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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第四章 魔の森へようこそ

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04-06 ギルドマスターの苦悩

 〝冒険者ギルド〟それは魔物や魔獣、果ては竜といった脅威から人々を守る人材を管理する民間組織である。

 そんな冒険者ギルドのエルフィード王国支部のギルドマスターの元に、各地を代表するギルドマスター達から銀の魔女への打診を催促された事により今回の騒動が始まった。

 なお冒険者ギルドには各地の地方支部同士を纏めるその国の代表支部は存在するが、全ての国を総括する総本部は無い、あくまで各国の代表同士が連携しあって維持されている。

 もちろん全ての国の代表支部が平等であるという建前はあるが、どれだけの脅威を退けているか、お金を稼いでいるか、それらをこなすどんな人材を抱えているかによって、どうしても発言力に差が出来るのが現実だった。

 そういう意味において、エルフィード王国代表の首都エルメニア支部長ガーランドの立場と役割は微妙である、首都エルメニア近郊には狩場と言える場所が無いため地方支部の橋渡しが主な業務でしかないからだ。


「はー⋯⋯、どうしてこうなるのかなー」

 銀の魔女への面会の為に、王城へと向かう馬車の中ガーランドはため息をつく。

 数日前、エルフィード王国宛に銀の魔女への謁見を求める旨の封書を送らされたガーランドだったが、それはあくまで各地のギルドマスター達への義理であり、実現するなど思っても見なかったのである。

 そもそも百年前の冒険者ギルドが、森の魔女を怒らせたのが全ての始まりである。

 その後いくら交渉しても再び魔の森が冒険者ギルドへ開かれる事はなく、今日に至っている。

 他のギルドマスター達はその魔女が代替わりした今こそチャンスだと考えているようだがガーランドにはそうは思えない、所詮は門前払いで終わりだと思っていたのだ。

 なのでこうして面会が叶うことは大誤算なのだった。

 もし下手に交渉が上手くいってしまえばかえって大怪我になる、そうガーランドは考えている。

 ガーランドが調べた限り過去のイザコザの原因を全て払拭するのは、限りなく困難だと。

 せっかくギルドマスターという地位にまで登り詰めて、そろそろ彼女でもと思い描く人生設計が崩れる予感しか無い。

 ガーランドは思う、自分の人生はいつだってそうだと、上手く行くと思った時には取り返しがつかない失敗をするのだと。

 そうガーランドは現役冒険者を引退した理由である、失った右腕を見ながらため息をつくのだった。


「私は冒険者ギルド、エルメニア支部長のガーランドです。 本日はお目通りいただき誠に光栄でございます」

「よく来たガーランドよ、私はエルフィード王国王太子アレク・エルフィードである。 今回の立会人である、今日は存分に話すが良い」

 この国の王子に対して膝をつき首を垂れるガーランド、そして次に話しかけてくるのはこの国の王女だった。

「お久しぶりですガーランドさん、今日私は銀の魔女様の相談役として同席します」

「ありがとうございますフィリス王女、いつもお世話になります」

 ガーランドはフィリスとはギルドマスターとして何度も面識があり力を借りた間柄である、だからガーランドにとってここではフィリスだけが心休まる存在なのだった。

 そしてそんなガーランドにとうとう話しかけてくるのは、今日ここへ来る羽目になった相手⋯⋯銀の魔女だった。

「ギルドマスターのガーランドさんですね、私は銀の魔女アリシアです」

「はい、ギルドマスターのガーランドでございます、今日はよろしくお願いします」

 帰りたい⋯⋯それがガーランドの心からの叫びだった。


 その後ガーランドは着席を促され、改めて銀の魔女を見る。

 先ほどまでとは違い今は帽子を外していてその顔がよく見える、その意外に幼い見た目に自分にもこの位の年の娘が居たとしてもおかしくは無いはずだったのに⋯⋯などと場違いな感想が零れる。

 だがその存在感は先ほど帽子で顔がよく見えなかった頃と変わらない、即ち舐めてかかれない化け物の類であると、今ではやや錆びついた元冒険者の勘が告げている。

「ガーランドさん、私は冒険者ギルドの魔の森の支部の発足を前向きに考えています、しかし過去の過ちをそのまま対策せずにいればまた同じ道を辿るでしょう、どうすればお互いが納得できるのか考えていきましょう」

「⋯⋯え?」

 ガーランドは言われた意味が一瞬わからなかった。

 この場で拒絶されそして謝って終わり⋯⋯そのはずが泥沼へと進んでいる、どうしてこうなった⋯⋯そう思わずにはいられない。

「過去、魔の森で何があったのか、お城に残っていた記録は拝見しました、しかし改めて冒険者ギルドの代表である貴方の視点から当時の問題点を教えてくれませんか?」

「は、はいっ! 過去の冒険者たちが行った森の魔女様を怒らせた事の原因は大きく三つです。 まず一つ目は森の中でむやみに火を使い森を荒らした事、二つ目は倒せない魔獣を怒らせ牽引し魔獣同士の縄張り争いを誘発した事、最後に三つめは大量の冒険者が死んで食われた事です」

「⋯⋯なるほど、どうやらこちらの認識との齟齬はないようなので安心しました、後はどうすれば過去の失敗を繰り返さずに済むかですね」

 このアリシアの答えにガーランドはおやっ? と思う、なぜこの銀の魔女はそんなにも支部の開設に前向きなのかと?

