第16話 出涸らし王子の全国漫遊記 ②
「「そっちに逃げたぞぉ~、追えぇぇー!!!」」
ゲスタック伯爵の領都に男たちの怒号が響く。
「全く、何処に行きやがった」唾を吐き捨て男は愚痴る。
「何処にも居ませんぜ」
「そんな訳あるかぁ!!お前らの目は節穴かぁ~!!よく探せぇー」
ここ数日、ダークエルフが姿を現わしては、直ぐに撒かれる日々が続いている。
お陰で、伯爵を始めとする関係者のストレスはうなぎ上りだ。
アイシャは、準備体操がてらに、男たちと追掛けっこをこなして、アキュフェースの転移でシスアの森にいる。
アレン王子がレベリングをすると聞いて、自分も参加すると言い出した。
1人も2人も一緒なので快く承諾した。
アレン王子は、レベルが10上がり戦士もスキルマスターになった。
今は、魔術師にチャレンジ中。
アイシャも、精霊使いがスキルマスターになり、盗賊にチャレンジ中だ。
「しかし簡易リンクだと、使える枠が1つだけだから不便だよな」
(告:『すっぴん』になれば、問題ありません)
「初めて聞くけど、なに」
(リンクを解除するか、職業欄に何もセットしなければ、『すっぴん』状態になります)
「そうなると何が良いの?」
(ステータス補正は無くなりますが、覚えたスキル全て切り替え無しで使用可能になります)
「ステータス補正も良し悪しだからな」
戦士系なら、力と耐久力が上がっても、魔力は落ちる。
魔法職なら、その逆だ。
いちいち切り替えるのも面倒だし、ステータス補正の際の違和感が無くなるのは良い。
帰ったらレベリング組の簡易リンクを解除しよう。
「そうだ、これって、俺たちにも適用可能?」
(是:可能です。本来の自分に戻るだけです)
「良い事を聞いた、みんなにも、この情報流しておいて」
(了:但し、実効性は低いと推察)
確かに、みんな極フリ型だから、ステータス補正が無くなるのは地味に痛いだろうから。
バランス型の俺には、ありがたいが。
「貴様ら一体何を遣っておる。毎度毎度コケにされて、恥ずかしくは無いのか?」
伯爵は憤る、部下たちを叱責する。
「まあ、その辺でアルフォンス様、これ以上はお体に障ります」
「何を言うか、貴様も同罪だ、ミゲーロ」
「分かっております。今度は『餌』を用意してございます。
あの娘が、ヒトデナシでなければ、掛かるのは時間の問題であると、推察します」
「その言葉に嘘は無いな、ミゲーロ、結果で示せ」
「御意のままに」奴隷商人は、恭しく礼をした。
シスアの森でレベリングを始めてから、アイシャは、絶好調だ。
精霊使いはスキルマスターに成り、今は盗賊のスキルはレベル7。
スキルマスターまで、あと1つ。
レベルも18上がり、現在レベル36。
嘘みたいに強くなるのを感じる。
準備体操代わりの追掛けっこ、今日は様子が少し違う気がした。
元々、アキュフェースの発案だ。
アイシャが姿を現すことで、敵陣営を引っ掻き回す、最終的には捕まって、敵のアジトまで、道案内をさせる。
その間、他のメンバーは、証拠探しに勤しむ。
アイシャが、ここまでしたのは、ワザと捕まっても怪しまれない為だ。
今日は少し、空気が違うのを感じた。
何か仕掛けてくるのは、肌で感じられる。
「いよいよ、なのかな」アイシャは独り言を呟く。
いつも通り追い掛けっこをしていると、アイシャの目によく知る娘の姿があった。
「マリアちゃん!!」
アイシャは、思わずマリアに駆け寄った。
「どうしたの、マリアちゃん、上手く逃げ出せてこれたの?」
虚ろな目のマリアは、アイシャを見るといきなり羽交い絞めをした。
「どういうこと?」
アイシャは、呆然として口走る。
「どうもこうも無いんだよ。手間かけさせてくれたじゃないか。嬢ちゃんよ」
駆け寄った男たちの、下種な笑いが包む。
アイシャは捕まり、アジトまで護送された。
その後を、気配を消してつけているのを、気づかずに。
『王の目』機関から、今回の調査に派遣されたサーラは、ゲスタック伯爵の屋敷に、メイドとして潜入している。
奴隷売買に関わる証拠の書類は確認済み。
あとは、偽物とすり替えるタイミングだけだ。
しかし、『金の成る針』『世界友愛評議会』の情報は、影も形もなかった。
(『ハズレ』だったかしら・・そうなると、奴隷商人の方かしら・・・)
「オイ!!そこで、何をしている」
使用人らしき男に呼び止められる。
「広いお屋敷なので、道に迷っていました。メイド長の処へは、どう行けばよろしいでしょうか」
「フン、見ない顔だと思ったら、新入りか。そこの階段を降りて右だ」
「ご親切にありがとうございます」
サーラは、礼を言ってその場を離れた。
アキュフェースは、敵のアジト近くに身を隠し、如何したものかと中の様子を伺っている。
