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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第四幕 光と影の協奏曲

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11-02 届き始める歌声

 これはまだアリシアが街づくりを始める前の出来事だ。

 街を作るためには様々な技能のエキスパートの協力が不可欠だ、だからネージュは人集めに奔走していた。

 そんな時ちょうどネージュは、ルミナスの誕生祭の為に帝国へと訪れていた。

 なのでこの際に世界最高の土木技術を持つ帝国の技術者たちへと、仕事の依頼をしていたのである。

 それから僅か一週間ほどで、その帝国の技術者は魔の森のギルド街建設予定地まで来てくれたのだった。


 ネージュから依頼を受けた帝国の技術者トーマスと、彼が率いるチームが魔の森へやって来た。

 しかし彼らが実際の作業をするのではなく、あの高名な銀の魔女アリシアの作業を補佐するというものであった。

「よろしくお願いします」

 そう礼儀正しく頭を下げる魔女に、トーマスは力を貸す事になる。

 この新しく作られるこの街に、帝国並みの上下水道を始めから整備したいというのが依頼の内容だった。

 上水道はともかく下水道は既に街があると作れない場合が多い、そのため王国や共和国でも完全には整備されていないのが、下水道が発明されて二百年たった今でも続く現実である。

 全く何もない荒野に街を作るなら、確かに理に適った計画だった。

 問題は数年がかりの大仕事になる事だけだが⋯⋯

 今回トーマス達は一月ほどの工期で仕事を受けた。

 にもかかわらずその仕事内容は上下水道の整備だという、始めから土台無理な話である。

 しかし断る前に実際に作業を行うのは魔の森の(あるじ)、銀の魔女だという話だ。

 となると話は変わって来る、一人の技術者としてトーマスにも興味があったのだ、魔女が本気を出すとどうなるのか?


