶ了承してもらった。
ビザンティンの帝都まで9日間の船旅だ。
転移魔法が使えれば、こんな苦労はないが、転移魔法は1度行った場所でないと発動しない。
3日目にドズルの港を通るが、無用なトラブルは避けたいので、そのままスルーした。
今回の船旅は、お天気に恵まれた。
俺は、今、釣りを楽しんでいる。
釣れた魚を、活〆(いけじめ)にして、直に刺身にする。
刺身は鮮度が命、にしても、旨い。
魚屋で買うのと、全然違う。
俺は、今まで刺身みたいな物を食べていたんだと、実感する。
これこそが、本物の刺身だと、感動に浸る。
「今度はマグロが食べたい」
魚が苦手なアイシャの発言に、俺たちは驚いた。
「釣れたらな」と俺は返す。
今でこそ、美味しい魚の筆頭のマグロも、昔は不味い魚の代表格だった。
回遊魚であるため、海から釣り上げると、異様に体温が高くなる。
しかも、暴れて血合いも酷い。
肉も高い体温でやけて生臭い、血合いも酷い最低の魚だった。
マグロが美味しい魚になったのは、神経を殺す活〆(いけじめ)が確立した事と、急速冷凍や冷蔵庫が発達した為だ。
これで、生臭くなる原因の体温の上昇を抑えたのが、大きい。
釣り上げたマグロを、暴れなくする神経を殺す活〆(いけじめ)の方法を知らない。
普通の活〆(いけじめ)でいいのか、不安だ。
かなり特殊だと、聞いた気がする、情報の真偽なんて、まったく判らない。
取り敢えず、氷水を用意したが、恥をかきたくない俺は、マグロが釣れないことを、切に願った。
9日目、予定通りビザンティンの帝都に到着した。
入国手続きを終えて、停泊料も含めた必要なお金を払って、
「リーフ、人避けの結界をお願い」
防犯上の観点から、リーフリットに指示を出す。
早速、ミツルギに聞いた場所を目指す。
帝都を出て、徒歩と乗合馬車を乗り継いで5日。
やっと、目的の渓谷に入った。
「止まれ!!ここは、我らの領域、これ以上の立ち入りは禁止する!!!」
男の怒声と共に、高所から、弓矢で取り囲まれていた。
「ここは大人しく、捕まろうか」
アキュフェースは、のんびりと奥さんズに話し掛けた。
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