第40話 天使の艦で海賊討伐 ⑤
本日は晴天なり、波穏やかで、絶好の海賊討伐日和だ。
しかし、アキュフェースは、顔を曇らせていた。
AI運行システムの天気予測で、小型の台風を発見したのだ。
今日は恐らく大丈夫。明日以降、台風の影響を受けて波が荒れる。
海賊討伐、処ではないのだ。
取り敢えず、カイエンブルグ公に報告して対応を委ねた。
「正に晴天の霹靂と云う奴か」カイエンブルグ公は唸る。
「貴公を信じない訳では無いが、これは、本当のことか?」
カイエンブルグ公子飼いの幕僚が、尋ねてくる。
「嘘で在って欲しいと思うのは、私も一緒です。
恐らく、熟練の航海士なら、同じ結論を導くハズです」
一流の船乗りこそ、天気の変化に敏感だ、嵐の対応に遅れれば、命取りになるからだ。
今日一日だけ、海賊の探査を行い、明日以降は、天気次第という結論に達した。
それを一同に伝えると、マジか、という当然の反応があった。
「今日一日、何もない事を祈ろう」
作戦室の机の上に海図を広げ、海賊被害のあった場所を、ひとつずつ確認する。
一日で全て回るのは、不可能、それでも時間も許す限り、カイエンブルグ公たちと手分けして廻ってみる事にした。
領都にいるリーフリットを呼んだら、アイシャも一緒についてきた。
飛翔魔法で、リーフリットと二人で上空から、監視を始める。
アイシャは。メインマストに登り周囲の監視に専念する。
一つ目のポイントに到着したが、怪しい船はおろか、大海原以外何も発見できなかった。
初手はハズレた。気を取り直して、次へ。
3つ目のポイントを外して、次と思ったら、上空から遠目で、5隻の海賊船を確認できた。
そのイカニモナ船団に、こいつら馬鹿か、と思った。
俺が海賊の立場なら、商船を装う、大商会の船団風に、相手に警戒されずに近づいて、獲物を取り囲んだ辺りで、海賊船の旗を掲げる。
一目見てイカニモナ海賊船だと、獲物も死に物狂いで逃げる。
逃げた先で、仲間が待ち伏せ、でもしてない限り、成功には覚束無いだろうと思う。
文殊からの情報が、朗報だったので、リーフリットに連絡して、船に一度戻った。
俺はすぐに、指示を出す。
「権天使を海賊船の風下に移動させてくれ」
この指示に、異論が上がる。
帆船同士の海戦は、風上を制した者が、勝利する。
海戦の歴史を紐解いても、風上を制した者が、勝率7割のデータを叩出している。
「オペレーター、10分後の風の方向、強さの予測を出してくれ」
360度モニター画面の一角に、10分後の予測データが周辺マップと共に表示された。
画面の意味を、サマンサが一番最初に気が付いた。
「このデータは、信用できるのかい?」サマンサの問いに、出来る、と答えた。
「こりゃあ、楽しい。奴らさぞ慌てるだろうね」
サマンサは、人の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、後は宜しく」そう言い残して、俺たちは上空に飛翔した。
「砲術士は、いつでも行ける様に準備しな、10分後、ぶっ放すよ」
サマンサは、ご機嫌で指示を出した。
権天使は、海賊船団の風下に向けて移動を開始した。
「ねえ、あれは結局、どういう意味なの?」
リーフリットが、先程の会話の意味を聞いてきた。
「海戦は、確かに風上有利だ。過去のデータも、そう示している。
でもね、風上を取ってはいけない時、というのも存在するんだ」
「それが、さっきの10分後なの?」
「そういう事。それとも先に解説しておく?」
「後の楽しみにさせてもらう」
俺は、OKと返事をした。
権天使は、名演技を披露した、海賊たちに追われて逃げ惑う、哀れな子羊の役を、相手に気づかれないように、突かず離れず、必死に逃げる貴族の船。
調子に乗った海賊船団は、ヒャハーしながら、追い掛ける。
指定のポイントと指定の時間となり、権天使は、敵に横っ腹を晒し、砲撃窓を開いて砲撃を開始した。
これに驚いて、海賊船たちも砲撃の準備に取り掛かる。
そして、この時、突風が風上から吹いた。
海賊船団は、突然、風に煽られ権天使に対して横向きにお辞儀をした格好になる。
そうなると、下層の砲撃窓は、浸水の恐れがある為、空けられない。
36ポンド、24ポンドという大口径の大砲は、重量バランスの関係で下層に置く。
例えば、上砲列12ポンド、中砲列24ポンド、下砲列36ポンドという具合に。
海賊船は、今、大砲が撃てない状態だ。
帆の数を減らして、余計な風を抜かないと、姿勢が安定しないし、砲も撃てない。
対して権天使は、敵に対して、仰け反る形に成る為、浸水の心配なく、大砲の撃ち放題なのだ。
風上で、唯一不利になるのは、吹く風が強い時、突風などが吹けば、形勢は逆転する。
3隻沈めて、2隻が逃げる。
リーフリットにステルスの魔法を掛けて、逃げた2隻をつけて貰った。
俺は、船に投げ出された海賊たちを、権天使の甲板に転移させ、クルーたちが縛り上げている。
一応の処理が終わると、リーフリットの後を追って飛翔した。
リーフリットと念話で連絡を取り、合流して一緒に、海賊船の後を追う。
お約束通りと云うか、何と云うか、奴らのアジトは小島の洞窟にあった。
