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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第五幕 沈黙の王国革命

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201/263

12-EX01 温泉を作ろう!

 これはまだミハエルの誕生祭の為、アリシア達がまだ帝国に居た時のお話だ。

 帝国での最後の夜アリシア達は帝城の大浴場に居た。

 そしてそこでアリシアは帰ったらイデアルに温泉を作りたいと言い出した。

 そのアリシアの考えは素敵な思い付きだとみんなは認めた、しかし⋯⋯

 実際に実行するにはいくつかの解決しなくてはならない問題があった。

 お風呂から出たアリシア達はこの国の皇帝であるアナスタシアへと面会を求めた。

「なんじゃ? 話というのは?」

 そしてアリシアはさっき思いついた考えをアナスタシアに伝えた。


「⋯⋯ほう。 我が国の温泉をそなたの街に⋯⋯とな」

「いいでしょうか?」

「いいとか悪い以前に可能なのか⋯⋯いや可能だから願い出ておるのだな⋯⋯」

「転移系の魔法具を通してお湯をここからイデアルへ送る事が出来る」

「なるほど⋯⋯」

 アナスタシアは考える。

 アリシアの目的のイデアルの街の情報は既にアナスタシアの頭にあった、優秀な影の報告のおかげだ。

 その街の規模を考えれば街の銭湯一つ分の湯の源泉を分ける事は容易い事だった。

「ふむよかろう、好きにせよ」

 こうしてアナスタシアの許可を得てアリシアの温泉づくりは始まった。

 なお後日、定期的に送られるお湯の対価として今後アリシアが創る転移装置の使用料から差し引くことが条件として決まったのだった。

 そのせいで実質タダだと思うアリシアはやはりどこかズレていた⋯⋯


 翌日、アリシアは朝早くにアレク達を王国へと転移魔法で送り届けるとその後、行動を開始した。

 ルミナスの案内によりアナスタシアによって指定された源泉へと辿り着く。

 そこは十分な量の源泉だが交通の便がイマイチで、活用し切れていない山奥だった。

 その源泉の底にアリシアは魔法具の壺を沈めた。

 この壺は二つ一組で、起動させればもう片方の壺からお湯だけが出てくるのだ。

「これでよし⋯⋯と」

「お母さまも取引が上手いわね、ここを指定するなんて」

「確かにここは観光には向かないわね⋯⋯」

「ですね」

 その源泉の周りの地形は普通の人にはかなり移動が困難な場所だった。

 ここですべきことを終えたアリシアはイデアルへと向かった。


 イデアルに着いたアリシア達はセレナに温泉計画の事を話した。

「また凄い事を始めたな⋯⋯」

 アリシアの思い付きや実行力には毎回驚かされ、呆れるセレナだった。

「少しでもこの街の人が元気になって欲しいな⋯⋯と」

「それは善意か? 銀の魔女」

 セレナはあえてアリシアを魔女と呼ぶ。

「⋯⋯この街は今後私のわがままで色々問題が出ます、そのお詫びと思ってください」

「転移門の事か⋯⋯」

 セレナは温泉の件と一緒に聞かされたこの街に作られる転移装置の事を考える。

 アリシアがそんな風に世界のこれからの事を考えていた事にセレナは驚いた、そんな事に興味は無いと思っていたからだ。

「確かにアレが出来ればこの街の本質が変わる⋯⋯面倒は確実に起きる」

「ですよね⋯⋯やっぱり」

「でもお母様、その問題はこれから先私達みんなが背負っていくべき問題よ、確かにアリシアが転移門を作らなければ起こらない問題だけど、それは確実にこの世界に無くてはならないものになるはずよ!」

