第32話 北部経済同盟
ドズル一派の裁定は、爵位の降格、領地の減封、領地替えの3つ。
ドズル公爵は伯爵に降格、それに合わせて領地は半分以下に削られた。
削られた領地は、更に細分化され、降格された子分たちの新たな領地となった。
貴族派の貴族たちは、ドズルの周辺に集められ、エストニア王国北部は、貴族派一色となった。
当然、ドズルに関係のない北部の貴族も煽りを喰らったが、より条件の良い領地を提供され、大きな不満は出なかった。
ここまで大規模に、領地替えを行ったのには、訳がある。
減封した領地を、そのまま飛び地として持つには、コストが掛かり過ぎるのだ。
今回の事で不満を持つ貴族派を監視する為にも、1箇所にまとめた方が都合が良かった。
その結果、王家はポッカリ空いた『穀倉地帯』を、『王家直轄領』としたのだから、油断できない。
「何故だぁ~、伝統と栄光に包まれ、神に選ばれた我らが、この様な目に合わねばならぬ。
全ては小賢しい、あの小僧の所為ではないかぁ~」
「お静まりください、旦那様。お体に障ります。
それに御独りで思い悩むより、今後の事をお仲間と話し合っては如何でしょうか。
幸い、まだ、王都におられる方は多い。
この機会に是非、今後の方針を、検討なさっては如何でしょう」
老齢の執事の言葉に、ドズルは落ち着きを取り戻す。
「それに過ぎたる武というものは、古来より為政者が最も警戒するもの。
上手く、王の不信を得られれば、事は容易かろうと愚考致します」
実際、歴史を紐解けば、歴史に名を刻む名将が非業の死を遂げている。
漢の韓信、孫子の兵法で有名な孫武なども、優れた剣が敵に向いている時は良い、しかし、もし、自分に向いたら、この恐怖と為政者はいつも向き合う事に成るからだ。
その言葉にドズルは、調子を取り戻した。
「それでは早速、招集を掛けてみよう」
今回の処分で割を食った貴族派の議員は、ドズルの招集に応じ密かに王都のドズル邸に集まった。
雰囲気は暗く最悪だ。
元々、貴族派の興りは、ドズルの父親が、王の施政で不遇になった貴族達を掻き集めて、庇護したのが始まりだ。
今回の事も原点に戻ったと言えば、言えなくもない。
「本日は、お互い大変な時に、我の招集に応じてくれた事に感謝する。
今日の議題は、今回の事で大きく勢力を削られた、我ら派閥をどう巻き返すか?
そして、今回の元凶アルメニアの小僧に一矢報いるかと云う、相談だ。
忌憚のない意見を頼む」
しかし、彼らからの言葉は、怨念の籠った愚痴ばかりで、建設的な意見は出なかった。
この雰囲気を変えたくて、ドズルはカシムに意見を求めた。
「今回の件で一番の被害者は、カシム卿であろう。何か意見はないか?」
確かに、アルメニアの中部と東部は、アキュフェースに奪われた。
しかし、カシム自身、騎士から子爵に陞爵され、小領とはいえ、子爵領相当の海沿いの領地を賜った。
アルメニアの時と違い、復興の為に、お金の心配をする事が無くなった事が大きい。
父祖の地を奪われた事は悔しいが、同じくらい、もうお金の心配は、しなくて良い安堵感が勝るのだ。
「アキュフェース卿には、父祖の地を奪われ悔しくもありますが、これもカシムの力不足。
今は、自領に専念して、来るべき日に備えたいと思います。
今事を起こす事も、策を弄する事も、きっとどれも悪手でしょうから」
カシムの本音は、もうこんなイザコザより、のんびりしたいのだ。
金の心配が無くなり、復興させなくてはいけないプレッシャーも無い。
比べられる相手もいない、まさに天国。
「カシム卿は、良く出来たお方の様だ。我にはとても真似できぬ。
確かに、今、事を起こしても相手の思う壺。しかし、一矢報いねば気が収まらん」
ドズルの言葉を聞きながら、カシムは駅での会議を思い出していた。
そして、閃いた。アキュフェースがやろうとして、出来なかった事だ。
「ドズル殿、発言宜しいでしょうか?」
「他に何かあるか、カシム殿」
「アキュフェース卿がやろうとして、実現できなかった事を」
「それは、興味深いな」ドズルも意見を促す。
この国の形で一番近い形は、アメリカのカリフォルニア州を鏡対称にした形だ。
もっとイメージし易くすると、日本の形でも説明できる。
北街道は、王都から北部に向けて、国の中央に敷かれている。
ドズル達一派は、日本で云う処の岩手と宮城に押し込まれ、北街道沿いの領地と穀倉地帯の福島県を丸々直轄地に持って行かれた感じで、イメージできるだろうか?