 結論から言うとまさに驚愕の一言だった。

 魔女の持つ圧倒的な魔力に裏付けされた魔法によって、次々と工事は進んでいく。

 そしてアリシアの態度や姿勢もよいものだった。

 技術者であるこちらのいう事を良く聞き、決して先走ったりはしない。

 こちらが伝える技術や理論を素直に吸収し実践していく。

 教わる者として理想的な態度だとトーマスは思った、きっとこの魔女は教わるという事に対してプライドがないのであろう⋯⋯そう分析する。

 今ギルドホームのある場所の隣に、この新しいギルド街は建設される。

 その広い予定地に予定されていた水路が引かれきるまで、僅か二日の出来事だったのだ。

 トーマス率いるチームがこの作業を行えば、一年はかかる大仕事だったのに。

「親方⋯⋯あんな人材、うちに欲しいですね」

「言うな⋯⋯そんな事出来る訳がない。 それに職を失ってもいいのか、お前たちは?」

 トーマスやその部下達は恐れた。

 いずれアリシアが今回時覚えた知識や技術で、工事を請け負う事になる未来を。

 しかしそれは杞憂に終わるだろう、アリシアが本気でこんな工事を行う事は自分の街の為だけだろうからだ。

 工事を始めて二日経ち、川の流れを引き込むための水門も作った。

 とりあえず試しに水を流して問題がないかをチェックする⋯⋯特に問題はなかった。

 いったん水を止めた後アリシアは今度は別の仕事に取り掛かる、そう城壁作りだ。

 城壁と言っても様々な形状がある、四角だったり丸だったり。

「魔女様、ここに作るなら星型がいいかもな」

「星型? なんで?」

「ここは魔の森に近い⋯⋯いずれ氾濫して、この街が取り囲まれる事も想定しなきゃいけない」

 その想定はアリシアが魔の森の管理をしくじった場合のものだが特にアリシアは怒らない、決してあり得ない未来ではないからだ。

 そしてトーマスは星型の城壁のメリットをアリシアに説明する。

「⋯⋯なるほど、要は籠城してても挟み撃ちなんかで殲滅しやすいのか」

 その機能面に納得もしたが、何よりもその見た目の良さがいかにも魔女の街といった趣になるのが、アリシアに気に入られた。

 こうしてアリシアの趣味が混ざり、最終的に六つの塔を頂点とした星型の城壁が作られる事になったのである。

 そして、その作業をアリシアは三日ほどかけて行った。

 ときおりトーマス達の頼みを聞きつつ、アリシアの作業は順調に進んだのだった。


「⋯⋯こんなに早く進むとはな」

 トーマスは半ば呆れていた。

 アリシアが実際に作業を行ったのは、全部で五日ほどの間だった。

 その間に予定されていた工程は全て終わり、今アリシアは噴水を創っている。

 その作業もみるみる進んでいくので、今日中には終わるだろう。

「一月の予定だったが、もっと早く終わりそうだな」

 そのトーマスの予感は当たった。

 次の日にはアリシアの予定は全て終了し、後は細かいところを残すのみとなっていたからだ。

「ありがとうございました、トーマスさん」

「いえこちらこそ、貴重な経験でした銀の魔女様」

 こうしてひとまずアリシアは去っていた。

 後は残されたトーマス達の仕事だった。

 とはいえトーマス達の仕事は街づくりではない、あくまでその前段階の水路作りまでである。

 その仕事を最後までやり遂げようとしたその時、辺りに美しい歌声が響き始めた。

 その歌声に導かれトーマス達が見たものは、常識を疑う光景だった。

 人魚だ、人魚が居る!?

 この場所は内陸部で近くに海はない、とはいえ川をさかのぼってくる人魚も居ない訳ではないが非常に珍しい事に違いはない。

 トーマス達は暫く時間も疑問も忘れて、アトラの歌を聞き続けるのだった。


 それから約二週間ほどたった頃、ウィンザード帝国の帝城の宰相アルバートの元に一つの報告書が届いた。

 それはコードネーム〝ゼクス〟と呼ばれる、影からの報告書だった。

 それを読んだアルバートはすぐ近くに居たルミナスに問う。

「ルミナス、魔の森のギルドに人魚が居るのか?」

「ええ、いるけど?」

 そんな話題が出てくる事にルミナスは疑問を持たない、何故なら帝国にはそういった情報を集める専門部署がある事は常識だからだ。

「人魚が居るの、姉様?」

 ルミナスの傍に居たミハエルも興味を持つ。

「そうよ、アリシアさまに足を創ってもらう為に住んでいるのよ、その人魚は」

 簡単に情報の裏付けが済んだアルバートはさらにルミナスに聞く。

「銀の魔女はそんな事も出来るのか?」

「手段を選ばなければ出来るそうよ⋯⋯まあもっとも穏便な方法はまだ完成していないみたいだけど」

「手段を選ばなければとは、どんな手法なのだ?」

「尾ひれを切り落として義足にするそうよ⋯⋯さすがにかわいそうだからできないって言ってたわ」

 アルバートは考える、世の中には手や足を不幸な事故で失った者は多い、それを救う事がアリシアには出来るのかと。

 そして一緒に話を聞いていたミハエルの興味は、人魚そのものだった。

「人魚か⋯⋯会ってみたいな」

 たとえ皇帝の様な権力者であっても人魚をその意志に反して連れてくる事は法律で禁じられている、その為ミハエルはこれまで人魚を見た事がなかった。

「そうね、アトラなら頼めば来てくれるかしら? 帝国劇場であの歌を聞くのもいいかもね」

 幸いと言っていいか、もうじきミハエルの誕生祭である。

 あのアトラを招待するのにはいい口実かもしれない、そうルミナスは考えた。

「本当、姉様!?」

「確実とは言えないけど、とりあえず頼んでみるわね」

「うん、絶対だよ姉様」

 こうしてルミナスはアトラに、帝国まで来てくれるよう頼むことにしたのだった。

 そんな子供たちの会話を聞きながらアルバートは、帝国劇場宛ての依頼書を書き始めるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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