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第38話 天使の艦で海賊討伐 ③

 次の日、王都の軍港から、カイエンブルグ公爵のシップと護衛艦3隻を引き連れて、この世界のベネチア、カイエンブルグ公爵の治めるグランハウゼンに向けて出港した。


 カイエンブルグ公爵の旗艦は、50メートル級の3本マスト全て横帆のシップ。

 主流の74門の典型的な戦列艦。


 護衛艦3隻は、30メートル級のブリッグ、2本マストで全て横帆、大砲20門装備のフリゲート艦だ。


 戦列艦とフリゲート艦の違いは、船の大きさでも、帆の形状やマストの数では無く(マスト2本以上が対象)、単純に大砲の数で分けられる。

 戦列艦は、50~130門の大砲を持ち、フリゲート艦は、20~50門の大砲を持つモノを云う。

 戦列艦、最大級の140門艦(4層甲板)を例にすると

 甲板長63.36m 全幅16.67m 排水量4.950t 吃水8.5m

 乗員1071名

 140門の内訳は、36ポンド32門、24ポンド34門、12ポンド36門

 8ポンド12門、24ポンド榴弾砲16門、4ポンド4門、その他6門。


 たったこのだけの大きさの船に、これだけの大砲を積めば、『ノロマの亀』と云いたくなるほど、船足は遅く、敵の良い的だ。それに、この人数の人件費も弾薬も食料費も莫迦に成らない。


 ぶっちゃけ使えないのに、メチャクチャコストだけは掛かるのだ。


 コストパフォーマンスの観点から、74門艦が主流だ。



 権天使ドミニオンは、全長70メートルと、この世界では大型艦だ。


 興味を持ったカイエンブルグ公爵は、この船に同乗している。


 船内にあるブリッチに、興味津々だ、この世界では、コンピューター自動制御の帆船なんて、初めて観るものだから。


「初めて観るが、なかなか凄い。」


 童心に戻った様なキラキラした瞳で、あっちこっち、キョロキョロしている。


 俺の説明が耳に入っているか、疑問だ。


「これだけの船となると、専門の海兵が必要になりそうだな?」


 カイエンブルグ公の言葉は、俺が一番気にしていた事だ。


「海兵に心当たりはありませんし、あれば雇っています。

 普段の操船は、機械任せで良いんですが、戦闘時の操船とか、途中で嵐への対応とか、非常時の対応は、熟練の勘と判断力には敵いません」


 俺が素直にそう言うと。


「傭兵を雇ってみれば良い、腕は確かだな」


「海兵専門の傭兵って、初めて知りましたが」


「グランハウゼンに着いたら、部下に傭兵の溜り場まで、案内させよう」


「宜しくお願い致します」俺は、二つ返事でOKした。




 グランハウゼンに到着すると、カイエンブルグ公爵の隣に領地を持つ、ハイネスベルグ子爵が待っていた。

 確か、小規模とはいえ軍港を持っていたはずだ。


 総統府の応接間に通されると、ハイネスベルグ子爵は用件を告げる。


此度こたびの海賊討伐に、当家もお力添え出来ると思い、参上致しました。

 王弟殿下、此度の参戦、御許可頂けないでしょうか?」


 本来なら嬉しい申し出なのだが、カイエンブルグ公と俺は、顔を見合わせた。


「申し出は嬉しいが、何故、このタイミングで当家へ?」


 ハイネスベルグ子爵は、言い淀んだが、覚悟を決めてぶっちゃけた。


「お恥ずかしい話、当家はゼニカッペ伯爵に、借金をして居まして・・

 ・・とても返せる額では無く・・今回の海賊討伐、海賊を討伐すれば、海賊の宝で借金の返済に充てられると思いまして、このままでは、軍港とゼニカッペ伯爵領を繋ぐ領地も差し押さえられてしまいます」


