07-03 アニマの使徒の物語
ローシャの民に見送られ街を出たアリシアとフィリスとミルファが乗る王国行きの馬車の中は、重苦しい雰囲気だった。
「気にしているのアリシア?」
「ん⋯⋯せっかく王様達が街の人達の私の印象をよくするようにあれこれ気を使ってくれたのに、肝心の湖の復旧は何もできなかったからね」
アリシアの持つ魔法の使い方ではよそから水を持ってくる位しか方法が無く、そうすると結局生態系がめちゃくちゃになる可能性がある為、ルース湖は自然回復に委ねることになったのだ。
「そうじゃないよ⋯⋯アリスティアの事よ」
「⋯⋯何でもお見通しだね⋯⋯フィリスは」
アリシアは目を合わせず窓の外を見ながら呟く。
「アリシア様が気にされる事ではないと思いますが」
アリシアが気にしているのはアリスティアの結末だった。
「結局アリスティアの自業自得だとは思う、でも私もあの時フィリスに出会ってなければ、そして世界が私に対して気を使い続けてくれなければ、ああなっていたのかな⋯⋯そう思うとね」
「そういう可能性は確かにあったかもしれない、でもアリシアはアリスティアと違って自分のやりたい事の為に人に犠牲を強いたりはしない、だから違うんだよ」
あまり理論的ではないフィリスの言葉は、だからこそ気持ちが込められているとアリシアは感じた。
「ありがとうフィリス⋯⋯」
アリシアは空を見上げながら思う、アリスティアは今どこにいるのだろうかと⋯⋯
一方、ダンジョンの工房へと向かうアリスティアの旅路は順調そのものだった。
「ねえところでさ、何であのタイミングでアリスティア様は復活したのかな?」
「確かにな⋯⋯偶然にしては出来すぎだが」
「別にどうでもいいではないか、こうしてアリスティア様が復活した、それ以外に何があるというのだ」
そんなアニマの使徒の疑問にアリスティアがあっさり答える。
「あの銀の魔女が私を殺してくれたからだよ」
「え!? ⋯⋯じゃあもしかして、あの起源魔物がアリスティア様だったんですか?」
「違うよ、お空の上に居たの」
その言葉にアニマの使徒は理解する、道理で世界中を探し回っても見つからなかったはずだと。
「ははは、これは傑作だ! そんな奇跡を引き当てるとは、結局あの銀の魔女はアリスティア様の為に存在する、踏み台だと証明された訳だ」
「踏み台? 違うよ、あの子は私のお友達になるの、だって私を助けてくれたんだもん」
その主の言葉にアニマの使徒は従う。
あの銀の魔女は色々と腹が立つ存在だがあえて手を出すのも危険すぎる相手だという事は認めている、それをアリスティア様が友と呼ぶのであれば、従うのはやぶさかではない。
しかしそれとは別に二百年前にアリスティアをないがしろにした帝国や王国に対して、復讐するのをやめる気は無い。
「私の事はどうでもいいよ、貴方たちは今まで何してたの?」
「そうですね、目的地までまだ時間はかかります、退屈しのぎになれば⋯⋯」
そしてアリスティアに話し始める、これまでのアニマの使徒の物語を。
今から二百年前にアリスティアがオズアリアに封印される直前に、彼らアニマの使徒たちは殺されていた。
しかしそんな彼らがアリスティアがあらかじめかけておいた魔法によって復活した時には主の存在は無く、世界は英雄の誕生に歓喜していた。
今すぐ復讐したい、しかしそれが叶わない事も理解していた、それだけあの魔女は圧倒的だったアリスティアを容易く幾度となく殺し続けた化け物なのだから。
すぐに彼らはアリスティア復活に手を尽くした、予備の体は無事確保できたが復活させる事は叶わなかった。
アリスティアが殺されたのではなく封印されたせいだった、しかもその場所は全くわからず時間だけが過ぎていく。
やがて彼らの心は復讐だけに染まっていく、しかし今は無理だあの魔女がいる限りその望みは叶わないと理解する。
そして彼らは長い眠りについた、あの魔女が死ぬか奇跡的に主が復活しているその時まで⋯⋯
――そして、それから二百年の時が経った。
彼らが目覚めた時、目論見どうりあの魔女は死んでいた、そうなるように調整していた眠りだったからだ。
