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第43話 漢を掛けた帆船レース

 港の準備も、軍港部分だけは終わり、海龍の牙の面々を迎えに行けば、トラブル発生。


 今回の海賊討伐で、功績があった海龍の牙の面々の中から、責任者3名を騎士に任じた事が、そもそもの原因だ。

 あいつ等で良いのなら、俺たちの方が良くないか?

 そう云う連中が、自分たちを売り込みに来ているという。

 言葉通りの実力なら、採用したいが・・少し図々しいよね。


 そこで、1週間後、採用試験をやる事にした。

 試験用の船も製作した。


「これが試験用の船ですか?」フェリペの言葉に、そうだ、と応じた。


「やけに吃水が浅い気がするのは、気のせいかい?」


 サマンサの言葉に、良く気付いたなと応じた。


 30メートル級のプリッグ、2本マストで、前後とも横帆のタイプで、商船としても人気の高い船だ。


「こいつは、敷石の量を、通常の半分にしてあるんだ。ついでに10門の12ポンド砲も装備した」


「御屋形様、鬼ですが、只でさえ安定しない船に、武装まで施して、沈んでくださいと、言ってる様なモンじゃ無いですか」


「何言ってんだ。これくらい出来ない様じゃ、話に成らない。お前たちに模範航行してもらうからな。しっかり練習しておけよ」


「鬼か、無茶ぶりが過ぎるだろう」


 フェリペは頭を抱えたが、クルーに命じて、練習航海を始めた。


 帆船と云うのは、建造して、そのまま海に浮かべれば、横倒しに成って転覆する。

 なので、船の最下層、中央から後部に掛けて、重しとして石を引き詰め、ある程度の吃水を得て初めて安定する。

 只でさえ安定しない船に、武装の大砲が加われば、ヤジロベーと同じに成って、艦は安定しないのだ。

 

 今回の試験用の船、滅茶苦茶操作しずらい上に、武装の大砲まで、意地の悪さ全開の仕様だ。


「大口叩いた連中が、どのくらい生き残れるのか、ふふふ、実に楽しみだ♪♪」


 地上に残ったガーネットは、ドン引きしていた。





 いよいよ海兵募集の試験の日だ。

 会場は、グランハウゼンの港をお借りして行う。


 快晴の上に、風の具合も丁度良い、絶好の試験日和だ。


「私は、アキュフェース・フォン・ワント・ツー・アルメニア

 陛下より、侯爵の地位を賜っている新興の貴族だ。

 今日は、アルメニア海軍の海兵募集に応じてくれた事に、深く感謝する。

 試験を行い、合格した者は、従士として採用される。

 今後の手柄次第では、騎士への道も開けるだろう。

 諸君の奮起に期待する」


 男たちの歓声が港を包む。


「ガーネット卿、試験を始めてくれ」


 ガーネットはうなづいて、試験の説明を始める。


「私は、ガーネット・フォン・レイトローゼン

 閣下より騎士に叙勲され、この海軍の司令を任されている。

 試験自体は簡単だ。

 港を出て、防波堤の外に見える2つの赤いブイを、8の字に廻って、港に戻るだけの簡単なモノだ。

 但し、船は試験用の船を使用してもらう。

 敷石を通常の半分にした、特別仕様だ。

 ついでに、12ポンド砲を10門サービスしてある。

 全ては、諸君の腕次第だ。諸君の検討を期待する」


 会場が騒めいた、当然である、操作性が悪い上に、いつ転覆してもおかしくない仕様なのだから。


「随分、意地の悪い船を造った物だな」


 俺の後ろから、カイエンブルグ公が声を掛ける。


「殿下、港をお借りしてます」


「それは連絡も手続きも済んでいるから構わんが。

 あの船では、2割合格すれば、御の字だろうな」


「2割ですか?・・3割ぐらい生き残ると思っていたんですが、見通しが甘かったかな」


 そんな話をしていると、うちの海軍による模範航行が始まった。

 何事もなかったかのように、船を操り、規定の場所で8の字を描く。

 普通の船の普通の操船に、会場内は安堵の空気に包まれた。


 1組目の傭兵団が、船に乗り込み操船を開始した。

 港の中でいきなり全部の帆を張る、馬鹿な真似はしなかったが、姿勢が安定せず、フラフラの状態で出港して、既定のポイントでは、8の字に回れず失格となる。


 その後も失格者が続出した。

 どんどんふるいにかけられ、結局合格したのは、2つの傭兵団。

 『海神の鉾』と『海の黒豹』の2チームのみだ。



 『海神の鉾』の団長、フランシスコと『海の黒豹』のパンザが、アキュフェースの方に近づいてきた。


「侯爵さま、俺たちに騎士に成るチャンスをくれないか?

