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第36話 天使の艦で海賊討伐 ①

 アキュフェースは、転移魔法で、王都に瞬間移動して王宮に参内した。


 通された応接室で、アキュフェースを待っていたのは、国王陛下、ミューゼル宰相、カイエンブルグ公爵と、錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。


 これは頼んでいた代官の件ではないと、俺は直感した。


「わざわざ済まんな」カイエンベルグ公が声を掛ける。


「殿下のお声掛かりとあらば、直に駆け付けます」


「其方ら、やけに仲が良いではないか。

 ヨーゼフ、元々お前の案件だ。お前から説明せよ」


 王様は、ヨーゼフ・フォン・ルセンブルグ・ツー・カイエンベルグ。

 ルセンブルグ朝の第4位王位継承者に命じた。

 カイエンベルグは、州の名前だ。当然、州総督も兼ねている。


 王弟殿下を呼ぶとき、あれ?と思った方、

 この国の貴族の正式な名乗りは、日本語表記で

 「名前」+「フォン」+「家名」+「ツー」+「領地の地名」+「爵位」

 または、「家名」+「爵位」+「名前」

 例:アルメニア侯アキュフェース 

 

 余談だが、この国の王太子は、古都シールを領地としている。

 王太子時代に、領地経営を学ばせる意味で、代々の王太子がここで、領地経営を学び、そして実践する。

 俺たち領邦貴族にとっては、大切な生活の基盤である領地でも、王家の人々には、只の任地、赴任先の感覚なのかもしれない。


「妬かれるな兄上。 では、私から説明しよう。

 最近、我が領海内に、海賊が出没していてな。

 正直手を焼いている。

 そこで、腕の良い助っ人に協力を頼もうと思ってな」


 港湾都市グランハウゼンは、この世界の『堺』若しくは『ベネチア』と云って良い、商業と交易の中心都市だ。

 ここの経済がおかしくなれば、影響は国全体に波及する。


「海賊と云うより、私掠船の疑いはありませんか?」


 まず考えたのは、グランハウゼンの通商路シーレーンを麻痺される事。


「生憎だが、私掠船を出されるほど、揉めとる国はないぞ」

 王様は、顔をしかめる。


「事情もわきまえず、大変失礼致しました」

 俺は、慌てて陳謝した。


♦私掠船(英:Pirvateer 仏:Corsaire)♦♦

 

 戦争状態にある時に、敵国の商船や船を攻撃して、積み荷や荷物を奪う、私掠免許を持った民間の船、扱いは「国家の海賊」。

 古くから、海軍の任務に一つに自国の通商路シーレーンの維持と、敵国の通商路シーレーンの妨害と破壊がある。

 私掠船は、海軍力の不十分な後進国が通商路シーレーンの破壊を目的にした場合と、海軍力が低下した国家が、通商路シーレーン維持の為に使う場合とある。

 1隻の場合もあれば、艦隊を組む場合もある。

 やっている事は、海賊と変わらないが、海賊と云うより傭兵に近い。

 反面、統制が難しく、本物の海賊に転身する者も現れる始末。

『私掠免許』発行の際は『担保』をとり、『捕獲法』の運用でやっと統制している状態だ。

 私掠船の収益は、航海で得られた利益を、国家、出資者、船長以下乗組員で分配される。

 15~6世紀のイギリスを例にすると、国王20%、海軍10%、残りを船長、出資者、乗組員で3分割される。 余り実入りのいい商売とは、とても云えない。

 儲かるのは、国と出資者だけだ。

 船長は、航海に掛かる経費総て、船長持ちだからだ。

 しかも、捕まれば海賊として扱われる、捕虜ではなく、海賊としての処刑だ。

 彼らを支えたのは、愛国心と海の漢としての矜持だけだ。

 敵国の通商路シーレーンにダメージを与えて、祖国に貢献する。

 現代の人間からすると、只の海賊行為だが、当時の人からすると、祖国への貢献であって、海賊行為も悪い事をしたと云う感覚が、恐らく無い。

 有名どころだと、キャプテン・キットの二つ名で知られるウィリアム・キット。

 フランシス・ドレイク、ヘンリー・モーガンなどだ。

  

