第37話 天使の艦で海賊討伐 ②
俺たちが、新造艦の試験航海を楽しんでいると、突然、アナウンスが入った。
「御屋形様、至急、ブリッチにお戻りください。
正体不明の艦に民間船が追われています」
マジかと思ったが、すぐブリッチに急行して状況を聞く。
ブリッチに入ると、拡大された映像が目に飛び込んだ。
追われている民間船が3本マストのシップで、海賊船と思われる船は、ブリッグと2隻のスループ。
スループが左右からシップを挟み撃ちにしている。
ブリッグは2本マストで、全て横帆のタイプ、後方のマストは横帆と縦帆の半々が正解なのだが、分類上、全て横帆になるらしい。全長は25~50メートルの物が多い。戦闘用の物は10~20の大砲を備えている。軍艦だけでなく、商船としても人気が高い。
同じ大きさなら、マストの数が少ない方が、乗組員は少なくて済む。
人件費の面からも、シップよりブリッグの方がコストパフォーマンスが高いのだ。
戦闘用スループは1本マストでカブセイルとジフを持つ小型砲艦、見た目は、ほぼヨット。カフセイルはスクリナーと同じ形の縦帆を使用している、ジフは逆風対策用の三角帆、フリゲート艦より小型で10~20の小型の大砲を積んでいる。護衛艦以外にも海上警備で使われたりする。
「とにかく現場に急行してくれ。リーフは念話で指示するから、連絡要員として待機してくれ。助けには俺が行く」
甲板に出ると、飛翔魔法で現場に急行した。
現場に着くと、上空でストレージから油の樽を取り出し、左のスループに投げつける。
樽が割れ油がまき散らされたら、火球魔法で放火する。
次にブリックに狙いを定め、同じことを繰り返す。
右のスループは逃げに転じていたが、そこは逃がさず放火。
3隻の海賊船が燃えたのを確認して、追われていたシップの甲板に降り立った。
「私は、アキュフェース・フォン・ワント・ツー・アルメニア。
陛下より侯爵の地位を賜っている。 艦長と話がしたい、目通りを希望する」
俺は大声を張り上げる。
俺の言葉に、初老の艦長が歩み寄った。
「この度の御助力感謝します、アルメニア侯爵。
高貴な方を連れての航海でしたが、一時はどうなる事かと思いましたが、お陰様で事なきを得る事が出来ました。ヒエラビーラの民を代表して、重ねて御礼申し上げます」
「とにかく無事で安堵しました。今、高貴な方とおしゃられたが・・」
「ヒエラビーラ公国の公女リディア殿下で在らせられる」
「という事は、これ1隻のはずありませんよね?」
「護衛艦は3隻ありましたが、襲撃の際、皆、盾となり・・その後は・分かり兼ねます」
俺はリーフリットに念話で連絡を入れ、権天使の到着を待つ。
連絡してから10分で、この海域に到着した。
飛翔魔法を保ったまま、海に逃げ出した海賊たちを、転移魔法で権天使の甲板に転移させ、フランツ達衛兵が、海賊たちを縛り上げてゆく。
一通りの作業が終わったら、ナイトハルトとミツルギに連絡して、迎えの護衛を手配する。
その間の護衛を権天使に任せ、俺は取り残された護衛艦の救助に向かう。
10キロほど離れた場所で、まだ護衛艦たちは抵抗を続けていた。
俺は、すぐ助太刀を開始した。
状況は、典型的な海賊戦法、乗り込まれての白兵戦、少数なのによく持ち堪えている。
俺は周りの海賊船を、火球魔法で燃やして回ると、俺も白兵戦に参加する。
船の甲板は狭いので、大きな武器は邪魔になる、そこでショートソードを選び、斬るより突くを優先する。
しかし、自分のスタイルに合わない戦闘は、突くより斬るスタイルの人にとっては、ストレスが溜まり、つい足と手がでる。
両手剣の聖剣を持ってから、随分鳴りを潜めたが、俺の本来の戦闘スタイルは、片手剣と格闘の合わせ技だ。 斬って、投げて、殴って蹴る、関節技もお手の物だ。
昔、ナイトハルトに、お前の剣は足癖が悪い、と云われたのを思い出した。
俺は、戦いながら、まだ息のある味方に、回復魔法を飛ばしている。
味方の支援をしながら、敵を突き殺し、投げ飛ばす、殴り殺し、蹴り殺す、死屍累々の山だ。
1つの船が迎撃に成功したら、他の船の助太刀に向かう。
全ての戦闘が終了するまで、1時間と掛からなかった。
「助太刀感謝します、アルメニア侯爵閣下」
「何、礼には及ばない。それよりも、リディア殿下は御無事だ。
今は、俺の船が護衛している。安心してくれていい。
取り敢えず、王都グランシールに向かわせたが、不都合はおありか」
