第18話 ようこそ、アルメニアへ
『天日採塩法』(天日塩田)とは、
複数の大きい『濃縮池』と同規模の『調整池』と直列に並んだ小さな『結晶池』からなる塩田だ。
まず、海水を『濃縮池』に送る、『濃縮池』を複数造るのは、海水の濃度を濃くして、より純度の高い塩を得るため。
大量の硫酸カルシウムを析出したら『調整池』へ。
ここで濃度を平均化して、重力による自然落下で、徐々に『結晶池』の方に移動する。
『結晶池』を渡りながら、徐々に結晶化してゆく。
海水を濃縮させると、酸化鉄、炭酸カルシウム、大量の硫酸カルシウム、塩、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、必ずこの順番で析出される。
濃縮池で大量の硫酸カルシウムを析出させた後、結晶池で『塩』を析出させ、残った不純物(にがりに使用)を排水すれば、高純度の塩になる。
朝、朝食を終えて寛いでいると、慌てた様子のセドリックが入ってきた。
「大変です、御屋形様、塩田がピンク色に変わっています!!!」
あぁ~、言うのを忘れた。
「問題ないよ。天日塩田の場合、ピンク、オレンジ、褐色に変わるのは、よくある事だから」
「では、問題はないという事ですか」
セドリックは、「ほっ」と安堵したようだ。
俺は塩田経営を、領の経営にする気は無い。
親方、日の丸では、間違いなく失敗するからだ。
俺がしようとしているのは、俺がオーナーになっての半民営化だ。
俺は領内の商業ギルドを訪ねた。
商会を立ち上げて、雇われ社長になれそうな人材を紹介してもらうためだ。
「よく、いらっしゃいました。伯爵さま」
アルメニア支部のギルドマスターは、笑顔で迎えてくれた。
「先触れも無く失礼した」
俺はそう言って、ギルドマスターと握手をする。
俺は早速、本題に入った。
「~~と、いう訳で、経営者として、任せられる人材を探している。
領官に任せれば、潰れない安心感から、どうしてもやる事が『どんぶり勘定』になる。
ここは厳しい商戦を生き抜いた、確かな目が必要なんだ」
「そういう事なら、心当たりがございます。
ただ、引き抜けるかどうかは微妙ですが」
「それは、誰?」
「『ハワード商会』の番頭をしている『ルーシーメイ』は、いかがでしょう」
「ハワード商会、ハロルドさんの処かぁ~
しかし、番頭が女性だったのは、初めて聞いたよ」
「会頭をご存知でしたか。彼女は、会頭の妹君になります。
なかなかの女傑らしいですが、見た目は大人しめの御婦人ですよ」
ハロルドさんには、素材の買い取りで、いつもお世話になっております。
しかし、そうなると、少し難しいかもしれない。
大商会の番頭、現代でいえば、大企業の専務の引き抜きを、話し合っているのだから。
ダメ元で、支部長の推薦状を書いてもらい、ハロルドさんの処に行くことにした。
王都のハワード商会に転移すると、すぐに応接間に通された。
「ご無沙汰しております。ハロルドさん。
今日は、急な訪問にも対応して頂いて感謝します」
「勇者様のお召しとあらば、即、参上致します」
にこやかに告げるハロルドさん、この後の話で曇らなきゃいいな。
「~~という訳で、新しく立ち上げる会頭の出来る人物を探しています。
アルメニア支部のギルドマスターの紹介で、そちらのルーシーメイさんを薦められまして、こうして伺っている次第です」
紹介状をハロルドさんに手渡す。
途端に、ハロルドさんの顔色は曇り空。
「大変名誉な事と存じますが、ルーシーは我が商会の要の1つ、幾ら勇者様の頼みでも、お受けすることは出来ません」
きっぱりとハロルドさんは、断りを入れる。
ですよね、うん判ってた、断られるの。
そこで、次善の案を口にする。
「ルーシーさん以外で、任せられそうな人物に、心当たりはありますか?」
「心当たりですか・・・」
ハロルドさんは、思案顔だ。
突然、ドアが、パァンと開け放たれる。
「話は聞かせて頂いたわ、伯父さま、私が行くわ」
年の頃なら、16~18歳ぐらい。綺麗というより可愛い。
クラスの中に一人はいる、クラスのアイドルみたいな感じの娘。
何と言っても活発そうだ。
「マリアンヌ!!はしたない、お客様の前だぞ!!」
ハロルドさん、珍しく叱責する。
どこ吹く風のマリアンヌ。
「初めまして、アルメニア伯爵閣下。
ルーシーメイの長女マリアンヌと申します」
スカートの裾を摘み、淑女の礼をする。
呆気にとられて、ああ、と情けない返事を返した。
「伯父様、今成長著しい西アルメニアですわ、行くべきです。
儲けのネタはそこら中にありますわ。
まだライバルも少ない、今が大儲けのチャンスですわ」
金髪のお嬢様の勢いに、押され気味のハロルドさん。
「そうは言っても、会頭など、お前にはまだ早い」
「ここで断れば、他の商会に話を持って行かれるわ」
食い下がるマリアンヌ。
「ならば、優秀な補佐を付ければ、宜しいのではありませんか」
入口付近から、別の女の人の声。
「お初にお目にかかります。マリアンヌの母、ルーシーメイと申します。
大変名誉なお誘いをいただき、ありがとうございます。
お答え出来ないのが、心苦しく思いますわ」
「お気になさらずにいてください」と俺は返した。
それから、スッタモンダの末、マリアンヌが会頭、補佐にローバーさんと決まった。
ローバーさんは、長い間、業績の悪い支店を、幾つも立て直した凄腕支店長だった人だ。
どう見てもこの人選、もったいないだろう、というか過保護すぎだろう。
もっと言えば、会頭の件、ローバーさんで良かったろう。
まあ、うちにとっては有難いけど。
俺とマリアンヌ、ローバーさんは、転移で領都リーフリンクに帰還した。
「ようこそアルメニアへ、アルメニア商会、初代会頭殿」
俺は、大袈裟に礼をして、二人を迎えた。
「これが白亜の領都、噂以上だわぁ~」マリアンヌは、興奮気味だ。
「チョット見てくるわね」
サッサと走り去るマリアンヌ、後を追うローバーさん。
俺は、近くにいた衛兵のロバートを呼び止めて、二人の護衛を命じた。
「では、よろしく頼む、くれぐれも、トラブルに巻き込まれない様にな」
「了解いたしました。では、行きます」
ロバートは、全速力で二人を追掛けた。
走り去るロバートを見ながら、何とも締まらない幕明けだと、苦笑した。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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