第31話 鼎(かなえ)の軽重を問う
この日、王都は騒然としていた。
アルメニア伯爵は、白装束の出で立ちで、罪人を処刑する十字架を担ぎ先頭を歩く。
後に続く2人のエルフは、馬に乗り喪服とも取れそうな奇抜な黒い衣装は、金糸を使った紋様がポイントとなって、奇抜な割に下品にならない、今までと違った美を提供している。
後に続く兵士たちの鎧は、黒一色で統一されている。
左胸にはアルメニア伯爵家の家紋『アルメニア藤』が、金色に刻印されている。
黒の鎧の所々に金の縁取りが入り、戦闘用と云うより儀礼用といった趣がある。
この奇妙とも異様とも取れる集団は、一糸乱れぬ行軍を、王宮まで続く道を練り歩いてゆく。
「しかし、ここまで統一されてると、圧巻だねぇ」
野次馬の一人が言うと、相方の一人も答える。
「しかし先頭の伯爵さま、何であんな格好で、あんな物を担いでいるんだ。
あれじゃ、自分用の処刑具を、自分で担いでいる様じゃないか」
「あ~あれか、アルメニア伯爵に謀反の疑いありって、やつ。
ありゃ~、どう見てもガセだろう。
お偉いさん、そんなことも判らんのかね」
「分かってて嵌め様としてるのか、こればかりは、上の判断次第じゃないか」
「しかし、囚人にしては、堂々としてるじゃないか。一体、伯爵さまは、何を始めるつもりかね」
どう見ても、罪人を装いながら、おとなしく罪に復する気は無いのは、この行軍を見れば明らかだ。
イザとなれば、一戦交える位の覚悟は、有る様に見える。
そうこうしている内に、王宮の正面玄関、南大門に到着した。
王宮の前を、近衛騎士団並びに王宮騎士団が陣取っている。
「アルメニア伯爵に問う。軍隊を引き連れての、この行軍。
如何なる仔細あっての事か」
騎士団長らしき男が、大声を張り上げる。
「如何なる仔細とは、笑わせる。
元々、冤罪を掛けたのは、其方らの方であろう。
これは、死に装束、死を覚悟した漢が着る礼装である。
処刑用の十字架も当方で用意した。
其方らの甘言に従えば、このまま座して死を待つと同義。
このまま、陛下のところまで惜し通らせて頂く。
これ以上邪魔建て致すなら、ここは、武士らしく、手向かいさせて頂く。
その覚悟、其方らにおわりか」
俺は、後ろに合図を送る。
後ろの軍は、統率された動きで身構える。
戦闘前の緊張感が、辺りを支配してゆく。
「ここを何処だと心得る。双方剣を修めよ!!!」
第2近衛騎士団・団長ナイトハルトが割って入った。
「これは、何の騒ぎだ!!アキュフェース!!!」
「どうもこうも無い、罪人に仕立て上げられて、黙っていると思ったか。ナイトハルト」
俺の様子を見たナイトハルトは、溜息を付いて
「お前が、怒っている振りをしているのだけは、分かったよ」
流石親友、俺の演技が、もうバレた。
もう少し粘って、今回の騒動の被害者は俺であると、大々的にアピールしたかったが、ここらが潮時かもしれない。
俺は、王都民に迷惑の掛からない待機場所を提供してもらい、俺が戻るまで待機を命じた。
ナイトハルトの案内で、俺とリーフリットとアイシャは、謁見の間の前室、謁見までの待合室となっている、豪華な応接間に向かう。
「お前の兵士、よく鍛えられてるな。あれで、一兵卒か?」
ナイトハルトの評価に、俺は破顔する。
「うちは人数が少ないから、少数精鋭でいくしかないんだ」
衛兵だけで、やっと、1000名超えた辺りだ。順次、募集はしている。
「それで、レベルは?」
「平均は40台、初期のメンバーなら60台だな」
その言葉を聞いて、ナイトハルトは頭を抱えた。
レベル40で、ベテラン、50で手練れ、60以上は人外の扱いだ。
「お前は何処を目指している?」
「だから言ったろう、少数精鋭だって」
他愛のない話を2時間程したら、謁見の間への呼び出しが掛かった。
謁見の間に通されると、王都にいる総ての貴族が参内していた。
チラホラ外国の大使らしき人も見受けられる。
玉座から王は一言だけ告げる。
「申し開きは何かあるか?」
「申し開きとは? おしゃる意味が分かりかねます」
「軍を上げた事に、決まっている」
「あれは、只の護衛です。
高々300の寡兵相手に、軍を上げたなど、
この国の底が知れる発言と申せます。
下らぬ誤解を生まない為にも、
陛下の発言としては、ご注意頂きたいと、僭越ながら申し上げる」
ここで沸点の低い馬鹿が、しゃしゃり出る。
「無礼であろう小僧!! 立場を弁えよ!! この謀反人が!!!」
「下がれドズル。誰が発言を許可したか」
「しかし・・・」
「二度は言わぬ、下がれ!!!」
国王の言葉に、ドズルは渋々引き下がる。
「アルメニア伯、護衛としては、聊か多い気がするが」
