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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第五章 日常の訪れ

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05-02 王宮での企み

「セレナリーゼ様をギルドマスターに?」

 アリシアはしばらく考えるそして、

「いいんですかそんな事をして? そもそもギルドマスターはガーランドさんでは?」

「ガーランドはここエルメニア支部のギルドマスターであって、魔の森支部のギルドマスターになる訳ではない」

「そういえばそうでしたね⋯⋯すっかり勘違いしていました。 しかし王族であるセレナリーゼ様をギルドマスターにするのはいいんですか? 民間組織なんじゃなかったんですか?」

 そうアリシアに言われややアレクは困った顔で、

「そう言われると立つ瀬がないがあくまで〝冒険者セレナ〟をギルドマスターにする、これが今後の面倒が起きない一番の方法だからな⋯⋯」

「面倒事が起きない方法? ではそうしなければ面倒になると?」

 どうやらセレナリーゼの生存は秘匿されるらしいとアリシアは察する、それでいいのかわからないがアリシア自身も家族との接し方は普通ではないとの自覚はある、しかしアリシアはそれでいいと思っているのであちらも当事者がそれでいいなら口を挟むようなことでは無い。

「このまま自然な成り行きで魔の森のギルドマスターが選ばれれば、それは何処かの冒険者ギルドの息がかかった者になるに違いない、そうなれば魔の森の情報はギルドを通じて際限なく拡散し、またいきなり巨額の金が動く以上不正も起こるだろうと予想している」

 この話をアリシアの隣で聞いていたミルファは、確かにそうなるだろうなと思った。

「たしかに、もしそうなれば非常に不愉快ですね⋯⋯」

 アリシアにとって冒険者とそのギルドはナーロン物語でお馴染みの存在というだけなのだ、そして魔の森は自分が師より受け継いだ大切な場所ではあるが、有効活用していない今後も使う気が無い場所は広い、だからその場所を冒険者たちに開放してもいいのではと考えたのだ、その結果が裏切りだとすれば不愉快だし師にも申し訳が立たない。

「幸いと言っていいのか判らないが母は死んだ事になっている、そして冒険者としても実績は十分だ」

「セレナリーゼ様はBランクでしたよね確か、それでなれるんですかギルドマスターに?」

「ガーランドもAランクで引退して二年ほどの下積みを経て地方のギルドマスターになった男だからな⋯⋯魔の森の支部が正式に稼働するのは来年の春以降になるだろうが、今から二か月後くらいには仮設ギルド支部を作り今回選抜された二十名ほどの冒険者で調査狩猟を始める予定だ。 そして仮支部の間は一応エルメニア支部預かりにする予定で、その間に母にはガーランドの補佐官という名目で下積みを終えて来年春の発足と同時にギルドマスターに就任するという筋書きだ」

