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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第五章 日常の訪れ

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05-12 箱庭の罠

 三人は闇の中へと落ちていく。

 しかしそれほど大したダメージを受けることなく転落した、それは大きな水溜りに落ちたからだった。

「いてて、みんな大丈夫?」

「こっちは平気よ!」

「私も大丈――熱っ!?」

 それはミルファだけではなく三人とも全員が同時に皮膚に焼ける様な痛みを感じた、そしてその理由が判明する。

粘液生物(スライム)よ! みんな離れて!」

 そう、水溜りだと思っていたそれは粘液生物(スライム)だったのだ。

 幸運にも一緒に落ちてきた一つ目巨人(サイクロプス)の死体に群がったその粘液生物(スライム)から三人は無事脱出できた。

「すぐ治します! 『最上級(エクス・)範囲(エリア・)治癒(ヒール)』!」

 ミルファの迅速な治療によって全員痛みはおさまった。

「ありがとうミルファちゃん⋯⋯で、これどうする?」

 フィリスは現在一つ目巨人(サイクロプス)を溶かしつつある粘液生物(スライム)をどうするか意見を求める。

「一応倒しておきましょう『永遠の氷結界エターナル・アブソリュート』!」

 そしてルミナスの魔術であっさりその粘液生物(スライム)は凍結し、その後核の部分をフィリスが発見し剣で刺して砕いた。

「それにしてもここはどこなの? 一階じゃないわね?」

「たぶん地下だと思うわ、原作には罠にハマって地下に落とされる展開があったから」

「一階を通り越して二階から直接地下に?」

「まあここはアリシア様の思い通りになる世界ですから、そういう事もあるんじゃないかと」

「そう言うことね、つまりさっき床が抜けたのもアリシアの仕業なのよ!」

「ふーん⋯⋯まあそういう事にしましょう、それにしても暗いわね」

 ここまで塔の中は明り取りの窓があったため案外明るかったがここは地下の為かその窓がない、今光源となっているのはさっき抜けた天上の穴から射しこむ光のみだった。

「今、明かりをつけますね」

 そう言ってミルファが光属性の無詠唱魔術で辺りを照らした、そして――

「ギャーーーー!!」

 ルミナスの叫びがこだまする、今三人の周りには大量の人骨、スケルトンに囲まれていたのだった。

「ひっ近づくな! 『土竜の千獄錐(ガイア・ニードル)』!」

 焦ったルミナスは大地の土や石なんかを針に変えて広範囲を攻撃する魔術を発動したが、スケルトン相手にはスカスカでいまいち効果が無かった。

 それゆえにルミナスはスケルトンの突撃を止められず、身動きが取れなくなった。

「ミルファちゃん!」

「はい!」

 フィリスとミルファはそれぞれ手あたり次第スケルトンを処理していく、そしてルミナスは割とすぐに救助された。

「あ、ありがと二人とも⋯⋯」

「いえ、どういたしまして」

「大丈夫ですかルミナス様?」

 そう言いながらミルファは再び治癒魔術をルミナスにかけた。

「こ怖かった⋯⋯あんたたちは平気なの?」

「スケルトン退治は初めてってわけじゃないし」

「本物だったら確かに怖いですけどこれって作りものですよね? アリシア様が作った骨型のゴーレムみたいなものですよね?」

 ここへきてルミナスは確信した、自分やフィリスはある程度この世界を本物だと思って行動しているがミルファは完全に作りものだと考えているのだと。

 それが正しい事なのか、つまらない事なのか考えても仕方がない話である。

「とりあえず上を目指しましょう、あそこに階段があるわ」

 そして三人はその階段を使って三階、すなわち最上階を目指したのだった。


「みんな、三階に着く前に言っておくけど多分ラスボスはアリシアだよ」

