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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第六幕 未来と夢の懸け橋

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13-01 新しい始まり

 二年祭を締めくくる花火が終わり、王国貴族たちは城から帰っていく。

 彼らの多くはこの王都の貴族街に別宅を持っている。

 持っていない者たちは王都の高級宿へと泊まったりした。

 フィリスはアリシアとミルファと一緒に魔の森で夜を明かす事にした、後ほどルミナスも合流する予定だ。

 リオンはネージュに招かれてノワール邸でお泊りする事になった。

 そしてアレクは一人寂しく新年の夜明けを迎えるのだった。


 魔の森でアリシア達が目覚めたのは日がだいぶ高くなった頃だった。

 昨夜はみんな疲れていたせいか大して話し込むこともなく、すぐに寝てしまっていた。

「みんな! 明けましておめでとう!」

 目覚めてすぐにルミナスはそう叫んだ。

「おはようルミナス⋯⋯」

「寝起きから元気ね、ルミナスは」

「おはようございます、ルミナス様」

 全員起きてすぐに支度をする。

 今日の昼には新年祭があるからだ。

「それでは諸君、また会おう!」

 そして一番にルミナスは帝国へと戻ってゆく。

 なぜか大はしゃぎで。

「なんか大はしゃぎだったねルミナスは⋯⋯なんでだろ?」

「お年玉が目当てでしょ⋯⋯たぶん」

「フィリス様、そのお年玉というのはなんですか?」

 アリシアやミルファにはこれまで縁のない、知らないものだった。

「なんでも帝国では新年のお祝いに親が子供にお小遣いをあげるのが風習らしいのよ」

「変わった風習だね、王国ではやらないの?」

「やっている家もあるけど、王家ではしていないわ」

「⋯⋯孤児院では無かった風習ですね」

「私も貰ったことが無い⋯⋯」

「まあ帝国には変わった風習が多いからね」

 そんな話をしながらアリシア達も支度を終えて、またお城へと戻った。


 アリシア達がお城に着くとすぐに新年祭が始まる。

 まあごく普通の「去年はご苦労、今年もよろしくがんばってくれ」と言った内容の王様の演説を聞くだけの、退屈な内容だった。

 アリシア達は平気だったがリオンとネージュは結構辛そうだった、おそらく昨夜は長く話し込んでいたのだろう。

 そして新年祭が終わると貴族たちはそれぞれの領地へと戻っていく。

 それが終わった後アリシアは、アレクと話し合う席を設けた。

 アリシアはしばらく応接室で待たされる事になった。

「アリシア殿待たせてすまない! 少しばかり問題が起きてな」

「何かあったんですか?」

「いや⋯⋯アリシア殿には関係ない事だ、気にしないでくれ」

「そうですか」

 それをアリシアは政治的な何かだろうくらいに想像して興味をなくした。

「それでアリシア殿、話というのは?」

「えっと⋯⋯まずはおめでとう、かな? その⋯⋯リオンとネージュの事⋯⋯」

「あ⋯⋯ああ、その事か⋯⋯いや、まだ正式に決まった訳じゃないんだが⋯⋯ありがとう」

 アレクには珍しい照れくさそうな反応だった。

「その、いつ頃結婚されるんですか?」

「正式な婚約発表は二か月後だ、だからそれまでは秘密にしてくれ、そして式の日取りは政治的な兼ね合いもあるからな⋯⋯一年以内には行いたいが⋯⋯」

「そうですか⋯⋯」

「話はそれだけなのか?」

「いえ本題はこれからです⋯⋯ネージュの事です」

「ネージュがどうかしたのか?」

 アレクは訝し気な表情になる。

「いえ⋯⋯彼女王妃になるじゃないですか、だからその⋯⋯化粧液事業をそのまま任せるのは、いいのかな⋯⋯と」

「ああ、その事か」

 アレクは内心ホッとする。

「前にアレク様、自分は王族だからできないって言ってましたよね?」

「言ったな、だからネージュもか」

「はい⋯⋯」

「あれはあくまで聖魔銀会の資金源になる組織の代表が私だと、聖魔銀会が我がエルフィード王国の傀儡だと思う者が必ず現れ、騒動になると読んでいたからだ」