 俺たちの方が、操船を含めて『海龍の牙』より上だ。

 それを証明するチャンスをくれ」


『海神の鉾』の団長フランシスコの言葉に、『海の黒豹』の団長パンザも、これに同調する。


「フェリペ卿、こう言っているが、貴公は如何する?」


「指令に聞くのがスジですが、受けて立ちますよ」


「わかった、1番解り易いのは、レースかな。

 そうすると、コースを如何しようか」


「レースのコースか。それなら、ここから南に2海里先に小島がある。

 それを折り返えして、戻ってくるコースは、どうだ」


 1海里=1.85km 1ノット=1.85km/h


 カイエンブルグ公の意見に、俺は賛成して


「1周ではなく、2周したら如何でしょう。

 その方が、細かい位置取りや、駆け引きが楽しめそうです」


「それなら、大砲の類は外させては、どうか。戦列艦がフリゲート艦に速度で勝てる道理がない」


 俺とカイエンブルグ公は、盛り上がり、どんどんルールを決めてゆく。


 レースの日時は明日、正午。大砲の類は全て取り外す事、大砲は、カイエンブルグ公が責任を以って預かる事として、余りに悪質な妨害以外、航行のライン取りの妨害、ブロックの類は、レースの駆け引きとして、許可された。



 次の日、お天気は快晴、風がやや強い程度で、レースへの支障はない。


 小島を廻る上空審判として、リーフリットを呼び寄せた。


 俺はというと。


「さあ、張った張った。本命は『海龍の牙』対抗が『海の黒豹』大穴が『海神の鉾』だ。

 1枚たったの銀貨1枚(1000円)

 もうずぐ締め切り、残りわずかだ。 さあ、張った張った。」


 セッカクなので、賭け事の胴元をしています。


「アイシャ、どう売り上げは?」


「ぼちぼちかな。意外と分散したから、1位を当てるモノより、1位2位を予想する方が、熱いみたい。こっちの方が倍率高いし」


「それで、1番人気は?」


「『海の黒豹』ー『海龍の牙』が頭一つリードしている。

2番人気が、『海の黒豹』ー『海神の鉾』かな。」


「胴元が、損しない展開なら、結構、結構」


「何が結構ですか?」ガーネットが腕を組んで、睨んでいる。


「私達の激励にも来ないで、こんな処で、何しているんですか」


「軍資金造りをすこし」


「大領の御大尽が、何莫迦な事おしゃっているんですか?」


 ガーネットは溜息を付く。


「そっちの様子はどうだい?今回は、ガーネットのサンタマリアを使うのだろう?

 いざという時は、タービンエンジンの使用も許可するからな」


 この前、改装したガーネット達の船だ。

 船名を聞いた時、コロンブスか、とツッコミを入れたかった。


「ガチの勝負で、それをやったら、ただのズルじゃないですか。

 私たち海に生きる者としての誇りも、矜持も、大事なモノを全て、捨ててしまうと思うのですが」


 ガーネットの船乗りとしての矜持が聞けて、嬉しかった。


「なら勝ってこい。アルメニア海軍の実力を、傭兵上がりの新人どもに見せつけて来い」


「御下命、確かに承りました。見ていてください。圧勝してきます」


 俺とガーネットは、ハイタッチをして、彼女は、仲間の元へ戻って行った。


「勝てるといいね」後ろからアイシャが言う。


「問題ないだろう」と俺が返す。



 レースは、向い風から始まった。


 3隻とも、順風特化のシップだ。

 頼みの綱は、ジフと呼ばれる三角帆になる。


 通常は、船首から1本目のマストに綱を張り、1~3枚の三角帆ジフを張る処、今回は1本目のマストの根元から2本目のマストに綱を張り、ジフを3枚、2本目の根元から3本目のマストに綱を張り、ジフを3枚、これが全装帆、シップの向い風対策だ。