「え!? アリシア様が?」

「⋯⋯でしょうね」

 ルミナスもフィリスの推察には同感だった。

「でもアリシア様までこの箱庭の世界に入ったら、誰がこの世界を制御するんです?」

「アリシアは思考を分割出来るって言ってた事がある、つまり人形になりながらも本体も動けるんじゃないかな?」

「だんだん読めてきたわね、みんなこれがただの娯楽じゃないってそろそろ気付いてるんじゃない?」

「⋯⋯ええそうね、原作であった謎解きや罠なんかまったく無くて、色んな魔物とばかり戦っている」

「つまりこれは訓練みたいなものだという事ですか?」

「少なくともここでは私達は死なないわ、だから遠慮は要らないとも考えられる」

「ここで辞める事も私達は出来るけど、どうする?」

「当然行くわ! アリシアさま相手に本気で戦える機会がこの先あるかわかんないし」

「私もそれがアリシア様の望みなら従うのみです」

 三人の意志はそろった。

「じゃあ行きましょう! 決戦の舞台へ!」

 そして三人は最上階へと到達するのだった。


 最上階の部屋の奥に椅子に座った黒いフードで顔を隠した女性が座っていた、あれが新月の魔女なのだろう。

「ふふふっようこそ私の塔へ、楽しんでもらえたかしら?」

「⋯⋯アリシアだよね?」

「⋯⋯そうだけど今は新月の魔女として扱ってくれないかな?」

「アリシア様これは一体どういうおつもりなのですか!?」

「いやこの前の人形劇でルミナスが悪役をやっていたのがやけに楽しそうだったから、ちょっとやって見たくなった」

「そんな理由で⋯⋯」

「ふっ、それがわかるとはアリシアさまもなかなか見どころがありますね」

「本当にそれだけが理由なのですかアリシア様?」

「⋯⋯私には今のうちに確かめておきたい知っておきたい事がある、だからもう少しだけ付き合ってくれないかな?」

 三人は目を合わせて意志を確認しあう。

「わかった、それがアリシアの望みなら!」

 そう言ってフィリスはアリシアに対してその剣を構えた。

「ありがとうみんな、じゃあまずはこれと戦ってもらおうかな?」

 そしてアリシアと三人の間の空間に巨大な竜が現れた。

「この間の人形劇の奴じゃない!」

 そう言ってる間に竜は襲い掛かってきた。

 竜が吐く炎をルミナスの魔術で素早く無効化する、おそらくそうなるだろうと準備しておいたのだ。

 その隙にフィリスは竜に切りかかった、多少ではあったが手傷を負わせることには成功した。

「うん、勝てない相手じゃない!」

 フィリスはもしもアリシアが本気でこちらを潰す気なら勝てない相手と戦わせることもあり得ると思っていた、しかしこの竜はけして敵わない相手では無かった。

「『真紅の極炎鳥クリムゾン・イーグレット』!」

 竜がフィリスに気を取られている間にルミナスはとりあえず最強の魔術をぶつけてみた。

「あまり効いていませんね」

 竜相手には手の出しようが無いミルファは冷静に戦局を見るくらいしか出来なかった。

「まあ想定内ね、ミルファは安全に様子見⋯⋯特にアリシアさまに気を付けて、何かしてきたら教えて!」

「はい、わかりました!」

 これで竜相手には実質二対一である。

「どうするルミナス?」

「基本的に私は援護に徹する、あのデカブツを倒すのはあんたよフィリス!」

「了解!」

 そしてフィリスは単身竜へと立ち向かっていった。

 そう、それはまるで語り継がれる物語の英雄の様に⋯⋯


 その戦いをアリシアは決して邪魔せず見ていた。

「いい、やっぱりいいなフィリスは⋯⋯」

 強敵相手に怯むことなく向かっていき、堂々と渡り合うフィリスの姿にアリシアは心奪われていた。

「フィリスには余計なものは必要ない、後はルミナスとミルファか問題は⋯⋯」

 そう呟きながらアリシアはフィリスと竜の決着が着くまで、見守っているのだった。

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