第44話 ただ褒めなさい
俺は、新しく加わった海軍メンバーと古参のメンバーにアルメリアに帰国の指示を出す。
カイエンブルグ州の総督府を訪れ、領国への帰国の挨拶をする。
「殿下、この度はお世話になりました。お陰様で、こちらの受け入れ準備が整いました。
これも殿下の御厚情の賜物と、深く感謝いたします」
「随分と早い、早くても1年は掛かると思っていたが。
準備が出来ているのなら、僥倖だ。気を付けて帰るといい」
規模は、現代の神戸港並みの広さを誇るが、堤防と軍用の波止場と岸壁だけしか、完成してはいない、スカスカの状態ではあるが。
「この御恩は、別の形でお返しします」
アキュフェースは、そう言って退出した。
権天使を含めた4隻が、グランハウゼンの港を出港する。
試験用の船は、敷石を通常通りにして、王弟殿下に進呈した。
商船としても人気の高い船だから、使い道もあると思う。
久しぶりの権天使の甲板で、風と潮の香りを楽しんで、一足先に転移魔法で帰ろうとしたら、ガーネットに呼び止められた。
「少し相談に乗って欲しいのですが、宜しいでしょうか?」
「俺で力に成れるなら、構わないが」
「御屋形様、何故、私が海軍司令なんでしょうか?
兄さんやサマンサの方が、よっぽど優秀です」
「ガーネットは、海軍司令が苦痛なのか?」
「苦痛と云うより、申し訳なくて。
私より優秀な人を差し置いて、私が海軍のトップなのは、納得できません」
確かに、フェリペ、サマンサに艦なり艦隊なり預けても、不安な要素は一つも無い。
フェリペ、サマンサ、フランシスコ、パンザ、この4人は極めて優秀だ。
ガーネットが、実力で大きく離されて、委縮するのもわかる。
「俺はガーネットが海軍司令で、問題ないと思うが」
「・・・・」
「フェリペ、サマンサ、フランシスコ、パンザ、アイツ等極めて優秀だ、
しかし、揃いも揃って我が強い。
ガーネットなら、組織の良い潤滑油になると思ったのだが」
「潤滑油ですか・・・」
納得いってない様子だ。
「納得してない顔だが、まず、騙されたと思って、凄い奴を褒めてみな」
「褒めるですか・・・」
「ガーネットは、美人だから、効果は絶大だと、思うぞ」
ガーネットは、耳まで赤くして
「なぁ・・!!!」
その反応を見て、俺は軽く笑う。
「揶揄ってる訳じゃない。これは、俺自身の課題でもあるんだ。
人は遠くの人を褒めることは、簡単にできる。
例えば、俺たちパーティーの魔王討伐」
他には、ワールドカップの優勝、オリンピックの金メダリストなど。
「しかし、周囲を見渡せば、身近にいるチョット凄い人は大勢いる。
料理の上手い人、歌の上手い人、裁縫の得意な人、計算が早い人など。
それを素直に『凄いですね。』と褒められる人は、少ないんだ」
ガーネットは、黙って聞いている。
「人は自分を認めた人の処に集まるんだ。
身近な人を『只、心から褒める。』これが出来ない人が多い。
できないのは、『己の心の狭さと嫉妬心』が原因だ」
これは、自分にも当てはまる。
「フェリペのように統率力がある、サマンサのように的確な判断が出来る。
それは、『自分が褒められる』努力だ。
ガーネットが苦しいのは、『自分が褒められる』努力をしているからだ。
フェリペやサマンサと自分への差に、心苦しいだけだ」
「そうかもしれませんね」ガーネットは、下を向いたまま答える。
「それが悪いわけじゃない。
ガーネットの場合、人の上に立つのだから、『自分が褒められる』努力をしてはいけない。『人を褒める』努力するべきだ」
上手く伝わってるか、不安だ。
「例えば、王様が、天下無双の武将を雇う時、王様が、武将と同じレベルの強さが必要だと思うか?」
「・・・必要ないと思います」
「その通り必要ない。
王様に必要なのは、相手を認め『卿は凄いな。卿が我が国に来てくれて、本当に心強く思う。』と褒めて、自分より優れた者を認める度量と、それに見合うだけの十分な報酬を与える事だ」
「私は・・現場指揮官で、王様ではありません」
「何も変わらないさ。
まず、自分より出来る奴を必ず褒めろ。
フェリペ、サマンサ、フランシスコ、パンザの4人は絶対、褒めろ。
それが出来たら、自分と同レベルの者も褒めなさい。
チョットした特技でも良い。 折に触れ褒め倒せ。
