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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第四幕 光と影の協奏曲

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11-08 理想への道のり

 アリシアは今、王都にあるネージュが用意した工房へとやって来ていた。

 ここではアリシアが教えたレシピを基に、ネージュが集めた魔術師や薬剤師などによって、美容液を作っているのである。

「いかがですか?」

 ネージュは緊張しながらアリシアの答えを待つ。

 アリシアは受け取った試作品の美容液に軽く魔力を通して鑑定してみたり、直接肌に塗ったりして確かめる。

「うん、きちんと出来ている」

 その答えにネージュはやっと胸をなでおろす。

「ま⋯⋯間に合いましたわ⋯⋯」

「お疲れ、ネージュ」

 そう、今度のミハエルの誕生祭がこの美容液の始めてのお披露目になるのである。

 その為にこの一か月、必死で品質の向上や安定を目指してきたのだが、報われた。

「後は量産ですわね」

「そっちはどうなの?」

 アリシアがこの美容液を作るときは魔法で創るが、普通の調合技術でも出来ない訳ではない。

 しかしある程度の慣れや経験は必要だった訳で、この水準にこの短期間で持って来たのは称賛に値する。

 だがしかし、品質と量産はまた別の問題である。

「この工房では無理がありますわね、所詮は間に合わせの工房⋯⋯手狭すぎますわ」

「そっか、魔の森の工房が正式稼働するまで量産は無理か⋯⋯」

「しかし後数日だけ無理をすれば、試供品分くらいなら何とかなるはずですわ」

 アリシアは工房をざっと見渡す。

 そこに居る職人たちは最初にアリシアに挨拶したきり、それ以降は話もせず黙々と作業に没頭していた。

「ちょっと無理をさせすぎじゃないかな?」

「もちろんわかっております、しかし今は戦争です、働かなくては死にます、もちろん特別手当やその後の休暇を確約しておりますわ」

 若干ネージュの目が据わっていた。

 なんとなくアリシアは近くに居た職人に聞いてみる。

「本当に大丈夫?」

「銀の魔女様ありがとうございます、自分がここまで稼げる仕事は他にありません、故郷に仕送りしても十分すぎるほどなんです⋯⋯」

 その職人は疲れ切った姿だったのに、眼だけはギラついていたのだった。

「そ⋯⋯そう、無理しないでね」

 今の彼らの惨状は、自分の仕事を肩代わりさせている結果だという事をアリシアは自覚している。

 無論、金の為に彼らは喜んでこの仕事をしているのだろうが、それでもアリシアには罪悪感が湧いてくる。

 何か彼らに報いてやる方法や口実がないか⋯⋯そんな事を考えるアリシアだった。


「じゃあネージュ、誕生祭の三日前に迎えに来るからその時までに準備をしておいてね」

「はい、わかりましたわ銀の魔女様」

「今回はリオンも連れて行くから、その⋯⋯仲良くしてあげてね」

「えっ! リオンが! それは楽しみですわ」

「⋯⋯」

 本当にこの二人は仲良くなってしまったのだとアリシアは感じた⋯⋯本当にどうしてこうなったのか⋯⋯

 最終的にアレクがどちらを選ぶのか、もしくはどちらも選ばないのかもしれないが、どうなろうともリオンとネージュこの二人が憎しみ合ったりするような結末だけは避けたい、その為に出来る事なら何でもやろうと思うアリシアだった。


