第22話 テンサイは忘れた頃に
西アルメニアの領都リーフリンク、リーフリットとアイシャ両手に花状態で散策中、商店街の一角で、俺はとんでもない物を発見した。
『テンサイ』だ。
白砂糖の原料としては、サトウキビが有名だが、余り知られていないが、『テンサイ』も、立派な白砂糖の原料である。
サトウキビとテンサイの搾りかすは、石灰分を多く含んでいる為、製鉄工場、化学工業の大気汚染防止剤の為の排煙脱硫材、上下水の浄化、河川海域の水質底質の改善に役立っている。
農業用の土壌改良材として、サトウキビなら、紙の原料として、テンサイなら、木耳の菌地に利用できる。
八百屋の女将が、不思議そうな顔で聞いてきた。
「御領主様、どうしました? びっくりした顔で、固まって」
「・・おかみ、これは、テンサイだな・・・」
「え、ええっ、そうですが」
「・・くれ!!全部だ!!!」
「それは構いませんが、食べて美味しい物では・・」
俺は、おかみさんの言葉を遮る。
「良いんだ。それで、おかみさんの村では栽培してるのかい?」
「これは、北のトーガ村から仕入れた物さぁ」
「トーガ村だな、感謝する」
おかみさんの提示した金額よりも、情報料込みで、多めに支払った。
一緒に散策していたリーフリットとアイシャは、不思議そうな顔をしている。
「突然、とうしたの?」とリーフリット。
「こんな物を、大量に買ってどうするつもり?」とアイシャ。
「ここでは人目があるから、帰ってからな」
桔梗宮に帰ると、早速、マリアンヌ嬢とローバーさんを呼びに行かせた。
みんな揃った処で、テンサイが、白砂糖の原料だと打ち明ける。
「「「「「ええっ、砂糖!!!!!」」」」」
見事にハモった。
「それで、作り方は。・・詳しく」
マリアンヌ嬢の圧が、凄い。
取り合えず、厨房に移動する。
テンサイ(サトウダイコン)からの砂糖の作り方
まず、テンサイの根を千切りにして、温水に浸して、糖分を溶け出させる。
その糖液を煮詰め、濾過して、不純物を取り除く。
真空状態の元で、糖液を濃縮させる。
結晶を成長させた後、遠心分離機にかけて、現れた結晶が、砂糖である。
※テンサイの搾りかすと葉は、家畜の餌として、使用できる。
今はない道具の代わりに、魔法を駆使して、何とか完成させた。
「真空にする機械や遠心分離機は、たぶん、造れると思うけど、どうだろう?」
「これが、テンサイからの砂糖ですか。見た目も味も・・」
マリアンヌ嬢は、指でひと舐めする。
「甘い・・確かに砂糖ですわ」
「「あ、ああぁ~」」
リーフリットとアイシャの悲鳴が、聞こえる。
「「ずるいわぁ~、わたしも」」
二人とも、指で舐める、二人とも行儀が悪いよ。
それを皮切りに、みんな味見を始めた。
「それで、この商品のメインターゲットは?」
ローバーさんの質問が飛ぶ。
「メインターゲットは、庶民かな。材料も安いし、何より庶民に食べて貰いたい」
「ドラグーン辺境伯家と、揉めることになりませんか?」とローバーさん懸念を示す。
南部、国境沿いの大領、南国の気候で、我が国、唯一のサトウキビの産地だ。
「サトウキビの取れるのは、あそこだけだからね。
ドラグーン辺境伯領の主要な特産物だから。
それで、これを砂糖と言わずに、他の名前を付けるのはどうだろうか?」
「飽くまでも砂糖の代替品で、砂糖では無いと、言い張るわけですか?」
マリアンヌ嬢、我が意を得たり。
「それで、何かいい名前はないかな?」
あーだこーだ言い合った結果、テンサイ糖とアルメニア糖が、残った。
「ここで生まれた砂糖なんだし、アルメニア糖で良いと思うよ」
リーフリットのこの言葉で、名前が決定した。
俺個人は、テンサイ糖で構わなかったが、原料がバレルと、反対する者が多かった。
「これは砂糖の価格破壊です、無事、済んでくれることを祈りますよ」
まったく、ローバーさんの言う通りだ。
砂糖は庶民にとっては、高い、高嶺の花なのだ。
まずトーガ村に行き、アルメニア商会と村一つ専属契約を結んだ。
村総出で、テンサイの栽培を依頼した。
ただ、輪栽式農業をやっている関係上、全ての畑を、使う訳にはいかない。
