第46話 アイシャのわがまま
「ボクも上位職になりたい」
居城のリビングで、朝食を食べ終え寛いでいると、アイシャのこの一言で、今回の騒動が始まった。
『転職システム』は、魔王討伐の特典で貰ったチートスキルの様なものだ。
ステータス補正のある転職システムの戦士と、普通の職業としての戦士や騎士では、同じレベルでも実力的に10レベル位の差はある。
転職システムのステータス補正と強力なスキルの差が、そのまま実力の差に成る。
アイシャ自身、基本職を全てカンストして、レベルも限界突破のレベル100越えだ。
アイシャに勝てるのは、魔王討伐に参加したかつてのメンバーだけだ。
「無理して上位職に成らなくても、アイシャに勝てる者なんて、そうそう居ないぞ」
俺は、アイシャの説得を試みる。
「判って無いのは、そっち!!!
リーフやダーリンは、上位職カンストしてるのに、
私だけ、除け者じゃない!!!」
俺とリーフは顔を見合わせて、溜息を付いた。
魔王が討伐されて、平和になって、上位職のスキルがいるか?と問われれば
要らない、が答えだ。
基本職のスキルだって、十分チートなのだ。
文殊も、正規の端子は、人数いっぱいで、新たに繋げる余裕はない。
だから、兵士の強化の為に、人数制限のない下位互換システムを繋げたのだ。
基本職限定になるけど。
アイシャも十分承知してると、思っていたのに。
「どうせ僕は、除け者なんですぅ~
日陰者に価値なんてないんですぅ~」
”カチン”
「俺が何時そんな扱いをした。
俺が何時、お前に価値が無いと、言った!!!」
気が付くと、俺はアイシャの肩を掴んで、怒鳴っていた。
「痛!!何マジに成っているのよ。
言い過ぎた。反省してる。だからゴメン」
「アイシャ、お前の両親は何人だ」
「??、2人だけど」
「お前の爺さん婆さんは、何人だ」
「4人よ。いったい何なのよ」
「曾祖父母は8人、4代前は16人、5代前は32人、6代前は64人、7代前は128人
8代前は256人、9代前は512人、10代前は1024人。
成人してリタイヤするまでの期間を、平均、1世代30年として
僅か10世代、僅か300年遡っただけで、総数2046人、1023組の夫婦の誰か1人欠けても、お前は生まれてきてない訳だ」
「エルフは、1世代30年なんて短く無いわ」
「人間基準で言った。長くても何も変わらない。
普通先祖と云えば、父方の一本線だけだけど。
実際にはこれだけ居るんだ」
「だから、何なのよ」
「僅か10代遡っただけで、2046人だ。
お前一人を生み出すのに必要とした人達だ。
この中の一人でも欠けたら、今、お前は存在していない。
この中には、良い人、悪い人、敵同士も居たかもしれない。
でも、この人達の想いを受け継いで生まれてきたんだ」
「それは判った。それで何が言いたいの?」
「冗談でも、自分を『無価値だ』なんて言うな!!!
これだけの人数の想いを受けて生まれてきて、無価値な訳、無いだろう!!!