 アリシアはアレクの話を聞いて考える。

「⋯⋯結構あくどいですね、それに日程的に厳しくないですか?」

「まあそこは何とかする⋯⋯母が、それに魔の森の主であるアリシア殿の推薦が受けられれば誰も何も言えんだろう」

「私にもその片棒を担げと?」

「アリシア殿の矜持に反する事なのか? なら無理強いはしないが」

「うーん⋯⋯〝契約は守る人を騙さない、しかし嘘はついてもいい〟が師の教えですから」

「何その矛盾⋯⋯」

 フィリスの疑問にアリシアは答える。

「騙すというのは利益を得たりするために欺いて人を何かに誘導する事で、嘘は真相を隠して遠ざけさえすればどっちに行ってもいい、みたいなこと⋯⋯らしいです」

 どうやらアリシアにとっても境界は曖昧らしいと一同は認識する。

「この場合は目的に誘導するから騙すになるのではないか?」

 ラバンはそう分析する。

「しかし他者から利益を巻き上げるのではないぞ、むしろそうしようと画策する者を近寄らせない為の策謀だ」

 と、セレナリーゼは反論する。

「そもそもセレナリーゼ様をギルドマスターにして私が不利益から守られるのはいいとして、そこから王家が利益を得ようとしない保証は無いのでは?」

「そう言われると利益誘導をしないとは言えないな、しかし王家にとって最も不利益な事はアリシア殿の不評を買う事だ、だから信じて欲しいとしか言えない」

 そしてアリシアはラバン、セレナリーゼ、アレク、最後にフィリスを見つめてこう答える。

「わかりました手を貸しましょう⋯⋯お互いの今後の為に」

 アリシアは思う、もし自分が魔女としての厳格な考えしかできない心の持ち主ならこの申し出を断っていたのだろうか、と――

 ――そして徐々に、この国との溝が出来て疎遠になっていたのだろうか、とも⋯⋯


 あの後、冒険者セレナを推薦する書類を書いたりして細部にわたった綿密な打ち合わせの後、ラバンとセレナリーゼは退室していった。

 そしてそれと入れ違いになる形で一人の眼鏡をかけた女性が入室してきた。

「紹介しよう彼女が今後の魔の森関連の金銭の責任者で、アリシア殿の顧問会計士も兼任してもらう者だ」

「初めまして銀の魔女様、わたくしはゼニス・ゴードルと申します」

 そしてアリシアに対して一礼する。

「彼女はこの国の財務大臣のカネール・ゴードルの娘だ」

「そうなんですか⋯⋯」

 アリシアはそれ以外なんとも言えない、取り合えず絶対裏切れない身元の確かな人物をあてがわれたのだけは理解できた。

「ゼニス最初の仕事だ、こちらのアリシア殿の従者のミルファ殿の口座を作って欲しい」

「かしこまりましたアレク殿下」

 そう言ってテキパキと書類一式を準備しだす。

 そして言われるままにミルファは、その書類一式にサインしていく。

「空口座は作れませんので最初にいくらか入金額を決めてください」

 その言葉にアリシアは考えるが相場がわからずアレクに助言を求めた。

「そうだな支度金という意味も含めて年収の三倍くらい辺りが妥当かな?」

「そうですか、じゃあ三千万G(グリム)で」

「三千万!?」

 ミルファにしては珍しい大声だった。

「あれ? おかしかった?」

 アリシアが確認の為に周りの人達の顔色を伺うが、誰も何とも思っていないようだった、ただ一人を除いて。

「ミルファ殿、君の今後の役職はアリシア殿に仕える銀の魔女教団の幹部で教会の大神官クラス相当だ、年収一千万G(グリム)はそう大きい金額では無い」

 そうアレクに諭されるがミルファの顔色はさえない。

「ミルファ私は魔法は万能でどんな望みも叶えてくれると信じている、しかしそれは私や私の身近に居る人達に対してだけで世の中に魔法が行きわたっている訳じゃない、そうじゃない人達はそれぞれの幸福をお金の力で手に入れている、全部がとは言わないけど」

 魔法が至高の力だと信じるアリシアにとってお金の力を認め頼る事は、実は魔女の矜持が傷つく事だった。

 しかしミルファに対してアリシアの魔法による幸福だけを与え続けるという事も健全とはいえない、とも思っている。

「⋯⋯」

「ミルファ様お金は所詮お金です、それをどう使うかは貴方次第です、そしてお金を使わない事とお金を持っていないでは大きな違いがあります、もしミルファ様が本当に使わないのであればいっそ寄付でもしてしまえばその名声は巡り巡って銀の魔女様の力になるでしょう」

 そんなゼニスの言葉にミルファは考える⋯⋯そして、

「いつか私が運営する孤児院を立てても構わないでしょうか?」

「⋯⋯それがミルファの望みなら、私も力を貸すよ」

 アリシアの言葉を聞いてようやくミルファは決心し、最後まで書類にサインした。


「ミルファちゃんは向こうで少し休憩しようか?」

 重苦しくなったミルファを慮ってフィリスがそう提案する。

「そうだね、そうするといいよ」

 そしてフィリスが立ち上がりミルファを隣の休憩室へ連れて行こうとする。

 一瞬抵抗しようとしたミルファだったが、この時ある使命を思い出す。

「ではフィリス様、よろしくお願いします」

 そしてそのままミルファはフィリスと共に退室し、残されたアリシア達は今後の事を話し合う。

 この会計士のゼニスはいずれ出来る魔の森の冒険者ギルドの隣に出来る、魔の森の外交用の役所付きの金銭の責任者になるのだからだ。


 その頃ミルファは休憩室でフィリスを引き止めていた。

「フィリス様とルミナス様に大切なお話があります、アリシア様には内密に」

 そう言われてフィリスは通魔鏡を取り出しルミナスを呼び出した。

『何、あんた達だけ?』

 ルミナスは通魔鏡に映っているのが、フィリスとミルファだけなのを訝しむ。

 元々通魔鏡には一対一で話す機能もある、しかしそれを使ってアリシア以外の三人だけで話すのは今まで無い事だった。

「実はアリシア様には内密にお二方にお伝えしなくてはいけない事があります」

 フィリスとルミナスはじっと黙って次のミルファの言葉を待つ。

「五日後の七月七日がアリシア様のお誕生日なのです」

お読みいただき、ありがとうございます。

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