第50話 縄張り争い
あの冒険者流入騒動も、1月も経つと落ち着きを見せ始めた。
朝食を済ませリビングで寛いでいると、家宰のセドリックが慌てた様子で入室してきた。
「ファルムス王国からの書簡です」
定期的に行っているシスアの森のレベリングの申し合わせか。
いつもの事なので、セドリックの慌てぶりが、理解できない。
書簡を開くと
『危険度Sのシスアの森での単独演習は国防上の理由から許可出来ない。
但し、貴国との友好の為、ファルムス王国、王国騎士団との合同演習であれば、
これに招待するものとする。
ファルムス王国騎士団総帥 ラルフ・セルゲイ』
「何だこりゃ」思わず口に出た。
いつもなら、大量の金品を渡して、単独演習だったはずだ。
執務室に移動して、騎士団長のフランツを呼ぶ。
セドリックの説明だと最近、世界中で起きている『縄張り争い』の影響だろうと云う。
転職システムが広まるにつれて、レベルアップやスキルアップは、魔物討伐が1番効率が良い事が知れ渡った。
今まで冒険者に丸投げしていた魔物討伐を、王国騎士団や貴族の私兵が、我先にと魔物狩りを開始する。
そうなると、今まで冒険者の狩場として認めていた場所で、権威と権力に物言わせて、狩場を独占したり、荒らしたりして、冒険者との間に深刻な縄張り争いが起きている。
それだけでも頭が痛いのに、教団までもが『魔物被害からの人類の救済』を掲げて、魔物狩りに参戦している。
教団の場合、教団の神官限定の隠しジョブがある。
回復術士をマスターにすると、隠しジョブ『武闘僧』が解禁される。
次に武闘僧を選べば、上級職は、男なら『聖者』女なら『聖女』
武闘僧ではなく戦士を選べば『聖騎士』
教団としては、悩み処だが、一人でも多くの聖者、聖騎士を揃えたい、教団の思惑が、更に事態に拍車をかけた。
「この書簡も、この流れでしょうね」とセドリック。
(神様の狙い通りなんだけど、やけに殺伐としているね)
そんな事を考えていると、フランツが入室してきた。
フランツに書簡を見せて、意見を聞く。
「フランツ、ファルムスの王国騎士団は、単独でシスアの森の魔物を狩れる程、優秀なのか?」
「恐らく無理だと思いますよ」
「では、何故こんな事を云ってきたと思う?」
「あくまで主導権を握って、うちに王国騎士団のレベルアップの世話をさせたいのでしょう」
「そういう事なら、やりようはあるか」
約束の合同演習の日、アルメニア騎士団は、シスアの森の入口で陣地の設営をしていた。
すると、セルゲイ総帥がにこやかな顔で、陣中に挨拶に来た。
「これは、セルゲイ閣下、こちらから出向かなければいけない処を。
わざわざのお越し、痛み入ります」
アキュフェースは、セルゲイに握手を求める。
「こちらこそだアルメニア侯、一騎当千の貴公の騎士団が協力してくれるのは、有難い」
「過分のお褒め、痛み入ります」
アキュフェースは、にこやかに返す。
「アルメニア侯、今回はどの様にする、おつもりか?お聞かせいだだけるだろうか?」
「基本的には、変わりません。
私たちが、瀕死状態まで削りますから、とどめを閣下の隊が引き受けて頂ければ結構です。
うちも今回はお荷物を抱えていますから」
「フゥ、貴公もか、相手が教団だから、文句は言えんが、お互い頭の痛い問題だ」
そう言って、セルゲイは去って行った。
今回は出鼻から、予定と違っていた。
当初の予定としては、セルゲイ閣下が、横暴だったり、無能で足を引っ張るようなら、サッサと帰還して、ファルムス王と交渉して、自分に有利な条件を飲ますつもりでいた。
場合によっては、危険度Sの領域は、他にもある、それをチラつかせて。
それを視野に入れて、交渉するつもりでいたのに。
しかし、王都のグランシール大聖堂の大司教からの依頼で、演習には領内の神官を同行させるように、と云うお達しがあった。
お陰で、領内の半数の神官が同行している。足手まといが、多すぎる。
ファルムス側も、事情は同じようだ。
こうなると、真面目にやるしかない、教団絡みだし。
嬉しい誤算は、セルゲイ閣下が、少しは話の分かる人のようで、助かったと云う処だ。
まず、ファルムスと神官たちを、10人の部隊に分ける。
俺たちが、瀕死状態まで削り、とどめをファルムスと神官たちに刺してもらう。
当然、レベルアップ酔いを起こすので、ファルムスと神官たちは交代して次へ。
その作業を延々繰り返す。
「もうヤダ、もう魔物なんて、見たくな~い」魔法戦士のローザが、弱音を吐いている。
気持ちは判る、俺たちは休みなく、夕方まで、魔物を狩り続けている。
流石に嫌気もさしてくる。
ファルムス騎士と神官は、全員レベルアップ酔いで倒れている。
本日の演習の終了を宣言して、夕食の準備を始めた。
三日も過ぎると、レベルアップ酔いが、大分減ってきた。
流石に普段から鍛錬している、ファルムス騎士たちは、もう大丈夫だが、神官たちの半分以上が、未だにレベルアップ酔いに悩まされている。
「アルメニア侯、儂も戦士がマスターになったし、他にもマスターになった者たちがいる、一度神殿に行って、転職したいのだが」
「それは構いませんが、演習は明日までですよ」
「ここでやめるのも勿体無いと、思わぬか?
出来ればあと4日、いや3日、何とかならぬか?」
忘れていたが、騎士団って、基本脳筋の集まりだ。
「私の一存で決めたら、部下たちに恨まれます。
少し相談してきて良いですか?」
みんなを集めて意見を聞く。3日なら、という事で決まった。
フランツの提案で、新規のメンバーをここで帰して、
比較的強化の遅れている海兵と入れ替えてはどうか?
俺はフランツの意見を採用した。
そのことをセルゲイ閣下に伝え、食料の用意もないので、手配してもらえるよう頼んだ。
「任せておけ。アルメニア侯には旨いファルムス料理を食べさせてやろう」
そう言うと、上機嫌で神殿に向かっていった。
俺は新規のメンバーを帰し、その分海兵を連れてきた。
それから3日、約束の最終日だ。
「のうのう、あと3つでスキルレベルがマスターなんじゃ。
あと3日、あと3日だけ何とかならんか?」
詰め寄るセルゲイ閣下。
「ダメです。これ以上は、他の予定に支障をきたしますよ」
「では、来月、来月はどうか?」
今まで、2か月に一回だったのに・・・
結局、セルゲイ閣下の圧に負け、来月、合同演習を行う事を了承した。
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