「不都合など何も、それより姫様を助けて頂いた事、何とお礼をして良いか」
護衛艦の艦長は、そう言って、言葉を詰まらせた。
「息のある者は、粗方回復させたはずだが、他に怪我人は居られるか?」
「恐らく大丈夫でしょう。修理の方もグランシールに着いてからでも、大丈夫だと思います」
「それなら、10キロ先に姫君の船がある。私の船が護衛しているので、安心されるが良い。余り無理をせず、王都を目指してくれ」
それだけ言うと、飛翔魔法で権天使の元へ帰還した。
グランシールの手前3キロほどの処で、王都の海軍、シップ3隻が、ようやくお出ましだ。
俺は、捕らえた海賊を引き渡し、護衛の任を海軍に引き渡すと、姫様の護衛艦3隻を迎えに行くためサッサと反転した。
護衛艦の艦長は、ああ言ってたが、実際は現場から一歩も動けてない可能性がある為、様子を見に急行した。
折角助けて、現場に置いてけぼりは、流石に目覚めに悪い。
結論から言うと、俺の心配は杞憂で終わった。
見た目はボロボロだったが、問題なく航行している。
権天使が先導する形で、王都の軍港まで、無事、誘導した。
戻ってみると、案の定、事情聴取が始まった。
事の顛末を、時系列で海賊討伐から護衛艦の救助まで、包み隠さず話して解放された。
やっと帰れると思ったら、今度は、陛下に捕まった。
応接間に通されると、そこには、国王陛下、ミューゼル宰相、カイエンブルグ公、そして誰だ? 初めて見る顔が待っていた。
「陛下、アルメニア侯アキュフェース、御下命によりまかり越しました」
「ご苦労だった。楽にして良い。そう言えば其方、ウィルバルドは初めてだったか」
「はい、お初にお目にかかります。ウィルバルド卿。
アキュフェース・フォン・ワント・ツー・アルメニア、陛下より侯爵の地位を賜っています」
「ウィルバルド・フォン・シューバッハだ。海軍の宮廷伯を拝命している。
身に余る処遇に震えておるよ」
シューバッハ宮廷伯は、豪快に笑う。
「宮廷伯」=大臣の事である。
(作者の独り言)
神聖ローマ帝国出身の称号で、大臣の意味を持つが、大臣の称号で間違いないかと云われるとチョット疑問。
ですが、ここでは大臣の称号として押し通すつもり。
中国由来の尚書より、いいかなと思うので。独り言終わり。
つまりこの人、海軍大臣、海軍卿、海軍宮廷伯閣下。
「繰り返しになって済まんと思うが、事の顛末を聞かせてくれないか?」
ミューゼル宰相の言葉に、ついさっき話した内容を、同じ様に話した。
話し終わると、全員渋い顔をしている。
ここで問題に成っているのは
①ヒエラビーラ公国の公女リディア殿下が、海賊の襲撃に遭ったこと。
リディア殿下は、この国の王太子殿下と婚約関係にある。
政治的意図があるのか、無いのか、今の段階で判断できない点。
②西のグランハウゼン近海の出来事と思っていたら、海賊被害が王都近海まで波及した事。
③海賊の規模も本拠地も把握できない事。
④①の出来事が政治的なものなら、私掠船団の可能性も、視野に入れて置かなければならない。
私掠船ならバックにいるのは、何処の国?? という話になる。
「公女殿下襲撃の際、幾らか海賊を捕えています。尋問の過程で色々見えてくると思うのですが」
俺の言葉に、シューバッハ宮廷伯は、取り合えず、部下たちの尋問待ちかと答えた。
「アキュフェース卿、改めて協力をして欲しい。今回の件、卿の力は有用だ」
カイエンブルグ公爵の依頼に、否はありません、と答えた。
そして、思い出したようにアキュフェースに、追加の依頼をする。
「貴公のあの白い船は好いな。このゴタゴタが住んだら、1隻、私にも造ってくれ。
あの船なら、シップも良いが、バークも映えそうではないか」
この言葉に国王陛下が、待ったを掛ける。
「アキュフェース、ヨーゼフに造る前に、先に造る者がおるだろう。
予を差し置いて、ヨーゼフに先に造るなどと、心得違いをするでない」
また王様の我儘が始まった気がした。
「アルメニア侯アキュフェース、勅令を持って命じる。
この騒ぎが収まった後、国王専用艦として相応しい戦艦を建造せよ」
初めから、否は無いが・・
「謹んでお受けします。大陸一の戦艦を造ってみせましょう」
王様の我儘で、海賊騒ぎの嫌な雰囲気が吹き飛んだ気がした。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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