 これが俺なら断るな、ハイネスベルグ子爵の行動次第では、致命的なミスに成り兼ねない。


 お金のプレッシャーは、想像以上にキツイのだ、何処でトチ狂う行動をするか、想像できない。


 カイエンブルグ公爵は、少し考えた様子だったが


「まあ良かろう、頼れる味方は、多いに越したことは無い」


 カイエンブルグ公爵は、参加を許可した。


 カイエンブルグ公麾下の主要メンバーが集まり、これから軍議というタイミングで、ゼニカッペ伯爵の来訪を告げる。


 ハイネスベルグ子爵を別室に隠して、ゼニカッペ伯爵を招き入れた。


 神経質そうな痩せぎすの御老人だ。


「王弟殿下に有らせられては、ご機嫌麗しゅうと存じます。

 此度は貴重なお時間を、臣の為に頂き、感謝の念に堪えません」


「余計な前置きは良い。用件を簡潔に述べよ」


「此度の海賊の一件、当家もお力添え致したく参内致しました」


 恭しく礼をする。


「残念だが、お断りさせて頂こう。貴殿の領地には港がない。

 つまり船についてのイロハも無く、鍛え上げられた海兵も居ない。

 海を知らぬ者を参戦させれば、足手纏いになり、味方に大きな犠牲が出る。

 お気持ちだけ、受け取っておこう」


 王弟殿下の言葉は事実だ。

 まず、船酔い、揺れる甲板の上で、マトモニ立っていられるか、怪しいのだ。


「そうは仰いますが、当家の兵は精鋭、鍛え抜かれた騎士に衛兵が多数おります。

 必ず、お役に立つと自負しております」


 食い下がるゼニカッペ伯爵。

 