本当にそう思っているのなら、よっぽどどうかしてる。
随分、独り善がりで傲慢だ。何より、この人達の冒涜だろう」
「そこまで言う!!この理屈屋!!!」
そう言って、アイシャはリビングを出て行った。
「言いたい事は判るけど、他に言い方があったと思うわ」
リーフリットが、呆れながら言う。
「言い過ぎたかな?」
「これが、何処かの講演で話したのなら、きっと心に響いたでしょうね。
でもこの場合だと、反感しか買わないと思うわ」
俺は頭を掻きながら
「謝るにしても、時間を置いてから、かな?」
「言いたい事は判るけど。言い過ぎよ。言葉は選んでね」
リーフリットの言葉に、ハイとだけ答えた。
午前中に必要な書類仕事を済ませると、東区の神殿を訪れていた。
東区の神殿は、創造神を主祭神として祀られているからだ。
こう書くと他の神々は祀られていない様に感じると思うが、他の神々も配神として祀られている。
この世界の主だった神は、8柱、
創造神、大地母神、戦神、海王神、商業神、技能神、魔法神、生命・死・輪廻の神
その下に、地元の土地神が信仰されている。
教団の神殿で、どの神を主祭神にするか、配神とするかは、土地の有力者や神殿を管理する司祭、司教の判断に委ねられる。
因みに西区の主祭神は、商業神だ。
創造神とは、勇者召喚の折、会っている。
しかし、こんなショーモナイ事で、創造神とお会いできるとは、思っていない。
ダメ元で、祈りを捧げに来た。
中央に座する創造神の像に、膝を折り祈りを捧げる。
まず、日々の恵みに感謝してお礼を言い、願い事を述べる。
白い靄が晴れ、目の前に白髪の老人が経っていた。
長い髪、長いひげ、白いローブ、神話でよく描かれる神様らしい神様だ。
「久しいな、アキラよ」
「今は、アキュフェースです。神様」
「そうだったな、元気そうで何よりだ」
「実はお願いがあって参りました」
「文殊の件なら、無理じゃ。そもそもお前さんのレベルが足りん。
文殊のパワーアップだけなら、可能じゃが、お前の身体がついてゆけん。
まともに機能するか、さえ、疑わしい」
まあ、そうだろうなと思っていたんだ。
「この件、儂に預けてくれぬか?」
「構いませんが、何故でしょうか?」
「復興もある程度進んだ、平和なエストニア王国いるお主には、実感ないかもしれんが、他国では、まだ魔族の残党や強い魔物被害が多発しておる。
討伐部隊を派遣しても、死傷者の被害が甚大だ。
そこで、お前さんのやっていた、下位互換の転職システムを神殿でやらせようと思っての。
今は技能神が、転職の宝珠造りで大忙しだ」
「上位職の件はどうなりますか?」
「それは条件を満たした者が、『試練の塔』に挑めば良いだろう。
優先順位は、基本職を普及させるのが、先に成るが」
「構いません。朗報です。きっとアイシャが喜びます」
「試練の塔を造る際は、お前さんにも協力してもらうが、異存はないな」
「はい、構いません。ご連絡をお待ちしております」
「準備が出来次第、神託を降ろそう。
この件、確と頼んだぞ。そろそろ時間だ、現世に戻ると良い」
目を開けると、神殿の創造神像の前、一礼してアキュフェースは神殿を後にした。
居城のシュヴェリーン城(偽)に戻り、残りの仕事をかたずけ、風呂も食事も済ませて、これからは、夫婦の時間。
俺たちの寝室は天蓋付きのキングサイズのペットが置かれ、中央に俺、左隣にリーフリット、普段は右隣にアイシャが居るのだが、今はいない。
アイシャの自室にも天蓋付きベットが有るので、絶賛引きこもり中だ。
「~と、云う事があったので、リーフからアイシャに伝えて貰える?」
「構わないけど、あなたが伝えた方が良いと思うわ。
それに上位職なんて、どうでもいいと思ってるはずよ。
あなたに甘えたくて、拗ねて見せたら、喧嘩に成って、あの娘も面食らっているはずよ」
「そんな難しい愛情表現されても、・・俺にはわからん」
「最低限理解する努力はしてね。
まあいいわ、今日はアイシャの分も受け止めてあげるわ」
ここからは夫婦の時間、閑話休題。
ベットの真ん中で、幸せそうに寝息を立てているアキュフェースを、恨めしそうにリーフリットは睨む。
(冗談でもあんな事、言うじゃ無かった)
正直、5回目以降は覚えてない。
正直、気持ちよかった。
(でもね、でもね、モノには限度と云う者があるの。
このままじゃ・・私の体が持たないわ!!!
お願いアイシャ、早く仲直りして、私が壊れる前に
お願いアイシャ、半分受け持って~
アイシャだったら、アイシャ7で、私3でも構わないわ。
私の為に、早く仲直りして~)
リーフリットは、朝一番に二人を仲直りさせようと、心に誓った。
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あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




