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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第二幕 夢と現実

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09-07 雪解けの後に芽吹くもの

 二日目の会議の後、アレクはアリシアとリオンとネージュを呼び出した。

 それにノワール公爵とミルファも同行する。

「少々行き過ぎた議論だった」

「すみません」

 とりあえずアリシアはアレクに謝罪する、それがアリシアの今後を懸念してくれているアレクへの礼儀だと思って。

 そしてアリシアは今集まったメンバーを見て、どうしてこうなったという思いしかなかった。

 アレクとリオンとネージュ。

 自分がその運命を捻じ曲げようとしている人達を前に、アリシアは居た堪れない気分になる。

 そんなアリシアに気付かず、会議は始まった。


「これが問題の美容液ですか⋯⋯」

 ネージュがその瓶を手に取り、光に翳したりしている。

 そして瓶の蓋を開けて使おうとするがノワール公爵が止める。

 安全面を気にしてだという事を察したアリシアは説明する。

「フィリスやこちらのミルファも使っていますが安全ですよ」

 その言葉にネージュはミルファの顔や特に手を見て決断する。

 まず手に試して見てその後思い切って顔に塗って見た。

 そして――

「信じられない⋯⋯」

 鏡で自分の顔を見て手で触れてみて、ネージュはそう感じた。

「どうなのだ?」

 アレクのやや不躾な質問にネージュは答える。

「素晴らしいです、最近寝不足だった目元とか⋯⋯とにかく凄いです。 これは必ず売れます」

 その答え自体はアレクの想像通りだった、なにせあのフィリスの心を惑わせているのだから。

「問題は製造法と材料だな」

 一同がアリシアに注目する。

「さっきも言ったけど豚魔獣(オーク)の素材と特定の海藻、あとは薬草が何種類かと香りつけに花のエキスを少々」

「その花のエキスは何でもよろしいのですか?」

「そこは何でもいい」

 ネージュの質問にアリシアは緊張しながら答えた。

豚魔獣(オーク)の素材は使い道があまりないから、今まで食べれる肉以外ほとんど捨てていたはずです」

 リオンが何気なく思い出しながら発言した。

「確かに王国でもそうだな、帝国では特殊な調理用に使われる事もあるが大抵捨てられていたはずだ」

 リオンは自然にアレクと会話出来ている事に喜びを感じていた、これまでのセレナとの緊張感のある会話や冒険者とのコミュニケーションの賜物だった。

 あのままゾアマンから出ずに居たならこうなってはいなかったと、リオンは実感し感謝した。

 そしてアリシアが公開したレシピを皆で検討する。

 アリシアなら魔法を使って即席で創る事も出来るが、一般の製薬師でも作れる工程だった。

「これらの薬草はゾアマンにはたくさんあります」

「それなら可能だな⋯⋯薬草や素材はゾアマンからの物で賄える、花はまあどこでも後は海藻か⋯⋯」

「アトラに頼めば出来るかな?」

「誰だそれは?」

「今、魔の森のギルドで働いている人魚です」

 そのアリシアの説明にアレクは絶句する。

「なんで人魚がそんなところに?」

「何でも陸を自由に旅したいから足が欲しいって頼みに来た」

「⋯⋯自分の意志でか?」

「そうです⋯⋯変わってるでしょ」

 それが本当ならアレクには何も言えなかった。

「あの銀の魔女様、アトラさんの足は出来そうなんですか?」

 そのリオンの質問には友人に対する気持ちが込められていた。

「まだちょっと手こずっている、あとアトラが対価を用意するにはまだ時間がかかるだろうし⋯⋯」

「この海藻の事をアトラさんが何とかしてくれれば、それは対価になりませんか?」

 そのリオンの提案にアリシアは検討する。

「リオンこの件はアリシア殿の利益になっていない、対価にはなり得ない」