 俺には、ゼニカッペに何の得があるのか、分からない。

 食い下がる必要性も含めて。


「貴殿は、海の事を全く分かってはいない。海と陸は別物だ。

 揺れる甲板の上で命のやり取りをするのだ。

 陸しか知らぬ者を招き入れれば、混乱しか生まぬ。

 ハッキリ言えば、貴公の申し出は迷惑でしかない。お引き取り願おうか」


 そこまで言われて、悔しそうな顔のゼニカッペ伯爵は退出した。


 ゼニカッペ伯爵の行動は理解できない、と云うよりなんか怪しい。


 ゼニカッペ伯爵領は、広さはアルメニア西部より少し狭いくらい。

 宿場町を含めて駅4つ、いずれも繁盛していると聞く。

 駅など、宿場町にしようかどうか迷っていると聞いた。

 この前、塩田用の手押しポンプを売ったので、製塩でも大きな利益を得ているはずだ。

 港もなく、海賊の被害があるわけでもない。

 今回の件、静観を決め込んでも、誰も文句は言わない。だから、何故? なのだ。

 それともう一つ、ハイネスベルグ子爵の件だ。

 封地を勝手に、差し押さえたり、売ったり出来ない。

 やるなら、申立書と法務部の宮廷伯の許可と正式な手続きが必要だ。

 その辺りを無視して、金にもの云わせ、強引にやろうとしている様に見える。


 念話でミツルギに連絡を取り、ゼニカッペ伯爵の事を調べてもらう事にした。


 作戦会議では、俺が囮と斥候を志願した。

 見た目は戦艦と云うより、贅を凝らした貴族の道楽船にしか見えないだろう。

 俺の艦は、餌として海賊たちには、さぞかし旨そうに見えるだろうから。




 作戦会議が終わった後、王弟殿下の部下に、傭兵の溜り場に案内してもらった。


 案内役とも別れ、酒場に入る。


 場所の割には、繁盛しているのは、意外だった。


 俺は真直ぐ、カウンター席に座る。


 仏頂面のマスターが、ジロジロと値踏みする。


「お客さん、注文は?」


「バーボン、ツーフィンガーで」


 一度、言ってみたかったセリフが言えて、大満足の俺。


 出てきたグラスには、氷が無いので、水を追加で注文して、水を魔法で凍らせて、オンザロックを楽しんだ。


「ここは、傭兵が雇えると聞いて、来たんだが」


 俺は本題を切り出す。


「誰に聞いたか知らないが、ここでは無いな」


 予想通り素っ気ない態度だ。


 俺は、支払いの金を置くと、店の隅で呑んでいる一団の処に足を向ける。


 文殊に店の中の人間を鑑定してもらったので、操船技術までは分からなかったが、腕の立つのは確信できた。


「腕に覚えのある海の傭兵って、お前らで間違いないか?」


「何だあんたは? ここは貴族様の来る所じゃないぜ」


 なかなか生きの良さそうなあんちゃんだ。


「そう邪険にするなよ。お近づきの印に奢らせてくれ」


「随分羽振りが良さそうだが、何が目的だ」


 別の男が凄む。


「お前さんたちを雇いたいと思っている」


「そいつは剛毅な事で」


 男が鼻を鳴らす。


「だからそう邪険にするなよ。雇いたいと思っているのは、本当だ。

 お前らが腕の立つのも、見れば分かる。しかし、操船技術は未知数だ。

 そこら辺の話を聞きたくてね」


「貴族の旦那、俺たちを舐めてるのかい。

 俺ら『海龍の牙』は、ガキの頃から船に乗ってる。

 ソコイラノ船乗りと一緒にしてもらったら困る」


 威勢のいいあんちゃんが、軽い挑発にあっさり乗る。


「航海長のサマンサだ。あんたは一体、何処のどちら様だい」


「まだ名乗っていなかったな、申し遅れた非礼を詫る。

 アルメニアのアキュフェースだ。

 陛下より侯爵の地位を賜っている、新興の貴族だ」


「アルメニア? あそこは、海軍はおろか、軍港も無かったはずだ。

 全く、何の冗談だい?」


 サマンサは、値踏みするような目で問いかける。


「確かに、海軍も軍港も無い。今回の海賊騒ぎで戦艦を新造した。

 この騒ぎが終わったら、貿易港と軍港の整備をする予定だ。

 そして、今回の依頼は、傭兵団丸ごと、うちの海軍になって貰おうと思ってね。その為のスカウトさ」


「羽振りの良い貴族様は、言う事が違うね。

 うちらを傭兵を正規軍にしようなんざ、剛毅を通り越して頭を疑う。

 どのみち、決定するのは団長で、うちらじゃない。出直すんだね」


 サマンサの言葉に、団長の居所を聞くと、暫く考え込んだ。


「それは、自分で探してみるんだね」


「それは、この店にいるとみて良いのかい」


「さあね、教えてやる義理はないさ」


 俺は、文殊の鑑定をフル稼働して店内を見渡す。


 二人の人間が、ヒットした。


 ウエイターとウエイトレスだ。


 二人の腕を掴み、問答無用で『海龍の牙』の面々まで連れて行った。


「この二人の内、どちらかが団長だと思うが間違っていたか?」


 結果はもう分っている。


 団長は女の方で、ガーネット。男の方は副長と掌帆長しょうはんちょうを兼任している、フェリペ。


 押し黙る面々を尻目に、俺は、ガーネットに声を掛ける。


「ガーネット団長、そろそろ、商談の話がしたいんだが」


「その前に聞かせてくれ、何故、分かった」


 二十歳前の可愛らしいお嬢さんにしか見えない、動きだって隙だらけだ。

 とても、海千山千の傭兵団を、率いる器には見えない。

 恐らく、先代団長の娘なのだろうと推測する。


「俺は、鑑定スキルを持っている。それで納得したか?」


 ガーネットは、ああとだけ答えた。


「俺が『海龍の牙』を配下にしたいと云う件だが」


「それは、少し待って欲しい。こちらも判断材料が足りない」


 もっともなガーネットの言葉に、俺はある提案をした。


「今回は、傭兵としてというのは、どうだ。

 海賊の件が片付いたら、正式に返事を聞かせてくれ」


「ああ、宜しく頼む」


 これで『腕の良い傭兵を雇う』というミッションは、成功した。

  

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この物語が、あなたのストレスを緩和する、清涼飲料となる事を願って。

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