「ではネージュが王妃になったら同じ事では?」

「⋯⋯アリシア殿はどうして欲しい? ネージュ以外の者に任せたいか?」

 アレクは真剣な目で問いかける。

「正直私の希望ではネージュに続けて欲しい⋯⋯今更別の人に任せたくない」

「なら続けて貰おう、ネージュもそれを望んでいるしな」

「⋯⋯いいんですか、それで?」

「国王がやっていると問題視されるかもしれんが、王妃が慈善団体に寄付する事はよくある事だからな⋯⋯いくらでも言い訳が出来る」

「そうだったんですか⋯⋯王妃に成れないとばかり思っていました」

「そんな訳がないだろう、もしそうなら最初の時に止めていたさ」

 そう言ってアレクは笑う。

 すべてはアリシアの勘違い⋯⋯早とちりだった。

 あの時の葛藤は何だったのかと、アリシアは思った。

「で、話はそれだけか?」

「いえ今のは前提条件です、今後もネージュが化粧液に関わるなら彼女は頻繁にここ王都とイデアルを往復する事になります」

「そうだな」

「なので提案です、ここ王都とイデアルだけ先に転移門で繋いでも構わないでしょうか?」

「⋯⋯確かにいい話だ」

 そうすればネージュだけでなく、イデアルに戻るリオンとも頻繁に会えるとアレクは考えてしまった。

「仮に実行するならどのくらいの時間がかかる?」

「イデアルの方はほとんど準備は終わっているので、こっちの王都の方の準備だけですね」

「なるほど⋯⋯問題は王都のどこに設置するかだな」

 アレクは考える。

 将来的には物流にも使われるかもしれない、保安上の問題もある、城の中にはあまり作りたくなかった。

「あの、出来ればなんですが」

「なんだ?」

「イデアルの冒険者や化粧液工場の職員たちにも、気軽に使わせたいと思っているので⋯⋯」

「なるほどな」

 現時点ではイデアルの街にはなんにもない、小さな雑貨屋があるくらいだけという事だ。

 だからそこに住む者が買い物や息抜きなど、ここ王都へ通う事は当然の希望だった。

「ならなおさら城の中には作れんな⋯⋯」

 様々な条件を考慮してアレクが考えた設置場所は王都のすぐ外辺りだった。

 設置場所だけなら後で父と相談すればいいが問題は⋯⋯

「我がエルフィード王国だけ先に作る事を、各国にどう説明するかだな⋯⋯」

「問題ですか? 私が住むこの国が優先され優遇されるのは当然では?」

「まあ確かにそうだがな、色々難しいんだ政治はな⋯⋯」

「そうですか」

 アリシアはやっぱり政治になんて面倒で関わりたくはないなと思う。

「とりあえず各国と話して見るか⋯⋯通信魔鏡もあるしな」

「そういえばありましたね」

 アリシアは自分で創ったのに自分の手を離れた魔法具に関して、わりと無関心で忘れていたのだった。

「まあ任せてくれ、各国には転移門の運用実験を行うと言えば許可してくれるだろう」

 アレクは転移門を設置すれば何かしら問題が出るはずだと考えている。

 なのに各国全てを創り終えてからその問題が発覚しても、使用停止は困難だと思っている。

 便利なものを人は簡単には手放せないからだ。

 だからまずエルフィード王国だけ作って問題点を洗い出し、それを各国で共有すると言えばおそらく通るだろうと、考えていた。

「私に出来るのは物を創る事だけです、それ以外の面倒は、その⋯⋯頼りにしています」

 ――()()()か⋯⋯長かったな⋯⋯

 今やっとアレクは、アリシアとの信頼関係を築けたような気がした。

「もちろんだとも、任せてくれ」

 リオンやネージュとの婚約。

 アリシアとの信頼関係の構築。

 それらを手にしてやっとアレクは一人前になれたような気がしたのだった。

 そしてそれはアリシアも同じだった。

 やりたい事をやって国とも渡り合っていける、そんな魔女にやっとなれたとアリシアは思った。


 そして最後に何となくアリシアとアレクは握手をして別れた。

 アリシアにはやる事があって、アレクにもやるべき事があるからだ。

 こうして新しい年、新しい物語は始まった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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