「どれも一筋縄ではいかない問題ばかりです、ですがどうしてそこまでしてギルド支部を作ろうとなさるのですか?」

「まだ私が失敗したという訳ではないので、たとえ失敗に終わっても何かしらの経験にはなるでしょうし」

 その答えにガーランドの頭がすっと冷めた、ああそうかその程度の考えなんだと⋯⋯

 その結果で多くの人の人生がかかっているなど、思いもしないのだろうと。

 ガーランドは思った、どうして自分だけが苦しまねばならんのかと。

「銀の魔女様、私に腹案があります」

「腹案ですか?」

「はい、そもそも魔の森の環境は過酷すぎるのです、なので生半可な冒険者では過去の過ちを繰り返すだけでしょう」

「ならどうすれば?」

「各国の代表ギルドに所属するAランク以上⋯⋯いやSランク級のみから選抜した、少数精鋭にのみ魔の森を開くのです!」

「Sランク冒険者⋯⋯」

 その称号はアリシアの心に響くものであった。

「Sランクには力だけでは成れません、他の冒険者たちへの規範となる心身共に成熟した者達なのです、ならば魔の森の強敵にも後れを取ることもなく、また銀の魔女様の不評を買う馬鹿な真似もしでかすまい!」

 そう力強く語られたプランは、強い説得力をアリシアに感じさせた。

 アリシアはチラッとフィリスの表情を見て、さらに確信する。

「わかりました、では近いうちに魔の森へそのSランクの方々を集めて下さい、魔の森で通用するか試してみましょう」

 ガーランドは上手く行ったと、内心ほくそ笑む。

 そう、今言ったプランは最高のものだという自負があった、ただし実行できればだが。

 各国のギルドが自分たちのエースであるSランク冒険者を手放すはずがない。

 よってこのプランは不可能、だがその責任は各国代表ギルド全体に分散されることになる。

 その後いくつか話し合った後会談を終える。

「ありがとう、お陰でギルドの発足上手く行きそうです」

 そうアリシアはガーランドに握手を求めるべく右手を差し出しかけ、その手が止まる。

「ああ、気にしないでください、二十年も前の事ですので」

 そう言いながらガーランドは左手で、右の袖を撫でる。

「⋯⋯ガーランドさん、別件であなたに頼みたい事があるのですが」


 冒険者ギルドに戻って来たガーランドは、出かける時とはうって変わって上機嫌だった。

「今戻ったぞ!」

「おかえりなさいませ、ギルドマスター」

 そうガーランドを出迎えたのは、今年入ったばかりの受付嬢である。

 ガーランドは自分の現役時代の経験上、若く美しい受付嬢が居るだけで冒険者が集まり活気が出ると信じている。

 だからこのセリアという新人受付嬢には期待しているのだ。

 もっとも人気がありすぎて冒険者と恋仲になり、早期に結婚退職した受付嬢も過去には何人かは居たのだが⋯⋯

 この時セリアは台に乗って上の棚の資料を取ろうとしていた、しかしガーランドに気を取られた為、資料を落してしまいそれにつられてバランスを崩す。

「危ない、セリア君!」

 それをガーランドは優しく受け止めた。

「ありがとうございます、ギルドマ⋯⋯」

 その時セリアの体にガーランドの手の感触が走る。

「――イヤッ!」

 セリアの肘が綺麗にガーランドの顎へとヒットする。

 ガーランドはうずくまり、()()()()()自分の顎をさする。

「す、すみません、ギルドマスター⋯⋯って、その手!?」

 セリアはすぐにその異常に気づいた、隻腕のガーランドは周知の事実なのだから。

「ああこれかい、銀の魔女様が義手をくれたんだ」

 銀の魔女との別れの際に頼まれた事、それがこの義手の実験台になって欲しいとの事だったのだ。

 なんでも試作したのはいいが試す相手がおらず困っていたらしい、使ってみた感想や改善点があれば教えて欲しいとの事、気に入ったならそのまま使い続けて構わないと。

「そ、そうなんですか⋯⋯」

 セリアは突然の事に理解が追いつかない。

「これから手紙を書かなくちゃいけないから、何かあれば部屋にいる」

 そういってガーランドは、ギルド長室へと入っていった。

 椅子に座りガーランドは人心地つき、そしてふと思い返す。

「柔らかかったな⋯⋯」

 そんな感触さえ伝える、この魔女の義手にあらためて感動し、感謝する。

「さあ、手紙を書いてそれで終わりだ」

 そうガーランドは思っていた、この時は⋯⋯

 後日、ガーランドの元に多くの冒険者たちの志願書が届くことになる。

 ⋯⋯どうしてこうなった。

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