第49話 転職システムの影響
エストニア王国アルメニア州領都グランバニアと西の支城府リーフリンクの東西の神殿は、冒険者でごった返していた。
この州にこれだけの冒険者が居るのが、極めて異常事態と云えた。
何故なら、かつてはアルメニア州は、高位の魔物が跋扈する魔境と化していた。
勇者アキュフェースを中心とした魔王討伐組が、魔物を狩りつくし、州内のダンジョン核も全て破壊した。
ダメ押しに、瘴気を正常化する精霊樹を植えた為に、魔物が全く涌かなくなった。
しかも積極的に山賊を狩るものだから、平和ボケするくらい治安が良い。
おかげで冒険者は稼げない。
ここでは、低位の冒険者が、薬草採取や商隊の護衛などで稼いでいるくらいだ。
ほとんどの冒険者は、実入りの良い魔物討伐や賞金首の山賊退治など、稼げる場所を求めて移動する。
「凄い光景だな」アキュフェースは他人事のように呟く。
「他人事ではありませんよ。治安の悪化さえ懸念されるのですから」
家宰のセドリックは、真面目に答える。
そもそも『転職の宝珠』は、1万人以上の都市にしか配布されていない。
宝珠の絶対量が足りないのだ。
「教団が身内の神官を優先して転職させたのが原因だろ?」
「あと王国騎士団や貴族の私兵たちが、権力に物言わせて殺到しました」
「あおりを喰らった冒険者が、比較的、暇なうちへ殺到したと」
アルメニア騎士団は、文殊の下位互換転職システムで転職済みなので、
まだこの時点では神殿を利用していない。
「遺憾ながら、そうなります」
「今思い付くのは、精霊樹の警備強化と巡回の回数を増やす事と増員かな。
うちの衛兵、結構、強いし、C級以下なら相手にならないと思うけど」
セドリックは、溜息を付いて、早速、手配しますと告げた。
外の様子が気になって、冒険者スタイルで繁華街を散策した。
元々、アルメニア州は、交通の要衝、繁華街が賑わっているのは、普通のことだ。
しかし、ここ数日は何時にもまして、騒がしい。
原因は、冒険者の大量流入。
冒険者だってピンキリだ、荒くれ者から紳士な者まで。
俺は適当な居酒屋に入り、エール酒と適当なつまみを注文して、聞き耳を立てる。
「ジャックは結局、何にしたの?」
「戦士だよ。そういうマリーは弓使いか?」
「何でよ、回復術士よ。ジャックとロバートの脳筋コンビが居るんだもの。
私が回復役やらなくて、誰がやるの」
「お前がやらなくても、アンが居るぞ」
「ゴメン、私、シーフ」
「じゃあ、ロイドはなんだ?」
「魔術士だよ」
「けっ、軟弱な、ロバートお前は戦士だよな」
「・・・モンクだ。文句があるなら相手をするが」
随分バランスの良いパーティーだな
申し合わせ無しで、ここまでバランスの良いチームになるのは、そうそうない。
かつての魔王討伐メンバーの事を、懐かしく思い出しエール酒を呑む。
あの頃、結構大変だったけど、楽しかった、かな。
仲間たちと冒険の旅に出る、羨ましいなと、思ってしまう自分が居る。
「なんだと!!もう1辺言ってみやがれ!!!」
突然の酔った男の怒声で、何もかも台無しだ。
「ったく、酒くらい気持ち良く吞ませろよ」
俺は悪態をついて、喚き散らしている男のもとへ行く。
「まあまあ兄さん、怒っていたらせっかくの酒が不味くなりますよ。
私が一杯奢りますから、機嫌を直して飲み直してくださいよ」
そう言って、大銀貨(約1万円)1枚をだす。
自分で言ってて、何だけど、この三下感は何?