 王都へ来たついでにアリシアはアレクの所へと顔を出す。

「アリシア殿ごきげんよう」

「アレク様もごきげんよう」

 それから二人はミハエルの誕生祭へ向けた最終調整を行う。

「これで全部か⋯⋯しかしすまないなアリシア殿」

「何がです?」

「こうしていつも送り迎えをしてもらっている事だ」

 アリシアの転移魔法なら瞬時の移動のためどうしても頼りたくなる、そうでなければ帝国までは片道一週間はかかる強行軍になってしまうからだ。

 なのでいくらアリシアに報酬を支払おうとも十分安上がりだし、何より安全で早いのが何物にも代えられない。

「本当に嫌な時は断りますよ、でも私も参加するのだから大した手間じゃないし」

「本来なら先月のルミナス皇女の誕生祭も、参加する予定はなかったんだがな」

 今回のミハエルの誕生祭は十歳を祝うものである。

 十五歳の成人の時、そして十歳や五歳の節目の時は盛大に誕生祭を行われるものなので、アレク達が参加する事は決まっていた。

 しかし先月のルミナスの誕生祭は十六歳を祝うものであったため、つつましやかに行われ他国の王族が参加する予定ではなかったのだ、本来は。

「⋯⋯私は思うんです、異なる国の王族同士だからこそ頻繁に直接会って祝福しあう機会は多く持つべきなんじゃないかと、だからこれはこの世界のためなんです」

「ありがとう、アリシア殿」

「そう思うなら私の手を煩わせない、この〝やさしい世界〟を護り続けてくださいね」


 城を後にしたアリシアはギルドにも立ち寄ってみた。

 元からあった方のギルドは閑散としていた。

「母さん、みんなは?」

 アリシアはそこに居た母のルシアに話しかける、一応周りに誰もいないことを確認してから。

「いらっしゃいアリシア、セレナさん達みんなはギルド街の方へ行っているわ」

 どうやらルシアは一人でここで夕食の支度中らしい、作りかけのシチューをかき混ぜる手を止めないまま答えてくれる。

「父さんもそっちに?」

「そうよ」

「なんかごめんね母さん、こんな事になって」

「気にしなくていいのよアリシア、あなたが魔女になる事が決まってもう何も関わることは出来ないと覚悟していたわ、それがこうしてあなたの姿を間近で見守れるのだから」

「そっか⋯⋯ちょっとそっちも見てくるよ」

 そう立ち去ろうとしたアリシアをルシアは呼び止める。

「アリシア、これを持っていきなさい」

 ルシアはみんなの夕食用に既に作ってあったおにぎりを包んでくれたのだ。

「ありがと母さん、夜食に食べさせてもらうよ」

 アリシアは母の心遣いを受け取った後、ギルド街へ視察に向かった。


 新ギルド街はすぐ隣だが、アリシアはあえて空を飛びながら移動し見下ろした。

 前に来た時よりも少しだけ完成に近づく街を見るのが、最近のお気に入りだった。

 そこで働く人たちの中にアリシアは父であるアルドの姿を見つけ、近づいた。

「⋯⋯父さん」

「⋯⋯アリシアか?」

 小声で話しかけるアリシアに誰も気づかない、認識しているのはアルドだけである。

 アルドはこうしてアリシアが魔法を使って近づく事には慣れていたが、やはり毎回驚かされていた。

「なんだか大変な事になって、ごめんね」

 アリシアは父に対しても母の時のように謝る。

「気にするな、今父さんは嬉しいんだからな」

「嬉しい?」

「ああそうだ、お前をそばで見守れることもそうだが、こうして少しでもお前の仕事に関われることが嬉しいんだ」

「嫌じゃないの?」

「そんな事あるもんか、アリシアお前は大きな力を手にしてこれからもきっと大きな事を成していくだろう、その一つでもこうして手伝えて、父さん嬉しいんだ」

「そう⋯⋯」

 アルドはアリシアの様子がおかしい事に気付いた。

「何かあったのか?」

「⋯⋯昨日ね鳥が卵を産んだんだ、今度贈り物にする為に私が産ませた⋯⋯途中で気づいたんだ、今私は師と同じ事してると、親から子を引き離して勝手に将来を決めようとしているって」

「そうか⋯⋯」

「それだけじゃない、私は勝手にこうなればいいと思って人の運命を変える事もした、幸い今のところ恨み言は言われていないけど、この先どうなるのか⋯⋯」

「後悔しているのか、アリシア」

「かもしれない⋯⋯でもやりたいと思った結果なんだ」

「なら精一杯力を尽くしなさい、私達は親失格の判断でお前を森の魔女様に託した、そして今私達は後悔してはいない、それはお前を真っすぐに育てるために力を尽くして下さったからだ、森の魔女様が」

 アリシアは黙って父を見つめる。

「お前は森の魔女様の後継者なのだろう? ならあの方の出来た事は出来るようにならないとな」

 そう言ってアルドは笑った。

「ありがとう、父さん」

 これから先、誰一人不幸にしないなんて出来ないかもしれない。

 しかしそれでも、アリシアには目指すべき目標や理想があってこれからも何かをしていくだろう。

 その時ふとアリシアはみんなに頼まれていた、この街の名前を思いついた。

「ちょっと行ってくるよ、父さん」

 そう言ってアリシアはセレナの所へと向かった、今思いついたばかりのこの街の名前を伝える為に。

「頑張れアリシア」

 アルドは離れていくアリシアに向かい、小さくそう励ましたのだった。

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