目覚めた彼らはまず世界がその後どうなっているのか知ることを始めた。
そしてわかった事はこの世界はどこまでも平和だったことだ、しかしそれがアリスティアの死の上に成り立つものであることを理解した時、彼らの心は怒りに染まる。
何よりも許せなかったことは偉大なる〝命の魔女アリスティア〟の名を知る者はもはや誰もおらずただの〝破滅の魔女〟とだけ名付けて広まっている事だった。
そしてそれを行ったのが帝国や王国といった国の仕業だという事も、そして彼らは主に汚名を着せた世界へと復讐を決意する。
――ここに〝アニマの使徒〟が誕生したのだ。
彼らはまず王国と帝国の力を削ぐことにする。
王国の国王に不満を持つ者を見つけ出し、上手くたきつける事ができ王に呪いをかける事に成功した。
次は帝国のあちこちの魔素溜まりを人為的に氾濫させる実験を始める。
そうやってこの二つの国を消耗させて、ゆくゆくは互いに不信感を募らせる工作をし戦争へと導くことにした。
なお今は共和国と呼ばれている国は元々恨みのないあの頃の小国群の寄せ集めに過ぎない、そしてもしアリスティアが復活した時にはそれを称える人も必要だと思い、今は放置する事になった。
アニマの使徒たちが目覚めてから約半年そこまでは順調だった、このままいけば王国と帝国の戦争が始まりその最前線に魔導皇女と黄金の姫騎士が出て来て潰しあい、そのどさくさで捕獲してアリスティア復活の為の魔法の実験体として使う事も出来ると⋯⋯
だが唐突に現れた銀の魔女によって全てが狂い始める。
王国にかけられた呪いは解かれ、帝国の魔素溜まりの氾濫も未然に防がれた。
しかもそれらの流れの結果両国に強い結束が生まれてしまったのだ。
また銀の魔女の力が未知数な事が次の行動を妨げた、あの殲滅の魔女の異常な戦闘力は当時としても飛びぬけていた、主であるアリスティア本人は戦うことに関しては魔女としては最弱に近かったが、それでも人の魔道士に負けるほどでもない。
つまりあの銀の魔女の戦闘能力はあの殲滅の魔女の半分は最低でも見積もらなくてはならないと、これによってアニマの使徒の次の行動は慎重で隠密を心掛けるものになった。
世界を暗躍しながら王国と帝国に対する復讐の糸口を探す、それと同時にアリスティア復活の準備も始める。
幸いにも現代において冒険者という屈強な、いつ死んでも居なくなっても怪しまれない実験体の確保が容易だったのは僥倖だった。
しかし魂の受け皿に関してはそうはいかない、繰り返し使う事が前提でありその実験に耐えうる器となるとひどく限られる、
魔導皇女が理想だったが今はもう手が出せなくなっていた、あの銀の魔女の庇護下に入ったからだ、黄金の姫騎士に関しても同じだがこちらは魔術が全く使えない珍しい体質だと判明した為、あまり実験に使う気にはなれなくなった。
そんな時だった、今では森の魔女などと日和った名に改名した殲滅の魔女の葬儀が行われると、そしてそれに向かう為帝国家が共和国へ向かうという事も知る事が出来た。
千載一遇の機会が訪れた、皇帝とその息子どちらでもよかったがより適している皇子の方を確保する事に成功した、これでアリスティア復活に一歩近づいたのだと、しかし彼らは思い知るあの銀の魔女が如何に理不尽な存在かという事を。
あっさりとこちらの居場所を突き止め人知れず工房に侵入し、あまつさえやけくその時間稼ぎに放った起源魔物まであっさり倒す、意味不明な化け物だったのだ。
しかし、その一連の流れがアリスティア復活へと繋がったのだった。
そんな長い話が終わった時アニマの使徒たちは気づく。
今リーベに乗っているアリスティアが寝てしまっているのを⋯⋯
「どうやら話が長すぎたようだな」
「仕方ないよ、まだ復活したばっかだし」
「また何度でも話す機会はあるさ⋯⋯これからはずっと一緒なのだからな」
そう言いながら眠りについたアリスティアを、アニマの使徒たちは慈しむように見守っていくのだった。
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