颯爽と現れて、カッコイイ台詞を決めて、颯爽と去る予定だったのに。
台詞も態度もパシリのチンピラじゃん。
俺は心の中で、頭を抱えた。
「なんだ、てめえは」ガタイの良いオッサンが睨む。
俺は、満面の笑みでこたえる。
「関係ない奴は、引っ込んでろ!!!」
正にテンプレ、オッサンの右ストレート。
俺は、オッサンの拳を掴んで、そのまま背後に回り、腕を捩じ上げる。
「小僧!!!こんなことして、只で済むと思うな。痛っ」
「他のお客さんに迷惑です。お酒は楽しく呑まなくちゃ」
良いタイミングで衛兵がきた。
「ここか騒ぎのあった店は、ここか」
「ここです。兵隊さん」
衛兵は俺の顔を見る。
「ん!!おやか」
俺は、唇に人差し指を立てて、シーのポーズをした。
「・・・ご協力に感謝いたします。アーデルハイト殿。
余計なお世話かもしれませんが、早目に帰らないと奥方が、角だしますよ」
「この時間なら、まだ大丈夫だろう。
それよりやけに対応が早かったけど、こういった揉め事は多いのかい?」
「これで12件目です。詰め所の牢屋が、酔っ払いだけで、一杯になりそうです」
衛兵は乾いた笑いを浮かべる。
「では、良い夜を」
そう言って、衛兵たちは帰って行った。
しかし、よりにもよって、アーデルハイト(貴族)は無いだろう。
もっと気の利いた偽名にしてくれ。
それなら、ルッツ(戦士)の方が、良かったな。
「アーデルハイトねぇ~」
気が付くと、さっき隣で呑んでいたジャックと云ったか、戦士がニヤニヤしながら、俺を見ている。
「やるねぇ~兄さん、こっちに来て一緒に吞まないかい」
断る理由も無かったので、誘いに乗って席についた。
「俺は、ジャック、銀のたてがみのリーダーをしている。
時計回りに、回復術士のマリー、モンクのロバート、シーフのアン、魔術士のロイドだ」
「アーデルハイトだ。アディと呼んでくれ」俺は偽名を名乗る。
「アディ、アンタ冒険者かい?」
ジャックの質問に『元だ』と答える。
「親父が死んで、家業を継いだ。冒険者を辞めて久しい(大嘘)」
「でもサッキの立ち回り、現役の一線級よ」とマリー。
「御冗談、俺の現役時代の最高位C級だぜ(更に大嘘)」
「それにしても隙が無い」モンクのロバートが唸る。
「アディ、うちに入らない?」シーフのアン。
「御誘いは嬉しいけど、家業を放り出す訳にはいかないから(嘘に嘘を重ねる)」
「なんだ、残念。」と、アン。
「正直、あんた達を羨ましく思うよ。(これは、本音)
そんなことより、あんた達の冒険譚を聞かせてくれないか?」
これから1時間ほど、彼らの冒険譚に花が咲き、大いに盛り上がって、楽しい時間が過ぎた。
「あ~、やっと見つけた」
その声に振り向くと、ガーネットとサマンサがいた。
ヤバイと思ったけど、もう遅い。
「探しましたよ、御屋形様」
「こっちは余計な仕事に駆り出されているのに、良い身分だな、御屋形様」
サマンサは、余計な仕事を押し付けられて、機嫌が悪い。
「人手が足りなくて、海軍からも人手を出しています。
明日、フラシスコとパンザがリーフリンクに応援に行くそうです。
それから、言い訳は後ろの御二方にしてくださいね」
ガーネットの指さす方角に、腕を組み、仁王立ちしたリーフリットとアイシャの姿があった。
「アディって何者なの?」アンは、ガーネットに疑問を投げかける。
「アディ?この方は、アルメニア侯アキュフェース、この州の御領主様です。
戸口にいる御二方が奥方様です」
「只者じゃないと思っていたが、正真正銘の英雄か」ジャックは思わず呟いた。
二人の奥さんに連行されるアキュフェースの姿を見て
(稀代の英雄も女房には頭が上がらないてかぁ。ざま~ねえなぁ)
ジャックは、自分の事を大きく棚上げにして、残ったエール酒を飲み干した。
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