貴族派は、領地貴族だけでなく、法衣貴族も多い。
「つまり、表向きには、経済同盟を結ぶのです。
東海道で一番の懸案は、関税の問題でした。
我らは街道から遠ざけられ、商業活動に不利な立場にあります。
ここで、関税に拘れば、経済活動は益々失速します。
なれば、関税を撤廃して、商人を呼び込むことが肝要と存じます。
街道が使えずとも、ドズル殿の処には、軍港があります。
これを貿易港として活用すれば、それを拠点に、経済活動は活発化すると愚考致します」
「面白い案だが、関税撤廃は痛いな」
「アキュフェース卿は、関税が無くなれば、物の値段は安くなり、更なる経済効果も生まれるのに、と嘆いておいででした。
アキュフェース卿が、やりたくても出来なかった事を、この私たちが先に遣れば、さぞ悔しがるでしょう。
経済活動は、間違いなく活性化するでしょうから、関税を取っていた頃より、大きな利益が得られると思うのですが。
それに、これが、上手くゆけば北部周辺の諸侯も、これにあやかろうと経済同盟の参加を表明する者も現れるはずです。
ある程度の勢力となれば、軍事同盟としての転用が可能に成ります。
今は、3年いや5年、力を蓄える事に集中しませんか?」
「迂遠であるが、理に適うか」
ドズルも、若いカシムに言われたのは、シャクだが、確かに生き残り、巻き返すには、これしか無いと、思い始めていた。
「儂は、カシム殿の意見に賛同するが、諸君はどうするのだ」
ドズルの鶴の一声で、北部経済同盟は、結成された。
後日談として、アキュフェースが、北部経済同盟の報を聞き、その内容と発案者がカシムだと聞いて、正直、舐めていた相手に、先を越されたと、地団太を踏んで悔しがったと伝えられる。
パチパチパチ、拍手と共に、一人の女が入室してきた。
「シャーリー?」カシムが呟く。
シャーリーは、ニッコリとほほ笑んで
「若様、暫く見ない内に、御立派に成長されて、このシャーリー、嬉しく思いますわ。
本日は、世界友愛評議会の使者として、まかり越しました」
「知らぬ名だな。して、何用だ」ドズルは、鷹揚に答える。
シャーリーは、ニッコリ笑って、カシムに、若君失礼します、と言い、手の持った銃をカシムの首筋に当て、引き金を引いた。
パスと云う音共に、カシムが倒れ込むのを、シャーリーが支える。
「さあ命令よ、ドズル殿を平手打ちになさい」
シャーリーの命令で、カシムは、ドズルを平手打ちにする。
「さあ歌いなさい」
カシムは今度は、歌いだす。
「若君、失礼致しました、アポーツ」
カシムから、シャープペンの芯のような、細い金の針を取り出す。
「もう御分かりと存じますが、これは洗脳針、巷では金の成る針などと、呼ばれていますわ。
これが有れば、有力者から金を幾らでも搾り取れそうですもの。
我が上司から、ドズル様へ渡すように言付かって参りました」
そう言って、箱ごとドズルに手渡す。
「これで、貴様らはどうしたいのだ」
ドズルの詰問に、涼しい顔で答える。
「上司からの伝言を伝えますわ。
これは無闇に使用せず、切り札として、お使いください。
ほとぼりが冷めたら、第3王子に後ろ盾がありませんので、後ろ盾に成って差し上げるのはどうでしょうか、との事でした」
「悪く無い案じゃが、お主の上司は誰だ」
「名前は申し上げられません。
しかし、この国に、それなりに影響力のあるお方ですわ。
それから非合法の闇組織を3つほど、傘下に収めていますので、御用の際はカシム様の従者である、このシャーリーが窓口に成って差し上げますわ」
「良かろう。其方の上司に宜しく伝えてくれ」
「承りました、では、若君後ほど」
そう言い残して、シャーリーは去った。
何処までも怪しい組織だが、復讐の為には、なりふり構っていられないと思い直した。
吉と出るか凶となるか分からないが、何もしないよりマシと云う気分だ。
それから、内容を煮詰め、検討して、三日後、北部経済同盟は結成された。
ドズル達の巻き返しを掛けた、最初の一手が打たれた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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