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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第三章 水の都を訪ねて

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03-03 前途多難な旅立ち

 帝国での世界会議が終わり、アリシアたちがアクエリア共和国へ向かう日がやって来た。

 アリシア達は共和国行きの行軍の先頭の馬の所に集まり、何やら作業をしていた。


「これは何ですか?」

 そのミルファの質問にアリシアが、

「これは地面を平らにする魔法具、馬車酔いを防ぐために」

 そう言いながらアリシアは、ここ帝国までやって来た王国の馬に取り付けられていた、この魔法具を今度は共和国行の馬に取り付ける。

「そんな魔法具が⋯⋯帝国の英知(サスペンション)が敗北、だと!?」

 そんなルミナスにフィリスは、

「サスペンションそのものは素晴らしい仕掛けよ、全然お尻が痛くならないし、でも道そのものが歪んでいたら馬車の揺れはどうしてもおきてしまうから、そもそも馬車酔い対策にはならないし⋯⋯」

 そう言って慰める。

「あくまでもこれは石畳とかで舗装されていない、土がむき出しの未舗装の道にしか作用しないから、街中の細かい段差とかでこそあのサスペンションは必要」

 そう言いながらアリシアは、サスペンションが不要だとは思わない旨を、ルミナスに伝える。

「そ、そうよね! 偉大なる帝国の発明が、不要なんてありえないわよね!」

 どうやらルミナスの気分は、持ち直したらしい。

 そんな彼らのやり取りを、少し離れた所から見つめる者たちがいた。


「いいこと、あんた達⋯⋯これはチャンスよ」

「わかっているさ、タートラン殿」

「大統領を出し抜く絶好の機会だね」

 そう彼らはアリシアたちと共にアクエリア共和国の、それぞれの自分の領地へ帰還しようとしている、マリリン、ドレイク、トレインの三人の各領主たちだった。

「この共和国への四日間はまたとない機会、銀の魔女様とお近づきになる為の、だからいいね! あんた達! 抜け駆けは無しだよ、いやむしろ協力すべきだ!」

「賛成だ」

「こちらも同意する」

 そして三人はガシッと手を結ぶ。

「ここからが私たちの世界会議だよ!」


 それからしばらくの後、アクエリア共和国行き連合軍は出発し、それを帝城のバルコニーから見送る者たちがいる。

「よかったのかオリバー? あのまま行かせても」

 ウィンザード帝国宰相アルバートが訊ねた。

「構わんよ、あいつらはこの世界会議の間は儂を信頼し裏方の黒子に徹してくれた、少しばかりチャンスを与えるのも大統領の役目さ。それに奴らとてそれぞれが領主でありまた優れた商人でもある、信用を落とすような真似はするまい」

「まあアレク達も一緒だ、そう心配する事もないだろう」

 そう言いながらラバンも旅立つ者たちを見送る。

「さあ、辛気臭い話はここまでだ! 儂ら三人の久々の休暇だぞ」

 そんなオリバーにラバンとアルバートも同意するのであった。


 共和国行き連合軍隊列の中央に三台とりわけ豪華な馬車が並んでいる、元々は三人の領主たちのそれぞれの馬車だったのだが今は前の馬車に各領主が三人一緒に、次の馬車にアレクとミハエルが、そして後ろの馬車にアリシアとフィリスとルミナスとミルファが乗っていた。