 戦争の可能性が低いと知れて、ひと安心だ。

 しかし、このメンバーの頼みで、否は無い。


「ヨーゼフ王弟殿下、謹んで承ります」


「済まんな、無理を言う」カイエンベルグ公が答える。


 ふと、昔造って、そのままにしたアイテムを思い出して、ストレージから取り出す。


『羅針盤』だ。


「これは、何だ?」国王陛下が、興味深そうに聞いた。


「羅針盤にございます。どんなに船が揺れても、常に北を指し示す道具にございます」


 それを聞いて、ミューゼル宰相は、目を剥く。


「貴公は自分が何をしたか、分かっておいでか?」


 解ってます。大航海時代を開いた、原因の一つです。


「これで、艦の運用も楽になると思うのですが」


 大航海時代以前は、船は陸地沿いを航路として、余り遠洋には出ない。

 直に方向感覚を失うからだ、星と太陽が方向を知る手掛かりに成るだけだからだ。

 海図と羅針盤があれば、遠洋の航海もグッと楽になる。


「いきなり全部は無理でも、戦列艦には装備したいな」


「分かりました。後で幾つご入用か、お教えください」

 俺の言葉に、王様は待ったを掛ける。


「アルメニア侯、王国の海軍に先に納品するのが、スジだろう」


「確かにおしゃる通りと存じます。

 しかし、今は非常事態です。優先順位は、王弟殿下の方が先に成ります。

 このゴタゴタが終わりましたら、直に納品に伺います。

 今は陛下のご寛容を持って、お待ち頂けると幸いです」


 俺は陛下を宥めに来かかる。


「気に入らぬが、あい分かった。これは、卿に貸しひとつだ」


 この貸し、えらく高くつく気がする。


「兄上、その辺で。アルメニア侯、調べて後で連絡する」


「お待ちしております。 処で、準備期間は、どの位頂けますか?」


「なんだかんだで、ひと月くらいか」


 それだけあれば、自前の船を用意できるかな。





 早速、木材を爆買いし、ミスリル鉱、クリスタル、その他諸々かい揃え、俺は魔導船の造船に着手した。

 外観は、70メートル級のマスト3本の『トップスル・スクーナー』

 内装は、船大工を入れたが、魔石を使ったミスリル製のタービンエンジンを2基。

 勿論、スクリューで動きます。

 マストの先端に、魔素を魔力に変える変換器、風の方向、強さを計るセンサー。

 外観の吃水部分には、潮の流れを計測するセンサー。

 クリスタルと白金を主な素材とした、魔力稼働のAIシステムの導入、タッチパネルのキーボード。

 そして、360度モニターを船内ブリッチに設置する。

 メイン、サブのカメラは目立たない様に、設置される。

 風の具合で帆を張ったり、巻き上げて畳むのも全自動。

 勿論、帆の角度を変えるのも、全自動だ。

 武装は、日本の大筒を参考にして、3層砲装甲板に74門。

 この時代の大砲は、連射が出来ない、連射すれば暴発するだけ。

 日本の大筒でも、連射は難しいだろが、ここは信頼の日本ブランドという事で。


 

 この世界の軍艦は、全長50メートル前後、横幅15メートル前後。

 コストパフォーマンスの高さから、74門艦が主流。

 3本マストで3本とも横帆の『シップ(全装帆船)』

 但し、最後尾のマストだけ、横帆と縦帆の半々。


 砲門は、左右合わせて『戦列艦』で2~3層、50~130門の大砲。

『フリゲード』で1~2層、20~50門の大砲を装備している。

 戦列艦か、フリゲード艦は、大きさや帆のタイプではなく、大砲の数で決まる。

 3本マストの船には、様々なタイプがある。


 名称       前の主帆 中の主帆 後ろの主帆

シップ(全装帆船) 横帆   横帆   横帆(小さな縦帆が付く)