最後は、自分より下のレベルだ。
真面目にやってるでも、コツコツ努力しているでも良い。
良い所を見つけて褒める努力をしなさい」
「それで、何か変わりますか?」
「ああ、変わる。人は、自分を認めた人の為に働くものだ。
10人褒めたら、10人がお前を支え、20人褒めたら、20人が支えてくれる。
働く者の1番の不満は、自分を認めてくれない事だ。
安い給与、クソ長い労働時間、嫌な上司と色々あるが、1番の不満は、自分の労働の成果が、キチンと評価されない事だと思う」
「そうですね、そこは、分かります」
「ガーネットと話していて思い出した。
今のガーネットに必要な言葉を送ろう。
『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ
褒めてやらねば、人は動かじ』(山本五十六)」
「至言ですね。誰の言葉ですか?」
「山本五十六、俺の故郷の連合艦隊司令長官の言葉だ。
この言葉には続きがあるが、全文で聞くかい?」
「お願いします」
「『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず』
俺がガーネットに期待してるのは、優秀だが、我の強い面々を、褒めてプライドを満足させて、上手く使ってくれ、という事だ」
「良い事言ったと、感心したのに、結局、無茶ぶりじゃないですか」
ガーネットの頭に手のひらを乗せ、頭をなでる。
「ガーネットなら、出来るって。
実務の方はサマンサとフェリペがフォローしてくれるだろうし、何も問題ないと思うぞ」
「問題ありますよ」
「自分を只のお飾り、只の神輿と自覚して、神輿に徹する度量がある奴が、少ないんだ。
器の小さい奴ほど、自分を大きく見せたがる。
俺は、ガーネットなら、みんなが担ぎたがる神輿に成れると思うけど。
後は、担ぎ手に感謝して、褒めてあげれば、万事うまくいくと思うぞ」
「何かいいように丸め込まれた気分です」
そう言って、ガーネットは、プイと横を向いた。
ふと、思い出して蛇足かもしれないと思いつつ、つけ足した。
「だからと言って『なめらるなよ!!』」
なめられて、成功した者も、幸せに成った者も、世の中存在しない。
「虚勢を張れという事ですか?」
「違う違う、威張り散らせという事じゃない!!
威張り散らしている奴は、舐められない様に、必死で小さい自分を守っているだけさ。
自分の言葉で言いやすい様に変えて良いから。
『威張ってはいけない。舐められるのは、もっといけない。』
これを心の中で10回唱えて事に当たれば、自然と最適解の振る舞いが出来る様に成ってゆくさ」
「何か胡散臭いです」
「騙されたと思ってやってみな!!騙されたら、その時はその時さ」
ヘタクソなウインクをカーネットに贈る。
「御屋形様が、私を揶揄っているのが、良く分かりました」
そう言って、あかんべーをして去って行った。
この話には、後日談がある。
最初は、女の命令何て聞けるかと、息巻いていた2個傭兵団も、ひと月も経たない内に、軍としての纏まりを見せ始めた。
結果は、アキュフェースの予想の斜め上の結果だったが。
ガーネットは、事あるごとに、分け隔てなく海兵たちを褒めた。
自分の技量や小さな特技を褒められて、悪い気のする奴はいない。
女の命令何て聞けるかから、フェリペに言われるよりマシになり。
騎士になったら、結婚を申し込むんだという、単純馬鹿が増殖した。
人手不足で新たに新兵を雇い入れ、新兵の厳しい訓練にも、影に日向に声援と励ましを送る、新兵の間では、ガーネットは、女神と等価だ。
この人の為なら死ねるという、阿呆がドンドン増える。
悪い虫が付かない様、目を光らせてるフェリペは、完全に悪者だ。
シスコン・フェリペと陰口を叩かれる始末だ。
ガーネットが、誰かと結婚したら、この海軍、空中分解するんじゃないかと、アキュフェースは、本気で心配した。
美人で気立ての良い人の励ましと誉め言葉が、ここまで効果のあることに、空恐ろしさを感じたアキュフェースだった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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