テンサイの栽培は、7月~9月中頃までだ。
それなら、冬にかぶを植える畑を使えば問題なしだ。
1つの村では足りないと思い、後5つの村に依頼をだした。
これで、足りてくれれば良いと思う。
大ぴらにやり過ぎて、無用なトラブルはごめんだからね。
ただ、今から栽培では、季節的に間に合わない。
今回は、全ての村を廻り、テンサイを買い漁った。
テンサイを栽培している農家は、少なかったが、6村分くらいにはなったと思う。
砂糖精製工場はできた。これは、我が領のトップシークレットだ。
工場の位置は、領内でも北側を選んだ。
なるべく、街道から離して目立たなくする為だ。
工場の周囲を石壁で、囲い、監視の兵も配置した。
石壁の4隅に監視塔を置き、不審者の監視に努める。
万全の体制を敷いて、営業を始めた。
営業開始から僅か2か月で、アルメニア糖は完売した。
来年は、領内、全ての村で、栽培させないと間に合わない。
今ある村は、32,村の誘致を促進しないと、厳しいかも知れない。
自分たちの使う分は、確保済みだ。
しかし、メイドたちの圧が、強いと、感じるのは気のせいか?
そんな折、トラブルは舞い降りた。
我が国、唯一のサトウキビの産地、フォルス・フォン・ドラグーン辺境伯が、文句を言いに桔梗宮まで訪れたのだ。
「遠路はるばるのお越し、痛み入ります。
初めまして、当家の主、アキュフェース・フォン・ワント・ツー・アルメニアです」
俺は笑顔で挨拶をする。
取り合えず、相手の方が、爵位は、格上だ。
「フォルス・フォン・ドラグーンだ。
単刀直入に聞く、アキュフェース卿、あの砂糖は何なのだ」
「あれは、我が領で研究開発した、砂糖の代替品でございます」
「あれを砂糖でない、と申すか」
「左様です」
「自分が何をしたか、判っているのか!!!」
「その様に言われましても、当方に心当たりがございません。
砂糖は高級品です。庶民にはなかなか手が届きません。
それを研究の結果、代替品を見つけたので、庶民に手の届く価格で売ったにすぎません」
安いと言ったが、アルメニア糖、1キロ、銀貨3枚(3000円)は、
日本のスーパーの価格を知っている俺には、ぼったくりの気がする。
「私の商売は庶民相手、フォルス卿は王侯貴族が商売相手。
そもそも、客層が違うのだから、問題ないと思うのですが」
ドラグーン辺境伯も、俺の言葉に毒気を抜かれたようだ。
「そうで、あるな」取り合えず、納得してくれた様だ。
俺はフト思い付て、尋ねた。
「フォルス卿、サトウキビの搾りかすって、どうしてますか?」
いきなりの質問に、面食らったフォルス卿は、
「牛の餌だと、思うが。」
「それは、もったえない、と具申致します。
私の元の世界では、土壌改良にも使っていましたが、
パガスと言って、紙の原料の1つとして活用していました。
私は、門外漢なので、詳しくは解りませんが、研究なさってみるのも、
いいかもしれません」
「面白いとは思うが、時間が掛かりそうだ」
「カカオでも有れば、良いんですけど」
「カカオか、あるぞ」
「有るんですか!!!」
俺の勢いに、フォルス卿、気圧される。
「あんな苦い物、何に使うつもりだ」
「新たな特産品が出来るかも、しれませんよ」
俺は、ウインクして、セドリックに指示を出す。
「俺はこれから、カカオの買い付けに行く。
その間、フォルス卿には、御逗留頂く。
我が屋敷では、フォルス卿の家格に失礼である。
費用は、全額、私が持つので、最高級のホテルで最高のおもてなしをせよ」
そう言い残すと、俺はドラグーン辺境伯領へ、カカオの買い付けに出掛けた。
飛翔魔法で、ひとっ飛び、僅か2時間で目的地へ到着した。
目的のカカオと砂糖を買い付け。
転移を使って、領都に戻った。
翌日、ドラグーン辺境伯が我が家に訪れたので、みんなで厨房に移動した。
「しかし、我が領とここを、たった2日で往復したのか」
「行きは、飛翔魔法の全力飛行で2時間、帰りは転移魔法で一瞬で着きました」
「これまでの日数を掛けて移動してたのが、何なんだと思うな」
ドラグーン辺境伯、愚痴る。
「では、70%カカオのチョコレートを造ります」
潰れた豆など使えない豆を取り除く。
