第52話 漢はダブルトップで決める。
「あら法務伯閣下、宮廷伯とあろうお方が、この様な胡散臭い場所に足を踏み入れて、大丈夫なのですか?」
「胡散臭いか・・お前が言うとは、な」宮廷伯は苦笑する。
「で、今日はどの様な御用で?」
魔族のシャリーは、気にも留めず、言葉を投げる。
「最近、この国では仕事もやりづらいかと、思ってな」
「まあ、確かに」シャリーも歯切れが悪い。
王宮の要人に針を仕込めば、『王の目』機関のミツルギと近衛のナイトハルトが、目ざとく見つけて処理をする。
警戒が厳しくなって、なかなか要人には手が出せない。
では有力貴族はと云うと、使い勝手の良いドズル達は、北の地に押し込められて、自領経営に忙しく、中央の覇権争い処ではない。
ダメ押しで教団の転職システムである。
兵士の質もレベルも上がって、やりにくくてしょうがない。
「そこで提案なのだがな、『忘れられた大地』に拠点を移したら、どうだ?」
『忘れられた大地』
西大陸の北部三国、魔界の門が開いた時、魔王軍に滅ぼされ、最初に犠牲になった場所だ。
かつての魔王軍の拠点が、あった場所。
現在、無政府状態で、略奪暴行が当たり前に行われている。
各国で禁止されている、奴隷売買が行われ、特に、獣人はその犠牲になっている。
あらゆる悪徳が許され、当たり前のように実行される。
瘴気が比較的濃く、荒野となった大地は作物も育たない、その上、高位の魔物が跋扈する。
現在残された地獄の様な場所だ。
「確かに、あそこならはぐれた同朋とも、合流できるかもしれない」
魔族のマチルダは、この話に乗る気だ。
「素朴な疑問なんだが、何故どこの国も領有権を主張しないんだ?」
普段、無口なゴステアが問う。
「費用対効果の問題だ。多くの軍を派遣して、多くの犠牲を払って、手に入れたモノは、野盗と瘴気に塗れた大地だけだ。、作物もまともに育たぬ地を得ても、大赤字なだけだ」法務伯が疑問に答える。
「私らにとっては、願ったりの場所だけど。あんたの狙いは何だい? 閣下」
「我らの狙いか・・良いだろう。
・・我らの宿願は、正統な神たる、あの方を、魔界よりお連れし、あるべき場所、あるべき座、あるべき神になって頂く、その為だけに、友愛評議会はある」
「何かと思えば、闇司祭かい」
「無礼な、正統なる神の使徒である」
「悪かったよ。馬鹿にした訳じゃない、
しかし、これで利害は一緒さ、何かあったら連絡をくれ。
目的の為、向こうである程度の勢力を造っておくさ」
シャーリーたち魔族は、王都から姿を消した。
アキュフェースは、ふと気が付いた。
せっかく造った船「権天使」を、海軍の旗艦として渡したら、自分の遊び用の船が無いと。
そしてあろうことか、海軍から、権天使を『スクーナー』(全て縦帆)から『シップ』(全て横帆)に改装してくれ、と言ってきている。
あいつら、スクーナーの良さが解ってない。
季節風を利用した航海や順風では、シップに軍配が上がるが
逆風や運動性能を含めた取り回しの良さなら、やっぱりスクーナーだ。
車に例えるなら、乗り心地の良い、ライトウエイトスポーツか?
普段は素直なのに、限界まで攻めると、いきなりピーキーのじゃじゃ馬。
これをどう抑えるかが、腕の・・・あ~これ、違う、関係の無い話だ。
そう思った瞬間、リーフリットとアイシャの顔が浮かんだ。
確かに、リーフリットもアイシャも乗り心地が良い。
少し小柄で、従順、限界まで攻めた時の・・・
もう、頭の中はエロ一色、どう峠を攻めるのかと同じ思考で、
どう二人をギリギリ攻めるか、
悶々と、もんもんと、
そんな事ばかり考えていて、この日は仕事にならなかった。
夜は走り屋気分で、二人をギリギリを攻める楽しみを満喫して、心も体もスッキリした次の日、権天使のシップへの改装を始めた。
3本マストのシップとスクーナーでは、メインマストの位置が違う。
3本マストのシップの場合、先頭のマストは2番目に高く、2番目のマストがメインマストで1番高く、後方の3番目のマストが最も低くなる。
マストを移し替える作業が、一番大変だった。
これが終われば、あとは簡単、サクサク作業をして、海軍に引き渡した。
問題は自分用の船だ。
自分用だし、遊び用だし、1本マストのヨットで十分と思っていた。
そしたら、奥さんズ、海軍、家宰のセドリックに反対された。
転覆されたら、困るという事だ。
俺が造ろうとしていたのは、『スループ』というものだ。
ヨットと帆の形が微妙に違うが、見た目ヨットで、10門から20門の小型の大砲を装備できる。
主に護衛艦や海上保安艦として、使われているものだ。
勿論、遊び用なので、武装はしないが。
周囲の猛反対にあって、30メートル級2本マストの『スクーナー』で納得させた。
しかし、30メートル級と云ったら、この時代の中型戦艦クラス。
それを遊び用にして良いの?