洞窟に入ると、剣戟の音が聞こえる。俺たちは、音のする方へ向かった。
そこには、王の目機関のサーラさんが、数えるのも面倒な、一山幾らの海賊たちと死闘を繰り広げていた。 俺たちは、すぐに助っ人に入る。
「サーラさん、助太刀します」
ミスリル製のショートソードを取り出して、声を掛ける。
「お・遅い~。か弱い乙女を待たせるのは、感心しないわ」
海賊を切り倒しながら答える。
サーラさんは、短剣の二刀流だ。
その後ろから、リーフリットが弓矢で、一人一人確実に射殺す。
流石に、数が多くて、嫌気が指してくる。
「ねえ、魔法を使っても良い?」
リーフリットの言葉に、洞窟を壊さない程度にお願いします、と答えた。
わかったわ、と返して、精霊魔法が放たれる。
よりにもよって、炎の上位精霊イーフリートを呼び出し、海賊たちを火の海に変える。
俺は正直、気が気でない。洞窟は広くない、何百人の海賊と斬りあえるスペースがあってもだ。
まず、酸欠の問題、下手をすると、火災の時のバックファイヤーの恐れだって。
リーフの奴、今の気分、そのままに、後先考えず魔法をぶっ放している。
俺の心配をよそに、サーラさんは、感嘆した声を上げる。
「あなたの奥さん、凄いわね~♪♪」
俺は引きつった笑いを浮かべて。
「俺もね、時々、何かの間違いじゃないか、と思う時があるんだ」と答えた。
リーフリットが精霊魔法を放った時点で、2隻分の海賊、数百人の半分は焼かれ、2撃目でほぼ全滅している。
生き残りは1割に満たない。
戦意は消失して、小便を垂れ流して、座り込んでいる。
生き残った海賊をロープで縛り、仲間の到着を待った。
王の目機関のサーラさんは、証拠集めに忙しい。
船長の執務室の机の引き出しから、決定的な証拠を押収した。
『ゼニカッペ伯爵発行の私掠免許』だ。
これで、一連の騒動の黒幕が、誰であるか、ハッキリしたのだ。
アキュフェースたちと合流すると、さらに5人の男たちが、縛り上げられていた。
「どうしたの、それ?」
黒づくめで、いかにもの格好だ、何を生業としているか、聞くまでも無い。
「いきなり襲われたから、返り討ちにした」
危機感の欠片も無く、アキュフェースは、答える。
「猿ぐつわしといた方がいいわ。暗殺が生業なのは、見当つくでしょう。
舌を嚙まれない様に、飽くまで、念の為だけど」
なるほどと答えて、猿ぐつわを噛ませた。
権天使が到着して、海賊と暗殺者、それと海賊たちがため込んだお宝の山も押収した。
作業が完了した頃から、海は時化始め、このままここで嵐をやり過ごすか、無理しても、グランハウゼンの港まで航行するかの二択の選択肢が求められた。
俺は海龍の牙の面々に意見を聞いた。
行くべきと留まるべきという意見が、丁度、半分だ。
この場所から、グランハウゼンまで1時間半。
何とかなる距離だと判断した。
全ての帆をたたみ、タービンエンジンを起動させる。
グランハウゼンの港に向けて出航した。
本格的な時化では無いが、それでも十分波が高いし、突風に煽られる。
「しかし、この船思ったより揺れないね。大したもんだと思うよ」
サマンサが、素直な感想を述べる。
やはり自分の船を褒められるのは、嬉しいものだ。
「伊達に天使は、名乗ってないさ。俺には、天使の加護があるのさ」
俺は少し自慢気に言う。
「それは初耳です。侯爵自身既に堕天しておいでの様なので、天使の加護と云うより、堕天使の加護の方だと思っていました」
フランツの言葉を、面白がって、賛同者、多数。
おまえら、それ、不敬罪だよ。
莫迦な事を言い合っている内に、グランハウゼンの港に到着した。
無事に到着して、ホッとしたら、転移魔法で帰還すれば良かったと、今更ながら思い至る。
かなりの魔力は持って行かれるが、船1隻分なら出来る範囲だ。
サーラさんは、証拠の品を持って総督府へ。
カイエンブルグ公を介して、ゼニカッペ伯爵の身柄を拘束した。
今回の事件は、一応収束した。
後は、嵐が過ぎた後の海賊の残党狩りくらいだ。
今はのんびりする事を優先した。
「「お連れ様♪♪ダーリン♡♡」」
リーフリットとアイシャの二人が、俺の帰りを待っていてくれた。
「ただいま♪♪今日は二人とも、ありがとう」
俺は、二人の腰に腕を回し、二人の頬にキスをする。
「ねえ、まだ領主として、大事な仕事が残っているよ」
アイシャの言葉に、リーフリットが反応した。
「あー私のセリフゥ~」
「へへぇ、早いもん勝ちだよ♪♪」
領主の仕事、つまり跡継ぎ作りの事ですか。
「二人とも、今夜は寝かさないぜ」
「そこまで言って、途中で寝たら怒るからね」
リーフリットと熱いキスをする。
うちの母ちゃん♪♪ 働き者よぉ~♪ 夜が更けても~♪ 竿探す~♪♪よいよい♪♪
何が言いたいかというと、俺の奥さんズ、働き者で良かったって、こと。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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この物語が、あなたのストレスを緩和する、清涼飲料となる事を願って。