「その通りだフィリス、確かに面倒は増えるがそれ以上の恩恵が絶対にある、この計画はな」

 そしてセレナはアリシアに向き合う。

「感謝する、アリシア殿」

 そうしてアリシアの頭を下げた。

「よしてください⋯⋯まだ創ってもいないのに」

「そうだな、正式な礼はまだ後だな⋯⋯とりあえず今は温泉だったな、個人的にはいい話だ、私も嬉しいし協力しよう」

 こうしてアリシアはイデアルに温泉を作る事を認められたのだった。

 その後、温泉作りの計画はネージュやゼニスといったこの街の重鎮たちの意見も聴く事をセレナに勧められた。

「フィリス、お城に戻ったらネージュに明日迎えに行くって、言っておいてもらってもいい?」

「ええ任せて」

「それと⋯⋯」

「この温泉のデザインね」

「うん⋯⋯お願い」

「任せなさい」

 その後アリシアはみんなと一緒に魔の森へと戻り、この日の作業はいったん終わった。


 翌日アリシアは再び行動を開始する、それはネージュを迎えに行く事からだ。

 王都の上空にアリシアは転移魔法で移動し、その後フィリスに教えてもらっていた特徴の大きな屋敷を探し出す。

「ここはノワール公爵様のお屋敷ですか?」

 突然空から箒に乗って現れたアリシアに門番の人達は驚く。

「あ⋯⋯ああそうだ! 銀の魔女様⋯⋯ですよね? この屋敷に一体⋯⋯」

 あまりの非常事態にもその職務を全うしようとする門番たち。

「ネージュを迎えに来ました⋯⋯呼んでいただけますか?」

「少々お待ちくださいませ!」

 こうして門番の一人が走り出す。

 その後、出てきたネージュを迎える際にアリシアはその父親のノワール公爵とも挨拶するのだった。


 イデアルに連れてこられたネージュはそこで初めて温泉の事を聞かされた。

「それは素敵な思い付きですわね」

 ネージュは今後ここで働く合間に温泉でリフレッシュできることが嬉しいと感じた。

 だがそれほど利用する事はないかもしれない、とも思っている。

 何故ならいずれ自分は美容液の事業を誰かに委ねて、この街を去る事になるだろうからだ。

 しかしそういった事を顔には出さずにアリシアの話に耳を傾けてくれたのだった。

 その後フィリスやルミナスも合流し、いざ作る温泉の規模や場所を決める会議になった。

 規模や場所に関してはいずれこの街の事を取り仕切るゼニスが中心になって決まっていく。

 その上でフィリスが持って来たデザイン画を元に、みんなで話し合いながら詰めていくのだった。


 数時間の話し合いの末に決まった通りの建物を、いよいよアリシアは作り始める。

 主に石材を中心とした材料で建物の創造が始まった。

 またたく間に建物が組みあがっていく様子にセレナ達もただ驚くばかりだった。

 アリシアは完成した建物に入り、あちこちに細かい手を入れ始める。

「アリシアそれは何?」

 フィリスが気になったアリシアの作業は、浴槽の底にびっしりと魔法文字(ルーン)を刻んでいる事だった。

「これは癒しの魔法言語(ルーン)⋯⋯お風呂に入った人の病気や怪我がよくなるようなの」

「これは凄い⋯⋯」

「なるほど⋯⋯ここがこうなって⋯⋯」

 ルミナスとミルファはアリシアが刻んだ魔法言語(ルーン)の解析をしていた。

「今回の温泉のお湯には十分な魔素が含まれているからね、それに反応してこの魔法言語(ルーン)は効力を発揮する」

 そんな説明をした後アリシアは最後に魔法の壺を設置する。

 これは源泉に沈めてきた壺と対になっている。

 向こうからお湯だけがこの壺に送られて来るように出来ていた。

 壺から流れ出てくるお湯は、男性用女性用それぞれに作られた五つの湯船を満たしていく。

 分けられた湯船はそれぞれ温度が違うようになる魔法言語(ルーン)も刻まれている。

 そうする事によって人によって好みの温度を楽しめるという配慮だった。

「⋯⋯こんなところかな?」

 空っぽの湯船をお湯が満たしていくのを眺めながらアリシアは満足した。

「でも入れるのはまだ先かしらね」

「⋯⋯そうだね」

 お湯がいっぱいになって綺麗に循環するようになるまでには、まだ時間はかかりそうだった。


「これは楽しみだな」

 見学していたセレナ達も満足いくようだった。

「内装に関してはこちらで手配しておきます、銀の魔女様」

「よろしくゼニス」

 今回アリシアが作ったのはあくまでも建物の枠組みだけで、家具も無ければ装飾品も無い。

 そういった手配は全てゼニスに丸投げするアリシアだった。

 一方ゼニスはその予算をアリシアに出させることに成功し、ようやくアリシアの金庫番としての仕事ができたのである。

「あーあ、今日は入れないのか、残念」

「完成したら最初に招待するよ、ルミナス」

 しかしこの時の約束は果たされない⋯⋯最初の招待客は別の人になったからだった。

 それは意外な人物だった。

 後日、アリシアはその事を謝罪したがそんな小さなことは気にしないルミナスだった。


 こうしてアリシアの、この街への贈り物は完成したのだった。

去年のこの日、初めて投稿をしてから一年になりました。

この一年で200話を投稿し10万PVを超える事が出来ました。

これもずっと読んでくださった皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。


お読みいただき、ありがとうございます。

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