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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第一幕 夢の始まり

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08-14 紡がれゆく絆

 正式にここの鍛冶師として滞在を許されたナロンは、鍛冶場の隣にある住居を与えられた。

「ここがあたしの居場所か⋯⋯」

 それが作家ではなく鍛冶師としてなのは引っかかるところではあったが、まずはここに居る事が許されたのだ、良しとしよう。

 ナロンに与えられた部屋には机もベッドもあり、今すぐ住む事に問題はない。

 ベッドに仰向けになるとつい、うとうとして寝てしまった。

 ナロンが目覚めたのはもう夕食の時間で、森へ行った冒険者たちの帰還した後だった。

 跳び起きたナロンはメモ帳を片手に、食堂へと向かった。


「それでどうでした、魔の森は?」

 ザナックやカインを始めとした冒険者たちはそれぞれ食事や酒を楽しみながら、ナロンの質問に答える。

「まあそうだな、やっぱりここはやべぇ場所だが、とにかくすごい!」

「魔獣の強さや薬草の質なんかは他所とは大違いだ」

 ナロンはまず魔の森そのものがどういう所か聞き、そして話題は彼ら達の武勇伝になってゆく。

「その時俺が向かい来る銀狼(シルバー・ウルフ)の群れを、この帝国刀でなぎ倒し――」

「俺はこの剣で暴れ熊(ランペイジ・ベア)を一刀両断さ⋯⋯」

 酒も入りやや誇張した感じに脚色されてはいるがナロンにとっては事実かどうかはあまり関係ない、どれだけ胸が躍るのかが重要なのだ、しかし――

「中でも圧巻だったのはあのエルフの嬢ちゃんだな」

「違いねえ⋯⋯」

「え? あの子が?」

 ナロンが視線を向ける、食堂の隅っこで目立たないように食事をとっているリオンが居た。

「エルフってのが森のエキスパートだってのは知ってはいたが、あれほどとは思わなかった」

「信じられるか? 全く見えない茂みの向こうで動かない魔獣の位置を看破し続けるんだぜ⋯⋯」

「そうなんだ⋯⋯ちょっとあたし、あの子に話を聞いてきます!」

 そしてナロンは立ち上がりリオンへと近づいた。


 リオンは今日森の中でそれなりに貢献できたことで多少の自信をつけた、だがやはりこういった大勢の中は苦手で、人と話すのも苦手だった。

 そんなリオンにナロンは突然話しかける。

「あの、少し話いいかな?」

「ひゃぃ! 駄目です!」

「⋯⋯え? 駄目?」

 あっさり拒絶され戸惑うナロンだった。

 しかしそんなリオンの脳裏にセレナの笑顔が浮かんだ⋯⋯

「⋯⋯い⋯⋯いえ、かまわない⋯⋯です?」

 結局話しかけていいのか駄目なのかはっきりしないが、とりあえずナロンは会話を続行する。

「あたしはナロンよろしく。 今日は大活躍だったみたいだけど、話を聞かせて貰っていいかな?」

「リオン⋯⋯です。 話す事なんて何も⋯⋯」

「索敵や狙撃で大活躍だったそうだけど?」

「あんなのエルフなら誰でも⋯⋯」

「エルフって普段どんな生活なの?」

「⋯⋯特に変わらないよ、朝起きて魔獣を狩って夜は寝るだけの」

 なんとも歯切れが悪い⋯⋯どうやら会話そのものが慣れていないというか、苦手なんだと伝わってくる。

 これ以上は悪いかな? そう思いながらもナロンはあと一つだけ質問した。

「その眼鏡珍しいね、度が入ってないみたいだけど?」

 その質問はナロンの作家ではなく、技術者としての好奇心だった、しかし――

 かぁっと顔を赤くしてリオンは答えた。

「大切な人からの贈り物なの⋯⋯」

 その答えと表情はナロンの心に強く焼き付いたのだった。