「こうなると分かっていたら、ジャッカス・パークを造って置いたのに」


 ジャッカス・パークは、横帆、横帆縦帆の半々、縦帆の舗装で、全て横帆のシップと全て縦帆のスクーナーの丁度中間、全ての風向きに対応したバランス型になる。


「みんな条件は同じなんだから、信じるしかないでしょう」


 ジャッカス・パークで勝てるか?と言われれば、そんなに甘くは無いと云うのが、現実。


 前半の位置取りが、勝負を分けそうだ。


 俺はアイシャは恋人繋ぎで手をつなぐと、飛翔魔法で上空へと飛ぶ。


 トップを行くのが『海神の鉾』の50メートル級シップ、2位につけたのが『海の黒豹』の40メートル級シップだが、他の2隻に比べて横幅が狭い。

 流線形に近い形は、運動性より直線での速度重視の船だ。

 後半の順風勝負では怖い存在だ。

 サンタマリア号は、海神の鉾の巧みな操船で、ラインを潰され、我慢の航海を強いられている。


 そろそろ折り返しの小島に差し掛かる処で、突然、風が強く吹いた。


 風の変化に合わせて、各船に変化が起きた。


 サンタマリア号が、大外からカウンターを当て、横滑りの状態で島を折り返した。


「船でドリフトなんて、初めて見た」


 俺は感嘆の声を上げる。帆船でスピンターンを決めたのだ。


 嘘だろう、と云う気持ちで一杯だ。


 上手く風を捕えて、サンタマリア号は、トップに躍り出ている。


 後続の『海の黒豹』をブロックしながら、首位をキープしている。


「あー二人とも、何してるのよ」


 リーフリットがそう文句を言って、強引に俺の右手を恋人繋ぎにしてきた。


「へへぇ♪♪」こういう時のリーフリットは、可愛いから、良し。


「リーフ、大人げないよ。ボクは飛翔魔法使えないから、少しくらい大目に見てよ」


「それはそれ、これはこれよ」リーフリットは、アイシャの言葉を跳ねのける。


 レースは中盤、1周目が終わり、2周目に突入した。


 サンタマリア号は、首位をキープしたまま、後続を上手くブロックしている。


 そろそろ折り返しの小島だ。


 ここで、『海の黒豹』が仕掛けた。船首を外側に向けたかと、思ったらすぐ内側に向け、ブロックをかわそうと試みる。


『海龍の牙』は、惑わされずに冷静に対処する。


『海神の鉾』は、混雑する島の内側を嫌い、外回りからスピンターンを決めてくる。


 不運だったのは、サンタマリア号と『海の黒豹』は、コーナーを抜けて直線に入る処だった。


「魅せるねぇ~♪♪」俺は感心したように呟く。


 追い風、直線勝負だと、流線形のボディーを持つ『海の黒豹』が有利だ。


 サンタマリア号は、前に出さない様、的確にブロックしてゆく。


 外側から『海神の鉾』が迫ってくる。


 一瞬マークが外れたのを、『海の黒豹』は見逃さなかった。


 一瞬の隙をついて『海の黒豹』は、前に出る。



 一瞬の隙を付かれ、『海の黒豹』にトップを許した。


 サンタマリア号の操舵士ハンスは、このままでは負ける。

 負けたくない、この思いが支配した。

 

 サンタマリア号のタービンエンジンのスイッチは、舵輪の柱?の下側にあり、足元にはAT車のような、アクセルとブレーキがある。前進・後進の切り替えは、舵輪の中央部にある。


 ハンスは、気が付けば、タービンエンジンのスイッチを入れ、アクセルを踏み込んでいた。


 結果は、追い風の力とタービンエンジンの加速で、サンタマリア号は圧勝した。


 鬼のような形相をしたフェリペに、「ハンス」一言だけ云い、フェリペ渾身の右ストレートが、ハンスの頬を捕えた。


 その後、フェリペはガーネットを伴い、アキュフェースの処に行き、今回の勝負は、俺たちの反則負けにしてくれ、と頼む。


『海神の鉾』のフランシスコと『海の黒豹』のパンザを呼んで、今回の事を告げる。


「最後の最後で、海の漢としての真剣勝負に泥を塗った。本当に済まなかった」


 二人に頭を下げるフェリペに、フランシスコとパンザは、顔を見合わせた。


「何で、あんな凄い隠し玉があって、最初から使わなかったんだ」


 パンザの問いに、フェリペは苦笑して答える。


「あれを使えば、只のズルだ。実力を示した事には、ならないだろう」


 それを聞いた途端、俺は吹き出して、声を上げて笑った。


「ゴメンゴメン、莫迦にした訳じゃない。ガーネットと同じ事言うから、可笑しくて。

 タービンエンジンの使用を許可する、と言ったら、それは矜持が許さないなんて言うから、お前ら似た者同士の兄妹だと思ってさ」


 俺は襟を正して


「何にせよ、結果は、結果で良くないか。

 フランシスコとパンザ、本当に見事だった。従士止まりじゃ、もったいない。

 お前ら二人とも、騎士に任じる、家紋と家名を考えておけよ」


「家名なら、既にあります、親父の代で没落しましたが、

 これからは、フランシスコ・デ・ドレイクと名乗られて頂きます」


「カルデラ風かぁ、俺は、いや、私は、パンザ・デ・パールと名乗りたいと思います」


「良し、決まったな、二人とも宜しく頼む」


 こうしてアルメニア海軍は、優秀な人材が増員された。  

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この物語が、あなたのストレスを緩和する、清涼飲料となる事を願って。

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