 そう言ってアレクはリオンをたしなめる。

「そうですね申し訳ありません、出すぎた事を言って」

「いいよ別に⋯⋯それにいずれ美容液の事は誰かに頼まれると思っていた。 過去に作っていた魔女は居たからね、正直この件は早く私の手を離れて欲しいと思っている」

 一同はアリシアが何故製法を広める事に前向きなのか理解した。

 そしてアレクは考え始める。

「材料集め、人魚族との交渉、製造する人員の確保、それを売る販路⋯⋯駄目だ、聖魔銀会の資金源程度でよかったのに話が大きすぎて完全に別の事業にしかならん」

 アレクは聖魔銀会の資金源は確かに欲しかったが、この計画はその規模を超えていると感じた。

 完全に独立した事業で、それを宗教団体の資金源にしてアレクが運営するのはいささか問題だった。

 何故なら聖魔銀会は、エルフィード王国だけでなく大陸中に広がっていく組織だからだ。

 それを陰でエルフィード王国の王族が支配していると思われるのはあまり良くない結果に繋がりかねない。

 悩んだ末にアレクが導き出した解決方法、それは――

「この製薬組織を運営するのはアリシア殿しか居ない⋯⋯」

「⋯⋯え?」

 アリシアにとってそれは困る、そもそも面倒事を丸投げするためにした事なのに、自分の仕事が増えるのは本末転倒である。

「⋯⋯なにも直接アリシア殿がする必要はない。 信頼できる誰かに代行してもらえばそれでいい、ただ組織の代表が聖魔銀会のトップであるアリシア殿だという事にさえなっていればな」

「ならその代行をアレク様にやってもらう訳には⋯⋯」

「王族が行うという事になればいずれ問題になってくるだろう、だから私には無理だな」

「じゃあ誰にしてもらえば⋯⋯」

 アリシアは困った、アリシアの人脈はほぼ国のトップばかりだからだ。

 そんなアリシアとネージュの目が合ったのは単なる偶然だった、何せ少ない人数で会議していたのだから。

「私がやりますわ!」

 そう思わずネージュは叫んでいた。

 周りの沈黙を破りネージュは改めて答える。

「この件の原因はわたくしの発言からです、責任はわたくしにありますわ」

「確かにその通りだが、ネージュが全てを背負う必要はない」

「いいえ、計画が最終的に美容液を売る事なら買うのは間違いなく貴族の女性からですわ、その為の人脈ならわたくしは既に持っています、わたくしが適任です」

 父親であるノワール公爵も驚いていた、娘がここまで自分の意志で何かをしようとするのを見たのは初めてだったからだ。

 そして何となくアリシアが注目される、自分で決めろという事なのだろうとアリシアは察した。

 さっきアレクは王族だからこの事業には参加できないと言っていた、ならネージュは?

 今はまだ公爵令嬢だから可能だが、もしこの事業に関わり続けるなら王妃にはなれないのか?

 そんな事をつい思い付き⋯⋯

「いいんじゃないかな、ネージュ様がやりたいなら⋯⋯」

 つい、そんな事を言ってしまう。

 この瞬間、ネージュが王妃になれなくなったなどと考えているのはアリシアだけだった。

 今アリシアは明確に人の運命を歪めたのだった。

 しかしそんなアリシアの思いとは関係なく、話は進んで行く。

「ネージュしっかりやれ、父さんも必ず力になるからな」

「ネージュ殿、私は王族で表立っては協力できないが出来る限り力になる」

「⋯⋯私も出来る事はするよ」

 アリシアの発言は罪悪感から出た言葉だった、そしてアレクやノワール公爵は気づいていない。

「はい、精一杯やらせて頂きます銀の魔女様」

 今のネージュに今朝目覚めた時の陰鬱さはなかった。

 アレクには出来ない、自分にしか出来ない、そんな役割を手にしてネージュは打ち震える。

 今初めてネージュは誰かの言いなりではない、自らの意志で動き始めたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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