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第41話 ガーネット・フォン・レイトローゼン

 嵐も過ぎ去り、早速、海賊の残党狩りを始める。


 今回の黒幕だったゼニカッペ伯爵は、お家御取り潰しが決まった。

 コントロールを離れていたとは言え、ヒエラビーラ公国の公女を襲ったのは、容認できる案件ではなかった。

 ハイネスベルグ子爵の件も、謀られたものとして処理され、ゼニカッペ伯爵への借金は帳消しになった。


 海賊の残党狩りも終盤になった頃、王宮からの呼び出しが掛かった。




 王宮へ参内すると、ミューゼル宰相が待ち構えていた。


「アルメニア侯、代官の件遅くなって済まないな」


「いえ、気に掛けて頂いただけ、光栄に存じます」


 実際、色々ありすぎて、後回しにされても、文句の言えない状況だった。

 一歩間違えれば、外交問題になりそうな案件まであったのだ。


「希望通り、2人用意した。人柄も問題ない。

 ただ2人とも、法衣とは言え、男爵だ。

 ヘルマン・フォン・アシュタインと、ヨアヒム・フォン・ザルツィだ」


「そうなると、男爵相当の俸禄を出さねばなり成せんね。

 相場が解らないので、後で教えてください。

 そうなると、一つ問題も出てきます。

 セドリックの件です。

 彼は、実質、家令なので、無位無官では、代官たちの抑えが効きません。

 セドリックを授爵させるのは、可能でしょうか?」


騎士リッターならば、貴公の権限でできるが、爵位となると陛下の裁量だからの」


「申請は、可能でしょうか?」


「可能じゃが、確約はできない。取り敢えず、騎士リッターに任命して、正式に家令とすれば、・・・家令で不安なら、権限を強めた家宰では、どうだ」


「・・家令も家宰も、同じものですよね?」


「普通はな、まず、家令を男爵のような爵位持ちがやる前例がない。

 しかし、領邦の宰相としての『家宰』なら、爵位持ちでも不自然にならない。どうじゃ」


 本当に、ミューゼル宰相には、頭が上がらないな。


「それで行きます。ダメもとで、セドリックの授爵の件、お願いします。

 それから確認ですが、お二人の代官は、使用人は自分で連れてきますよね」


 法衣と云っても貴族だし、使用人もいるはずだ。


「そちらの心配は、しなくて良いと思うぞ。

 そうなると、貴公にも別の執事が必要だな」


 言われてみれば、その通り、

 いつまでもセドリックに、家令と執事を兼任させておけない。

 遣ってることが、ブラックすぎる。


「何から何まで、お世話になります」


 俺は素直に、お礼を言った。


「なに、構わんよ。

 それより、早目に例の船に取り掛かれ、

 陛下は出来るのを、本気で心待ちにしているぞ」


「残党狩りが済み次第、始めさせて頂きます」


 この後、2人への顔合わせがあった、確かに2人とも好印象だった。




 領都グランバニアに、一旦戻ると、セドリックを騎士リッターに任じる事と、領邦の宰相の意味を込めて『家宰』に任命した。

 執事は、別の人を手配しているから、少し待って貰う様に頼んだ。

 それと、家名と紋章を決める様に命じた。

 騎士リッターは、準貴族の扱いだから。


 メイド長のマーサさんを始め、メイドたちは、セドリックの昇進を祝福した。


 領都での用事を済ますと、残党狩りが行われているグランハウゼンに転移した。




 グランハウゼンに着くと、古株の衛兵を呼んで、全員、騎士リッターに任命する事を告げる。

 何故なら、これから支城2か所と本城と部隊を、3つに分けなければならない。

 指揮官が必要になるからだ。これから衛兵の数も増えるから。


 

 今度は、海龍の牙の面々を呼んで、臣下に成るかどうか聞いた。


「私は良いと思うよ。傭兵から従士に成るなんざ、大した出世だよ」


 俺は、サマンサの言葉を否定した。


「違う、ガーネット、フェリペ、サマンサ、お前ら3人は、騎士リッターに任命する。他のメンバーは、従士となるが」


 海龍の牙の面々は、色めき立った。

 今後の手柄次第では、自分たちにも騎士リッターへの道があると、暗に示したから。

 人に話しても、絶対、信じて貰えない話だ。


 意を決したフェリペは、アキュフェースの前で跪き、正式な臣下の礼を取った。


「御屋形様にお願いしたき儀がございます。

 それは、ガーネット様の件にございます」


 ・・さま?