 その日の夜ナロンは机に向かう⋯⋯小説を書くのではなく、今日聞いた事を纏めて考える為だった。

 どんな事が楽しいと感じられ、何が詰まらないのか徹底的に考える。

 そうやって要素をどんな風に組み合わせるのか⋯⋯それは一種のパズルの様なものだった。

 ただパズルと違って決まった答えが必ずあるわけではない、駄目な話だってお話の展開次第では組み込む事だってある。

 とりとめのないメモをひたすら書き綴り、ふとナロンは明日の朝飲む水を汲んで来るのを忘れていたと思い出した。

 集中力も途切れてしまったため今日はここまでとする、ナロンは立ち上がり川へと向かった。


 川に水を汲みに来たナロンはそこで寝ているアトラにびっくりするが、起こさないように水を汲む。

 今度ここにアトラの小屋を建ててあげようと考えながら、その場を後にする。

 そして帰り道ナロンは気づいた、遠くの魔の森を見つめるリオンに。

「リオン、まだ起きているの?」

 その時何となくナロンは話しかけた。

 その声にビクッと反応し一瞬逃げようとしたリオンだったが、その場に踏みとどまる。

「夜の見張りは、私の役目だから⋯⋯」

「見張り? 明日の昼は魔の森へは行かないの?」

「その予定⋯⋯」

 その後リオンがポツリポツリ話す内容から元々リオンは冒険者ではなく、ギルドの職員として冒険者の補佐をする名目でここまで来た事がわかる。

「エルフの森から一人ですごいね⋯⋯」

「ほんとは来たかった訳じゃない⋯⋯でも頑張らないとアレク様の傍に行けない」

「アレク? もしかしてそれがリオンの大切な人?」

 そのナロンの言葉にこの月明かりの下でもわかるくらいにリオンは赤くなる。

「⋯⋯⋯⋯」

「ねえリオン、そのアレクって人どんな人なの?」

「⋯⋯アレク様はとても立派な方で私達エルフの事も考えてくれる人族で⋯⋯危なくなったら助けてくれて⋯⋯真っすぐに未来を見据えるとても眩しい人なの」

 途切れ途切れでも長く語るリオンから伝わる、その人をどれだけ想っているかが。

「叶うといいね⋯⋯」

「⋯⋯ありがとう」


 翌朝ナロンは川へ行くとそこではもうアトラは目覚めていた。

「おはよう、アトラ」

「おはよう、ナロン!」

 そして持って来た樽に水とアトラを入れると、ナロンは食堂へと向かう。

 そこでは眠たそうに朝食を食べるリオンが居た。

「リオンおはよう」

「おはようございます⋯⋯ナロンさん」

「夜の見張りご苦労様、この後寝るの?」

「はい⋯⋯眠いです」

「そっか⋯⋯お疲れ」

「⋯⋯ありがとう」

 そんなナロンとリオンの会話にアトラがしびれを切らす。

「ちょっとー、アトラちゃんを無視しないでよー」

「ああ、ごめんごめんアトラ」

「ごめんなさいアトラ⋯⋯さん?」

「ええそうよ、人魚族一の歌声の持ち主のアトラちゃんよ、エルフの⋯⋯リオンだっけ?」

「はい⋯⋯リオンですよろしく」

「ええ仲良くしてあげるわ、アトラの心は海よりも広いんだからね!」

 そんな風に会話するリオンとアトラに、ナロンは不思議な感覚になる。

 森の民と海の民、本当なら接点などないはずだったのにこうして話をしている、ここは不思議な場所だなと思った。

 そしてここでなら自分は作家への夢を叶えられる様な気がする。

「あたしはナロン! 夢は作家! 二人ともよろしく!」

「知っているわよ」

 アトラは呆れたように返す。

「こちらこそよろしく」

 リオンは静かに返した。

 そんな三人をセレナは離れた所から見つめる、個性的な彼女たちとの交流がリオンにとって良い経験になればいいと。


 それから一週間後、三つの冒険者パーティーが到着しこれで冒険者ギルド魔の森支部の創設メンバーは全員集結したのである。

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