大砲を最低20門付けてくれと言われたが、これは、流石に却下した。
遊びの船に、武装は無粋だし、俺自身、戦えるから。
俺を如何にかできるのは、魔王討伐のかつての仲間か、白竜王のハクくらいだ。
LV250 OVERは、伊達ではない。
とはいえ、丸腰なのだから、逃げ足重視で。
そうなると、ウォータージェットしか思い浮かばない。
ウォータージェットまたの名を、ハイドロジェット。
船底から汲み上げた水を、高圧ポンプで、後方ノズルから勢いよく噴出する事で推進力を得る。
推進効率は、スクリューに劣るが、高速での航行に適している。
レジャー用の水上バイクから海上保安庁の高速巡視艇まで、幅広く使われている。
問題は、何処までもつか?これは、実際、造って、要、検証。
そして、船内は、快適装備、テンコ盛り。
キッチン、お風呂、洗浄付き便座トイレ、冷凍冷蔵庫、魔導オーブンにクーラーとヒーター。
広いベットに快適なリビング。
ただ一つ無念なのは、電子レンジが、ないことだ。
無理して料理しなくとも、冷凍食品があれば、レンチン最強!!、だと思う。
出先まで来て、料理って、思うのは、恵まれた環境で育った日本人の発想か。
結局、どちらも無いので、諦めるしかない。
モニターに映し出された海図に、目的地を指示すれば、自動で潮の流れ、風の向きを読んで、最適の帆の角度、舵輪の位置を自動調節して操舵を最適化して、目的地まで自動で運んでくれる。
簡易巡航システムを、毎度ながら、取り付けた。
今回の帆装は、前回『トップスル・スクーナー』だったので、今回は小さな横帆2つで。
正式名称『ツートップスル・スクーナー』又は『ジャッカス・ブリック』
ここは敢えて、ダブルトップと呼びたい。
ワントップより攻撃的だし
ツートップよりダブルトップの方が、格好いいと思ったから。
先頭の横帆には、家紋の『アルメニア藤』を。
2本目のメインマストの横帆には、エストニア王国の国旗を、それぞれ描く。
そうなると、縦帆が白なのも味気ない。
縦帆のデザインは、アイシャに任せる事にした。
「アイシャ、競技用ヨットみたいな、派手なデザインにして欲しい」
俺のムチャぶりに、少し考えて。
「2~3日、待って」と言って、自室に引っ込んだ。
次の日、数枚のスケッチを持って、リビングにアイシャはきた。
持ってきたスケッチに目を通すと、どれも良い。
結局、アメリカ西海岸のヨットでありそうなデザインに決めた。
早速、クリエイトスキルで縦帆にデザインを転写して、船に取り付けた。
白い船体に金の縁取り、如何にも道楽貴族の船という感じだ。
ドックを出て、軍港に進水する。
リーフリットとアイシャを呼んだ。綺麗どころ二人を従えての処女航海だ。
「御屋形様、護衛は?」
ガーネットの問いに、要らない要らないと返すと、船にさっさと乗り込んだ。
ガーネットたちを無視して、巡航システムを起動させる。
船は錨を上げ、ゆっくりと港を出港した。
「サンタマリア号の出港準備して」ガーネットが指示を飛ばす。
「少し過保護すぎやしないかい」サマンサが苦笑する。
「いくら何でも、護衛艦1隻も付けないなんて、あり得ないでしょう」
「わたしゃー、あのメンバーを如何にかできる者を見てみたいね」
「見失う前に行くわよ」ガーネットは、命を下す。
ガーネットたちは、タービンエンジンを使い追いついた。
アキュフェースはたちは、巡航システムの具合を確かめる様に、のんびりクルージング中だ。
「しっかし、派手な船だな」サマンサは、呆れた様に言う。
「でも、これはこれでアリよね」と、ガーネット。
「なあ、前に廻って観てみないか」
「航行の邪魔にならない?」
「大丈夫だって、シップとスクーナーじゃ、風の受け方が違し、コース取りも違う。そもそも、そんなヘマしないって」
そう言って、クルーに指示を出す。
航行の邪魔にならない位置取りで、前に出る。
「派手だけど、アリだ」前から見たサマンサの台詞。
「でも、御屋形様って、何気にスクーナー好きよね。
前は、トップスル、今は、ツートップスル。結構、マニアックよ」
「あれで、普通のスクーナーは、造ってないんだぜ」
「言われてみれば、確かに。マニアックな物しか造っちゃいけない病かしら」
「かもしんね~な」
二人は護衛対象を肴に、笑い転げていた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークの登録と
☆☆☆☆☆に、面白かったら★5つ頂けると、今後の励みになります。
この作品が、明日も頑張れる一助となりますように
あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