「それは仕方ありません。
ご存知の通り、私は貴族派の連中に謀反の疑いを掛けられ、何時謀殺されるか分からない身の上。
心配した部下たちが我も我もと護衛について、この様な人数になりました」
「発言宜しいか? 国王陛下。」
このタイミングで、発言を求めたのは、グランローマ帝国のバイエルン国王殿下。
国王なのに殿下? 疑問に思っている貴方。
「陛下」は国家元首に対する尊称。
帝国の場合、皇帝陛下がいる以上、王も皇族専用の貴族の爵位に他ならない。
だから、一皇族として、殿下となる。
これが自治領のように独立していたら、話は変わるが。
「どうぞ、バイエルン殿」
「まずは、アキュフェース卿、魔王の脅威から国を救って頂いたこと、帝国臣民を代表して、心より御礼申し上げる。
世界を救った英雄が、斯様に冷遇されておるのは、嘆かわしいと存ずる。
もし、この国で不遇の境遇にあるのなら、我が国は『公爵』として、迎える準備がある。是非とも御一考頂きたい」
城内の貴族たちが、ざわつく。
それだけ、この発言のインパクトはデカイのだ。
皇族でもない、一個人が公爵?!余りの待遇の良さに、クラッときた。
「その件は後ほど。今は色々とハッキリさせたい事がありますから」
バイエルン国王殿下のお陰で、色々と吹っ切れた、心遣いに感謝だ。
「まずは陛下、今回の謀反の疑い、如何にお考えか?」
「莫迦莫迦しくて、口にするのも憚れる」
「では、その様な噂を広めた、奸臣を放置されているのでしょうか」
「状況証拠だけでは、人は裁けぬ」
「ではもう一つ、アルメニア州解放の後、ドズルたちの讒言が有ったにしても、何故、最初の約を違えたかお聞せ願いたい」
国王も、この話題が出るとは、思ってもみなかったと云う顔をしている。
「・・・・それを聞いて、何とするか?」
「仕えるに足る主かどうか、見極めたいと存じます」
場内が息を吞む。そして、空気も読まずに馬鹿が、しゃしゃり出る。
「貴様、無礼であろ・・」
「うるさい!!!」俺は、本気の殺気をピンポイントで、ドズルに浴びせる。
ドズルは泡を吹いて、気絶して、小便で床を濡らした。
「陛下、この白装束は、死に装束と云います。
死を覚悟した者が、死地に赴く際の礼装に成ります。
つまり、返答次第では、差し違える覚悟であるとご理解ください」
死に装束は、切腹の時と仇討の時、棺桶に入った死者の装束だが、こっちの方が、ハッタリが効いている。
「貴族の4割に反対されれば、その後の影響も考慮する」
「それでも、王が1度かわした約束を、自分の都合で違えれば、王の信用は地に落ちます。
誰が、破る前提の約束など、信用出来るでしょうか。
それに、あの時の裁定は、結局、王家に都合のいいモノでした。
私でなくとも、不信感は募るでしょう。
今1度、陛下に王としての鼎の軽重を問う。
あの時、約束した事を履行して頂きたい。
それとこの奸臣どもに、相応の処罰をお願い致します。
それが、出来ぬとなれば、陛下に王たる資格が無いモノと考えます。
その時は、この国を出ていくので、暇乞いをお願いします」
俺は言いたい事を、全部言った、後は国王の判断だけだ。
不敬罪を問われそうだが、知った事ではない。
後は、俺を取るか、ドズル達4割の貴族を取るかだけだ。
今回は、玉虫色の裁定の余地がない。
裁定に不服なら、俺はこの国を出ていくだけだ。
周辺国の大使も見ている中での裁定だ。
国際信用にも影響する話なので、下手は打てないはずだ。
俺がこの国を出ていく場合、周辺諸国からヒトデナシの国と、レッテルを貼られるだけだ。
輸出にも、確実に影響を及ぼすだろう。
長い沈黙の後、裁定が下った。
「アキュフェース、兼ねてからの約定通り、アルメニア州総督に任じ、侯爵に陞爵する。
アルメニア州全土を領地とし、中部と東部を速やかに返却する。
資金援助と人材派遣も、約定通り行おう」
俺としては、これで文句は無いが。
「ドズル達一派は、如何なさいますか?」
「降格と減封、領地替えが妥当かの」
「お家御取り潰しでは、無いのですか?」
「謀反を起こした訳では無いから、そこまでは出来んよ」
話としては分かる、只、感情が納得出来ないだけだ。
「この辺で鉾を修めたら、もう気が済んだでしょう」
リーフリットの言葉に、ああと言って従った。
これでやっと、アルメニア州を全て取り戻した。
これからやることは多い、基本今までやって来たことを、中部と東部で行なうだけだ。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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