忍び込むのは簡単だが、正直人手が欲しいと思っていた。
後ろから気配を感じ『ヒャッ』としたが、サーラさんと確認した。
「具合はどうですか?」
「至って順調♪これから忍び込もうと思っているけど、サーラさんはどうする?」
「言わずもがなですよ」
二人は闇にまみれ、アジトに侵入した。
奴隷として連れ去られた娘たちの場所の確認、証拠書類の押収、しかし、『世界友愛評議会』との繋がりを示す証拠は見付らなかった。
ただ、闇オークションの場所と日時は判明した。
連れ去られた娘たちは、眠り薬をかがされ、麻袋の中に入れられ、擬装用の荷物と一緒に、ファルムス王国の王都にある『とある場所』に運ばれた。
夜の帳も降りて、仮面をつけた貴族らしき人々が、次から次へと集まってくる。
「アレン王子、いよいよですがいけますか?」俺は確認を取る。
「勇者殿は、本当に人が悪い」アレン王子は、笑う。
「ここでやらねば、私たちを信頼してくれた、アイシャさんの為にも、やり遂げなければ成らない」
既に会場の周りには、近衛及び王宮騎士団が配備されている。
「では行きましょう、お互い、神々の加護を」
俺の一言で作戦は始まった。
オークション会場の分厚い緞帳が開き、オークションは始まった。
「お集まりの紳士淑女のみなさま、今宵は我が商会のオークションに、多数のご来店、心より御礼申し上げます。
皆さまのご満足いただけるよう、多数の品物を用意してございます。
どうぞ、最後までお楽しみ頂けます様に、お祈り申し上げます」
一礼して、支配人らしき男は、退場する。
ファンファーレが鳴り、オークションは開始される。
最初の奴隷がステージに上がった時、仮面を付けたアレン王子が、大声を張り上げる。
「王宮騎士団だ。奴隷密売の現行犯で逮捕する。おとなしく縛に着け」
会場は阿鼻叫喚の嵐となった。
参加していた観客も含め、次々と逮捕されていく。
俺たちはスタッフを次々と無効化しながら、女たちが捕らえられている檻を目指した。
(告:数名の女に針を確認)
「クソ、後回しの方が良いか」
この後も襲い来る敵を、千切っては投げ、千切っては投げと、獅子奮迅の大立ち回りを演じた。
動ける敵の数が減り、俺もそろそろ頃合いかと感じていたら。
俺の様子を見ていた、アレン王子が
「勇者殿、もう良いでしょう」
アレン王子は仮面を外す。
動ける敵が少なくなった処で、俺は声を張る。
「静まれぇ~静まれぇ~、この紋所が目に入らんか」
俺は印籠代わりに、王家の紋章の入った『小旗』を掲げる。
「ここにおわす方を何方と心得る。
恐れ多くもファルス王国、第2王子アレン様で在らせられる。
第2王子の御前である。
ものども、頭が高い。控えおろうぅ~ 」
一度は言ってみたかったセリフが言えて、俺は、大満足だ。
やっぱり、『ははぁ~』とはならない。当然だけど。
会場は、余りと言えば、余りの展開に呆然としている。
いち早く正気に戻ったゲスタック伯爵は、満面の笑みを浮かべて
「殿下、これは、何かの間違いです。釈明の機会をお与えください」
この状況で、これを言える神経は、尊敬に値する。
(告:ゲスタックの懐に、例の銃を確認)
Thanks,文殊。俺は、すぐに殿下に耳打ちする。
頷くアレン王子。
「この状況で何が間違いだと、残念だ、ゲスタック」
「そうおしゃらず、わたくしの話を聞いて・・」
話しながら、懐からパラボラ付きの銃を取り出し、アレン王子に襲い掛かる。
俺は素早くゲスタックの右腕を落とす。
入れ違いでアレン王子が胴を払う。
ゲスタックは死に、奴隷商人も舌を噛み切って自決していた。
攫われた女性たちは、救えたが、1番知りたかった情報が、闇から闇に葬られた。
釈然としないが、言っても始まらない。
結局アイシャは、本人の希望もあって、俺が預かる事となった。
後日談ではあるが、アレン王子の活躍が王都内に知れ渡り、王子をモデルにした劇が庶民の間で人気を博した。
才能に恵まれ人格者である兄と、王位を争うなど馬鹿げていると、王位継承権を自ら放棄して、最強の護衛2人と密偵一人を引き連れて国内を旅する。
領民を苦しめる悪徳代官や領主などを、懲らしめて回る。
その名も『出涸らし王子の全国漫遊記』
シリーズは、もう、3作目になるそうだ。
アレン王子は、劇の主人公とイメージを重ねられ、大変、困惑しているらしい。
正義の味方のイメージを押し付けられて、アレン王子も大変だ。
めげずに生きて欲しいと心から願う。 合掌。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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