120度、余熱済みのオーブンで、200gのカカオ豆を30分ローストします。
カカオ豆の殻を剥く。
豆の本体のカカオニブを、マルチミルで粉砕して、粉状に。
このタイミングで、砂糖65g。カカオ70%の配合になります。
チョコレートの温度を50℃~60℃を維持、ペースト状になったらテンパリングへ
カカオバターが持つ結晶を整える作業。
チョコレートが常温では溶けず、口の中で溶ける状態にする為の工程。
チョコレートの温度を、50℃→26℃→31℃に変えていけば、テンパリングは完了です。
最初、氷水で、次に湯せんという感じで。
※チョコレートに水を入れない様に、これ大事。
※31.9℃では、NG。誤差0.2℃の間で。
後は、型に入れて、固めるだけ。
「なんで、カカオ70%なんて、美味しくない、チョコを造ったの?」
リーフリットが、疑問を口にした。
「これをベースにすれば、アレンジするのに楽だろう」
「それなら、カカオ100%にすれば、良かったじゃない」とリーフリット。
「そうだけど、この方が使いやすいと思ったんだよ。
ここからは、湯せんし直して、好きな味付けにすれば良いだろう」
唯一知っていた作り方だったとは、とても言えない・・・
「処で、これは?」
マリアンヌ嬢、砂糖を指さす。
「アルメニア糖は完売して、もう無いから、カカオを買うついでに、ドラグーン領で買ってきた」
「何と、アルメニア糖とやらは、もう無いのか」
ドラグーン辺境伯、なんか嬉しそう。
「原料の栽培に7月から9月の中頃までかかるので、まだ、先の話です」
ドラグーン辺境伯、上機嫌だ。
ヨシ!これでこの件を、しばらく突かれる心配は無くなった。
そんな会話をしている間に、リーフリットが、ミルクチョコレートを作ってきた。
ドラグーン辺境伯が、最初に口にした。
「これが、あのカカオから作った物か。
確かに、美味くはある、しかし、儂にはお子様味だな」
「これは一つの例にすぎません。工夫次第で如何様にもなります。
砂糖を控える、ブランデーを中に封じ込る、ナッツ、アーモンドをいれる。
マカロンにコーティングしてみる、など工夫次第で、
高貴な大人使用も目指せると考えます」
「うむ、有意義な時間だった。アキュフェース卿、礼を言う。では帰るとしよう」
「では、お送り致します」
そう言って、ドラグーン一行を転移魔法で送り届けた。
領都に戻ると、リーフリットが、ふて腐れてる。
「私のミルクチョコは、お子様味?」
「気にしなくて良いぞ。さっきも言ったが、そもそも、客層が違う。
俺たちの客層は、庶民、ターゲットは、女性と子供だ。
リーフの味、受けると思うけどな」
俺の言葉に、リーフリットの機嫌が直った。
俺がリーフリットの機嫌が直って『ほっと』としていたら、マリーが壺を抱えて入室する。
その後、ゾロゾロと、マーサメイド長とメイド全員が入室してきた。
マーサメイド長が、代表して口を開いた。
「御屋形様、これは、いったい、どういう事などでしょうか?」
マリーが、抱えた壺をテーブルの上に置く。
これは、料理長に頼んで隠してもらった、アルメニア糖の壺だ。
「もう無いと言われた、アルメニア糖。なぜここにあるのでしょうか?
御屋形様とあろうお方が、まさか、この様な真似をなさるとは、
アルメニア糖は、館の共有財産です。
それを一人ネコババするとは、情けなくて、涙も出ませんわ」
その話、今、初めて知ったし、そもそも自分の金で買った物を、とやかく言われる筋合いでは無いと思うが。
見るとリーフリットも、うんうんと頷いている。
お前も、俺が料理長に指示している時、一緒にいたよな。
旦那見捨てて、そちら側にいるんじゃない。
何故か俺一人、正座モードで、マーサさんの説教を聞く羽目になった。
食い物の恨みは恐ろしい。女性の甘未への執念、いと、凄まじ。
俺は、身をもって体験した出来事だった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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