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第29話 貴族派への嫌がらせ ①

「この方々には、一切、物を売ってはいけない。ということでよろしいでしょうか?」


 マリアンヌ嬢の問いに、連判状に記載のある貴族全てに販売拒否を宣言した。


「それを踏まえて、まず、貴族派を除く沿岸地域の貴族たちに、塩田用手押しポンプと普通の手押しポンプを売る」


「高位の貴族が、ゴリ押ししてきたらどうしますか?」


「生産が間に合わなくて、予約1年待ちとでも言えばいいし、それでも矛を収めないなら、当家は、あなたの家に、一切、物を売らないと宣言すれば良い。

 責任は全て俺が持つ。存分にやって構わない」


「恨みでもありますの?」


「恨むと言うより、いきどおりだな。

 魔王を討伐したら、スタンビートの後始末を押し付けられて。

 無事解決して報酬の段になれば、ドズルたちの横槍で、どこの馬の骨ともわからぬ輩にアルメニアは渡せないと言い出す始末。

 道理を説けば、数の暴力で領地は1/3に減らされて、約束の資金援助も人員派遣も無くなった。

 これが、この世界を平和に導いた者に対する扱いだよ。

 こういうのを恩知らずと言うだよ」


「初めて聞く話ですわ。世間にはそういう話は、伝わっていませんから」


「それでは、自伝でも書こうかな」


「面白おかしくお願いします。

 それはそうとして、転売や横流しについては、どう対応しますか?」


「連判状の貴族の名簿を作成して、契約事項に転売・横流しの禁止事項を設ける。

 違反した貴族はブラックリストに載せて、以後、取引中止。

 売ったポンプには、シリアルナンバーを入れて、何処の誰に売ったか分かるようにする。シリアルナンバーを調べれば、誰が横流ししたか、判るって、寸法。」


「承りましたわ。後の責任を取ってくださいね」


「心配しなくても、大丈夫。やれると云っても、脅しがせいぜい。

 軍を上げる度胸もないよ。

 こちらの遣っていることも、嫌がらせレベルだし、こちらとしては、軍を上げてもらった方が簡単だし、分かり易い」


 この日から、連判状に名を連ねた者たちへの、嫌がらせを始めた。





 手始めに、カシム領の隣のシュライト子爵の元を訪れていた。


何時いつぞやはご協力ありがとうございました。お陰様で、事なきを得ました」


「大したことは、してないさ、

 しかし、あれは、本当に封印したのかね。かなり惜しいと思うが」


「あれを公表すれば、この街道の意味を失います。

 この街道の恩恵を受けている、我らからすれば、ない方がいい品物です」


 カシムが関税を不当に上げた時、使った転移門の話だ。


「しかし、アルメニア伯の処は、発展が著しいようですな。あやかりたいモノです」


「今日は、これが、その一助になると思い持参致しました」


 そう言って、ストレージの中から、塩田用手押しポンプを取り出す。

 塩田に移動して、王都でやった事と同じ実演をする。


 塩の増産が、今の人数で行なえる事を、アピールする。


 国内の内陸部だけでなく、海を持たない内陸国家への輸出の道も見えてくると、力説する。


 今度は、シュライト子爵の屋敷に転移して、普通の手押しポンプを設置する。


 そこで、同じように実演する。

 これで、水汲みが楽になると、メイドさんたちは喜んだ。


 売買契約の段になって、アキュフェースは、紙の束を渡した。

 連判状に名を連ねた貴族に対しての、転売、横流しの禁止の同意書だ。

 連判状に名を連ねた貴族、全ての名前が記載されている。


 その同意書を一読して、シュライト子爵は、溜息を付いた。


「つまり、隣のザマス男爵には、売らないという事か。・・貴公は分かっているのか?