「アクエリア共和国ってどんな所なの?」

 そんなアリシアの質問にミルファが、

「アクエリア共和国は別名〝水の都〟と呼ばれていて、東西南北四つの国の中心に海があって、船を使って各国が交流する、そんな国です」

 そう言いながらミルファは、地図を見せながら説明する。

「船、そして海か⋯⋯」

 アリシアは馴染みの無い、それらの物に思いを馳せてゆくのであった。


「今から向かう西の都ローシャには、私もよく行く大聖堂があります、そこで森の魔女様の国葬も執り行われる予定です」

「師の葬儀を?」

 ミルファの説明にアリシアは聞き返す。

「はい、はっきりした時期はまだ決まっていませんが、ところで森の魔女様はいつ頃亡くなられたのですか?」

 そのミルファの問いにアリシアは少し考えて、

「あれは確か私が十三歳になった翌月だったから八月の中頃のはず」

「あれっ? じゃあアリシアの生まれた日は七月なの?」

「師からはそう聞いている⋯⋯正確な日付まではわからないけど」

「そっか、後二か月でアリシアも十四歳かー」

「アリシアさま、そんなに若かったんですか⋯⋯でもそうよね、私よりも後から生まれているハズだったんだし」

 ルミナスは自分が生まれた時、森の魔女に見初められず、そのあとにアリシアが見いだされた事を思い出す。

 みんながいつ生まれたのか、アリシアは少し気になって聞いてみる。

「確かフィリスは九月で成人だって言ってたよね、ほかのみんなはいつ生まれたの?」

「私は次の十一月で十六歳よ」

 まず答えたのはルミナスだった。

「ミルファは?」

「⋯⋯私は今月で十三歳になりました」

「えっ? じゃあ五月の何日なの?」

「一日という事になっています、その孤児だったので正確な日が解らないので」

「じゃあもう、過ぎているじゃない」

「気にしないでください」

 何となく湿っぽい空気になり、ルミナスはやや強引に話題を変える。

「そうだ、アリシアさま! 聞きたい事があるんです」

「なに?」

「以前アリシアさまは、私の事を魔女だと勘違いしましたよね、そんなにも見分けがつかないものなのですか? だとしたら普通の魔道士と魔女は何が違うのですか?」

 アリシアは少し考えて、このくらいの事は話しても構わないだろうと、判断して答える。

「魔女の条件は大きく分けて二つ、まず魔力が多いこと」

「魔力が多ければいいの?」

 そのフィリスの問いに、

「フィリスにわかりやすく言えば、剣を持つ腕力も無いのに剣術を覚えられる訳が無い、と言ったところ」

「なるほど、道理ですね」

 ルミナスも納得する。

「ちなみに魔女としての最低基準としては、ここに居る一番魔力が少ないフィリスでギリギリ合格ってところ」

「えっ? じゃあ私たちはみんな、魔女になれるんですか?」

 そう言ってミルファは驚く。

「少なくとも魔力量だけなら」

「⋯⋯なるほど、という事は私たちが魔女になれないのは、もう一つの条件を満たしていないって事ですね」

「それって何なの?」

 その質問にアリシアは答える。

「〝精霊のいとし子〟である事」

「精霊の⋯⋯」

「⋯⋯いとし子?」

「何なのそれは?」

 しばらくアリシアは皆を見つめた後、こう尋ねた。

「みんなは〝精霊〟ってしってる?」

 そのアリシアの問いに三人は目を合わせた後、代表してルミナスが答える。

「この世界を満たす魔力⋯⋯すなわち魔素が何かしらの性質を帯びた時に、まるで生物の様な特性を感じさせることから、昔の人はそれを精霊と呼んだ」

「その通り、確かに生物ではない、けど意志が宿っている。 植物とか昆虫の群体みたいな感じかな? 人は誰しも産まれたばかりの無垢な頃は、精霊と魂で交信している、でも普通の人は物心がつく頃になるとその感覚が失われていく、しかし私たち魔女は精霊と魂で交信できる感覚をずっと持ち続けている」

 そこでアリシアは、ルミナスをじっと見つめ続ける。

「ルミナス、あなたは未だに精霊と交信ができる、そうでしょ?」

「⋯⋯それが精霊なのかどうか私には解らない、でも〝何か〟を感じる事は出来る、今まで誰も理解してもらえなかったけど⋯⋯これが精霊なの?」

「そう、魔女は精霊と自在に交信する事によって、普通の人には出来ない精密で変幻自在な魔法を行使できる、でも普通の人はそんなことは出来ない、魔法文字(ルーン)を使った単純な命令の組み合わせでしか精霊を操る事しか出来ない、そこに差ができる」

「私は精霊の声を()く事ができるわけじゃない、なにか漠然とした感情の様なモノを色として()る、そんな感じよ」

「それでも十分人の領域を超えている、普通の人が()えない()こえない精霊に魔法言語(ルーン)で一方的に命令しているのに対してルミナスは自身の命令にどんな反応が返ってくるのか完全ではないが確認が出来る、この差は大きい特に無詠唱魔術に関しては」