 フェリペの話は、こうだった。

 ガーネットは、西の隣国、カルデラ王国のポルゴーニャ伯爵の遺児であること。

 内乱寸前までいった、王位継承を巡るお家騒動で、敗れて落ち延びた事。

 ポルゴーニャ伯爵は、死を賜り、奥方は落ち延びる途中、産気づき、ガーネットを生んで他界した事。

 亡くなった父と共に、今まで、ガーネットを守ってきた事。


「御屋形様のお力で、どうかポルゴーニャ家のお家再興を、伏してお願い致します」


 傭兵にまで、身をやつし、苦労してきたのは分かるが。


「それは、3つの理由で許可できない。

 1つ目、貴族の位を与える権限は、国王陛下にある為、俺にはどうすることもできない。

 2つ目、カルデラ王国との関係も良好で、ポルゴーニャの名でお家再興を果たせば、国際問題に成り兼ねない事と、カルデラ王国から罪人の子を引き渡せと云われた場合、断れない。

 3つ目、ポルゴーニャの名を捨てて、新しい家名で、一からやり直す方が、幸せに成れるとおもうから。

 以上の理由で、ポルゴーニャのお家再興には、反対する」


 フェリペは、ガックリと肩を落とす。

 俺の言葉に利があることは、頭では理解している、けれど、感情が納得してないだけだ。


「兄さん!私、その話、初めて聞くけど。どういう事よ!!」


 ガーネットは、フェリペに詰め寄る。


「聞いてないわよ。グルルルル」


 狼みたいな唸り声をあげて、フェリペに詰め寄って行く。


 ガーネットの勢いに、タジタジのフェリペは、今言ったし、と小声で呟いた。


「兄さん・・正座」


 ガーネットの言葉に、フェリペは反応して、正座をしている。

 何だろう・・このデジャブー。


 ガーネットが言いたい事を、言い切ったのを見計らって。


「3人とも家名と紋章を決めろよ」と言ったら、ご心配なく、とフェリペが返した。


「エンリケリスを家名にしたいと思います。1度も名乗った事はありませんでしたが、ポルゴーニャ伯爵から頂いた大切な家名です。

 これからは、フェリペ・デ・エンリケリスと名乗らせて頂きます」


「カルデラ風とは、傾奇くわね。じゃあ私も、サマンサ・デ・カステーリャって、どうよ」


「二人とも決まったな。残りはガーネットだけだが」


「考える時間をください。兄さんと同じ家名は、気が引けるし」


 そんなガーネットを見ていたら、一つの単語が浮かんだ。

 

 rote Rose(赤いばら)