 この国の4割の貴族が、敵に回る事に成ることを」


「勿論、いっそのこと軍を上げて貰えれば、分かり易くて助かります」


 俺は、にこやかに笑って応じた。


「取り敢えず、領内の事も一段落したので、そろそろ、嫌がらせの一つをした処でばちは当たりませんよ」


「何を言っても無駄か」シュライト子爵は、諦めた様な顔をした。


 そして、同意書にサインした。




 東海道の海沿いの諸侯への塩田用手押しポンプ、通常の手押しポンプの売り込みは順調だ。


 東海道の最後を飾るのは、国内第2の都市、カイエンブルグ公爵殿下の治める、人口13万人を数える港湾都市、グランハウゼンだ。


 王都もそうだが、ここもカイエンブルグ公の居城を中心に半円状に城壁が築かれている。


 一通りのプレゼンが終わり、アキュフェースは応接間へ通され、カイエン公は、契約の書類のテェックしている。


 契約書類の一読を終えたカイエン公は、苦笑交じりで述べた。


「本気でやるつもりかと、思ってな。

 分かっていると思うが、国内の貴族4割弱が敵に廻るぞ。

 内訳は、貴族派3割、王党派・中立派で1割あるかないか位だな」


「お心遣い誠にありがとうございます。

 私としては、軍を上げて頂いた方が、分かり易くて良いんですが。

 ドズル一派とて、そこまで、阿呆でないと思いますが。

 せいぜい、派閥の威を借りて脅しに来るか、ありもしない冤罪辺りでしょうか?」


「そこまで分かっていて、尚、喧嘩を売るか。

 貴公は、少し貴族どうしの喧嘩の仕方を覚えた方が良いな。

 もう少し腹芸を覚えた方が良い。

 何事も一本気過ぎるのも、これはこれで問題だからな」


「御忠告、しかとこの胸に、感謝致します。王弟殿下」


「構わぬよ。個人的には、貴公の事は気に入っている。

 馬鹿どもの餌食に成らぬよう、祈るばかりだがな」


「心に留めておきます、殿下」


 カイエンブルグ公は、同意書に署名してくれた。


 これで、残りは南街道の諸侯と内陸の諸侯たちだ。


 



 手押しポンプの生産を、人を増員して、急ピッチで行なっている。

 東海道の諸侯だけでも、注文数が半端ないのだ。


 一旦、領地に戻って、生産のフォローに回る。

 錬金術スキルで、手押しポンプの部品を量産してゆく。

 2週間籠りきりで、何とか、注文の7割の生産が完了した。


 そろそろ、次の営業に行こうとしたら、招かれざる客が来た。


 コズルト男爵、ドズル公爵の甥っ子らしい。


「遠路はるばる痛み入りますな、コズルト殿。当家には、どの様なご用件で、参られた?」


 本来なら社交辞令として、お互いを当たり障りのない誉め言葉と他愛のない世間話から、本題に移るのが、常なのだが、顔を見たくない相手、サッサと本題を聞いて、追い返す方向に舵を切る。


「流石、平民からの成り上がり、会話の常識すらもないと見える」


 こいつ、喧嘩を売りに来たのか?


「単刀直入に言う、貴様ら扱っている手押しポンプの件だ。

 我らも協力を申し出ようと言うのだ。

 何の後ろ盾のない貴様らを、伯父上が守ろうというのだ、名誉な話だろう」


 そもそも男爵風情が、馬鹿の威を借りて、上から目線とか有得ないだろう。


「最近耳が悪くなった所為で、ハイエナが人語を喋った様に見えました。

 歳は取りたくありませんね」


 20台前半のアキュフェースは、シレッと言う。


「返事は、お断りさせて頂く、そもそも人語を喋るハイエナ風情と、馴れ合う事も協力も有り得ない話だ。

 そもそも相手が爵位が高いだけで、無能の呼び声高いのドズル公爵では、お話にも成らない。

 流石、馬鹿の威を借りて、喚くしか能のない男爵殿には、伯爵に対する礼儀も成っていないようだ」


 俺の言葉に、青筋を立てて憤るコズルト男爵。


「貴様!!!自分が何を言っているのか、理解しているのか。

 この国の貴族、全てを敵に回すと宣言に等しい行為ぞ!!!」


「それは、初耳でした。

 ドズル閣下など、所詮、3割の影響力があれば、御の字と思っていたので、それは大したモノであると、感心してしまいました。

 小物は小物同士で、仲良くされるが宜しかろう」


 心から馬鹿にした態度で言う。


「その言葉、後悔するなよ!!!」


「1つだけ訂正させて頂く、敵に回すのではなく、貴方がた一派は、既に私の敵だ。

 そんな三流喜劇の脅しなど、今更過ぎて笑いも出ない。

 貴方には2つの選択肢がある。

 私に叩出されるか、自分で出ていくかのどちらかだ」


「覚えていろよ」そう言い残し、コズルト男爵は出て行った。



 その数日後、アルメニア商会本店、領都の東門と西門、アルメニア商会王都支部の前に、大きな看板が設置された。


 その看板には、魔王討伐、アルメニア州の解放、その後の報酬の顛末など、事の経緯いきさつが、事細かに明記され、それに関わった貴族の名前が一人残らず公開された。


 連判状に名を連ねた貴族には、一切、物を売らないとする。


 『アルメニア伯爵の販売拒否宣言』が公開された。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この物語があなたのストレスを緩和する、清涼飲料と成ることを願って。

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