「無詠唱魔術が?」

「そう、あれは魔法にかぎりなく近い技術」

「じゃあ、私は魔女なの?」

「今まで見てきた限りではルミナスは魔女の領域を()る事は出来ても踏み込めない、そんな位置⋯⋯残念だけど」

「そっか⋯⋯」

「でもそれは魔法が使えないというだけで、決してルミナスの価値が私以下と断定するものではない」

「えっ?」

「魔法の多様性や柔軟性が身に着けられないというだけで、そもそも今となっては魔法と魔術はもう完全に別物だから比較すれば分野によっては優劣が逆転する」

「そ、そうなの?」

「魔法はとにかく覚えるのが⋯⋯教えるのが大変。同じ事をしているようで魔女ごとのやり方が違う、しかし魔術は単純にパターン化した結果、習得も教えるのも魔法とは比較にならない位容易になった」

 そこでアリシアは、ルミナスをじっと見つめながら続ける。

「ルミナスの火の鳥の攻撃魔術を魔法で再現してわかった、魔法に比べて魔術は発動が早くて威力も出ておまけに魔力の消耗も少ない」

「私以上に『真紅の極炎鳥クリムゾン・イーグレット』を使いこなしているのに?」

「それだけ基本能力が違いすぎるというだけの事、もし私とルミナスが同じくらいの能力で、魔法と魔術で戦ったら(まほう)が負ける、悔しいけど」

「魔術は習得さえできれば誰が使っても大きな差が出ない、その魔術が魔法より優れている?」

「少なくとも単純な戦闘に使う様な術は間違いなく」

 ルミナスは思わずうつむき、その手を握り締める。

 そして今度はフィリスが質問をする。

「アリシア、その精霊のいとし子ってのは本人の資質頼みなの? 意図的に精霊と赤ちゃんを交信させ続ける事は、できないの?」

「出来ない事もないが、精霊も赤子もどちらも気まぐれで、ちっとも思い通りにはならないらしい」

 その答えを聞いてなおフィリスは考える。

「たしかアリシアが生まれた十三年前の夏って異常気象だったよね、そういう時は精霊の力も数も普段より大きい。 そんな時凄い魔力を秘めた赤ん坊が生まれたら、ましてや同時期に他に赤ん坊が居なかったらどうなるの?」

「えっ?」

 そんなフィリスの仮説を、アリシアは検証してみる。

「確かに可能性は上がる、完全とは言い切れないけど⋯⋯」

 そして馬車の中に嫌な沈黙が出来る⋯⋯

「ルミナス!」

「わかってるわよ! ミルファ、あんたも絶対今の事は言っちゃだめよ!」

「もちろんです!」

「⋯⋯どういう事?」

 アリシアだけが理解していない。

「つまり意図的に魔女を生み出す方法が無いわけじゃないって事」

「でもその為には、場合によっては大きすぎる犠牲を許容する前提になるわ!」

「しかも確実性は無いですし⋯⋯」

 アリシアはようやく理解し始める⋯⋯自分がどれだけの犠牲の上に生まれてきたのかを。

「アリシアはいいのよ! 偶然そうなっただけなんだから! でもこの事を知られたら誰かが意図的にやるかもしれない」

「私たちがいる間はそんな非道は許さないけど、百年後、二百年後、その時世の中どうなってるかなんて保証はないわ!」

「記録なんて残さなければ、そういう事を試す人は出てこないと思いますし」

「だからアリシアは、今の事はもう誰にも言っちゃだめだから、私たちも絶対誰にも言わないから」

「わかった」

 三人のあまりの剣幕に、アリシアの動揺は吹き飛ばされてしまっていた。

 アリシアはそんな三人の仲間に、頼もしさを感じるが一方⋯⋯

「これが魔女と国の間に立つという事か⋯⋯」

「お母さまに言えない事が増えそう⋯⋯」

「前途は多難ですね⋯⋯」

 その仲間たちは、その責務の重さにあらためて気づくのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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