「今、突然、赤い薔薇って、言葉が浮かんだ。これをモジって、

 ガーネット・フォン・レイトローゼンと云うのは、どうだろう?」


 俺の提案に、ガーネットは気に入ったようだ。


「ガーネット・フォン・レイトローゼン。

 赤い薔薇のガーネット・・・紋章は、当然、赤い薔薇。乙女心をくすぐるわ」


 ・・・気に入って貰えたようで、何より。



 これで、解散。と云う段になって、海龍の牙の面々に引きずられて、軍港に停泊している船の前に、連れて来られた。


「御屋形様、これでみんな、不安定な生活から、抜け出せます。

 本当にありがとうございました」


 ガーネットが代表して、礼を述べた。


「大したことはしてないさ。それよりこれは、お前たちの船か?」


 使い込まれ、年季の入ったシップだ。


「どうせならレストアしようか?」


「レストアって、何だい」サマンサが聞いてきた。


「レストアは、古い部品を、新品に変えて、少しでも新品の船に近づける修理のことだ」


「この船には愛着があるから、新品同様にしてくれるなら、願ったり叶ったりだが、この船に妙な手を入れないだろうね」


「その許可を貰おうとしてたのに、鋭いな、サマンサ」


「あ、あのタービンエンジンをお願いします」操舵士の男が希望を言う。


「1基だけだけど、つける予定。それと巡航システムの簡易版もつけようと思う」


 操舵士は、小さくガッツポーズ。


「何だろう、良い玩具を提供してしまったのに気づいて、後悔してる気分は」


「私も同感」サマンサとガーネットが意気投合している。


「まあ、船の修理は任せてもらおうか」


 俺は自信満々に、請け負った。




 次の朝、早速、ドックの使用許可を貰い、海龍の牙の船のレストア及び魔改造を実施した。


 文殊の解析で傷んだ部分にマーカーを入れる。


 一度、船の外装を全て外して、竜骨と骨組みだけにして、曲げ加工の技術を使って、竜骨を真ん中にして、小さく角の取れたM字にしてゆく。

 イメージしにくい人の為に、船のプラモデルで、船底に、二列の窪みが入っているタイプを見た事は無いだろうか?

 権天使ドミニオンが時化の時、揺れが少ないと云ったのは、この技術のおかげだ。


 外装を元に戻してゆく過程で、傷んだ木材は、新品と交換する。

 船底は曲げに合わせて、曲げた板を合わせてゆく。


 後は内装の壁を綺麗に掃除して戻すだけだ。


 タービンエンジンを船底に設置して、魔力を貯める魔石、海水を真水に変える浄水器、4畳半位のウォークイン冷蔵庫、業務用冷凍庫、トイレもシャワー洗浄機付き、簡易シャワー室、夜でも昼間のように明るいランプ、自動巡航システムなど、全て、魔石に蓄えた魔力を使う。


 武装は、元々あった32門12ポンド砲を、下層列だけ24ポンド砲に交換したくらい、少し重装備の40メートル級フリゲート艦だ。


 戦列艦のように戦艦同士のど突き合いより、通信、哨戒が主な任務に成るが、大砲の量も半分以下なので、軽い分だけ船足は速い。


 海賊相手では、十分な装備と思う。


 船体全体を、白く塗装して、水色塗装を少し、アメリカ西海岸にありそうな船を目指した。


 横帆は全て、真っ白い帆に変え、先頭のマストの一番上の帆に、ガーネットの家紋、真紅の薔薇の紋章を入れた。


 気に入って貰えると、嬉しい。




 三日掛けた苦心の作のお披露目だ。生まれ変わった船をとくと観るが良い。


「ここまでやると、もう新造艦じゃない」


 ガーネットは、呆れた様に言う。


「御託はいいから、とにかく乗ろうぜ」


 誰か言い出したら、一斉に船に乗り込んだ。


「内装は変わってないけど、綺麗に成ってる」


「シャワー室が5部屋もあるぜ」


「おおお武装が24ポンド砲に変わっている」


権天使ドミニオンにあったトイレ、ここにもあるぅ~♪♪」

 

 ガーネットが喜びの声をあげる。


 調理員は、調理場の水道と冷蔵庫、冷凍庫の存在に、涙を流す。


 船内はお祭り騒ぎだ。


「お前ら、出港の準備だ。サッサと持ち場に着け!!」


 副長のフェリペの一括で、試験航海の準備が始められた。


 俺は船から降りて、一日ゆっくり航海するように言う。


 生まれ変わった、白い船は、ゆっくりと港を出て行った。

 

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この物語が、あなたのストレスを緩和する、清涼飲料となる事を願って。

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