パーク       横帆   横帆   縦帆

ジャックスパーク  横帆   横・縦帆半々 縦帆

パーケンティン   横帆   縦帆   縦帆

スクーナー     縦帆   縦帆   縦帆


 上に行くほど順風に向き、下に成るほど逆風での操作性に優れている。


 戦艦か商船かは、外観や帆のタイプでは分からない。

 戦艦も商船も、似た形をしているため。

 砲門の数で、呼び名が変わる、戦列艦やフリゲードのように。

 商船で戦艦並みに大砲を積めば、積み荷や商品を積む場所が無くなる。

 だから武装商船でも、大砲は最小限だ。


『横帆』は、追い風を捉えるのに効率が良い、季節風を利用して長距離移動に向いている。

『縦帆』(三角帆も含む)は、追い風では横帆に劣るが、向い風では、風に向かって間切る、つまり、前方からの風を利用でき、操船し易い特徴がある。

 三角帆のヨットが、向い風に向かって、ジグザグに切り上がり、前に進む。

 向い風でも、何故、前に進むのかイメージは、し易いと思う。


 マスト全て横帆のシップでも、向い風で前に進む方法がある。

 船首から1本目のマストまでロープを繋ぎ、通常1~3枚の『ジフ』と呼ばれる三角帆を張る。 この三角帆が向い風でも、船を前に進ませる。


 帆船同士の戦闘の場合、風上を取れば勝率7割だ。

 その為、追い風有利な『シップ』や『ブリッグ』が軍船として使われる。

 だから提督は、海戦で有利な状態で戦う為、1週間、1ヶ月、平気で予想される戦場で、風上を取る為に巡航する。


 ザックリと帆船の説明をしたが、分かってもらえると嬉しい。



 アキュフェースが造った船は、3本ともマストが縦帆のスクーナだ。

 1本目のマストの上部に、小さな横帆を置いた『トップスル・スクーナー』と呼ばれるタイプで、操作性が比較的に容易な為、トレーニング・シップとして使われる事が多い。


 この世界初の動力式だが、稼働時間がまだまだ短い為、通常の航行は普通の帆船と変わらない。

 AIによる自動操作だが、念の為操作性に優れた、トップスル・スクーナーを選択した。

 AIによる音声入力も可能した、フルオート巡航システムだ。

 但し攻撃の為の砲術士は、必要。

 巡航システムには、風の方向、帆の角度の調整、潮の流れを読み、最適化された航路を進めるようプログラムされているが、AIシステム自体、何の経験ない赤子と一緒だ。

 AIに経験を積ませる為、王都の港を出て、試験航海をすることにした。

 砲術士74名とオペレーターに5名、衛兵から出向させた。

 他の船から、海を舐めるなと言われそうな人数だ。


 真っ白の船体の金の縁取り、帆まで白、1本目のマスト上部の横帆に家紋を入れた姿は、戦う船と云うよりも、その美しくも豪華な装いは、貴族の道楽船に見える。


 船名は『権天使ドミニオン』とした、大天使の1ランク上、国の守護者と云われる階級の天使たちだ。


 試験航海は、順調だ。 海も穏やかで、風も気持ち良い。

 巡航システムは、問題なく作動している。


 俺はブリッジから甲板に出て、心地いい風を浴びながら、ぼんやりと海を眺めていた。


 反対側では、衛兵隊長のフランツとジャンとトーマスが、釣りを楽しんでいた。


「釣れますか?」俺は3人に声を掛ける。


「おっ、これは侯爵、ボチボチですよ」フランツが言うと


「何言ってるですか、隊長。まだボウズじゃないですか」ジャンが応じる。


「見てください、この釣果。サバ、イワシにアジ、お客さん、お安くしときますよ」

 

 トーマスが調子に乗る。


「何だ、マグロとカツオは無いのか。久しぶりに刺身が食べたかったが」


「じゃあここは私の出番ですか、侯爵、大物を釣り上げて見せますよ」


 フランツが大口を叩く。


「隊長、これで、ボウズなら格好付きませんぜ」


 ジャンのツッコミに、フランツは、任せろと笑う。


 みんなで笑いあっていると、いきなりアナウンスが、流れる。


「御屋形様、至急、ブリッチにお戻りください。

 民間船が、正体不明の船に追われています。至急、お戻りください」


「隊長が変なこと言うから、変なものが釣れたじゃないですかぁ~」


 トーマスが文句を言う。


「何言ってるんだ、大物が釣れたじゃないか」フランツは不敵に笑った。

 

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この物語が、あなたのストレスを緩和する、清涼飲料になる事を願って。

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