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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第一幕 夢の始まり

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08-12 鋼の音色

 朝一番に目覚めたのはナロンだった。

 昨夜のどんちゃん騒ぎは、日が変わる頃まで行われた。

 そして皆酔いつぶれてしまい、全員まだ目覚める気配はない。

 この仮設ギルドの近くには小さいが小川が流れている、魔の森から流れて来る川だ。

 偶然ではない、そういう場所を選んでこのギルドハウスの場所を決めたのだから。

 ナロンは川に近づきその水で顔を洗う。

「ふう⋯⋯気持ちいい」

「さすがにお前は全く大丈夫のようだな」

 そうナロンに話しかけて来るのは、セレナだった。

「あっ、おはようございます、ギルドマスター!」

「あまり大きな声を出すな⋯⋯頭に響く」

「すみません⋯⋯」

 そしてセレナも川で顔を洗って気分をシャキッと入れ直す。

「よし! ついてこい」

「はい」

 セレナとナロンが暫く歩くと小さな小屋が見えた、そして大きな煙突も。

「鍛冶場ですか?」

「ああそうだ」

 そしてセレナはその扉を開きナロンを中へと入れた。

「設備は揃っている、銀の魔女様に無理を言って作ってもらった」

 事前にアリシアはセレナの依頼でこの鍛冶場を作っていたのだった。

 そうしておけば今後このギルドは必要な物を、ここで作る事が出来るからだ。

 そしてアリシアは普通の鍛冶場というものをよく知らなかったので別の場所を見学し、それを参考にしてここを創ったのだった。

 この経験はアリシアにとっても実に有意義なものであった。

 ナロンは辺りを見渡す、そして一つ一つ設備をチェックしていく。

「どうだやれそうか?」

「ええ、これなら今すぐにでも」

「そうか⋯⋯そこに材料はいっぱいある、何か適当に作ってみてくれ」

 そうセレナが指し示す場所には、様々な金属のインゴットが置かれていた。

 それからセレナはこの鍛冶場の炉の使い方など説明して出て行った。

「⋯⋯さて、やるか」

 あまり気が進まないナロンだったが、それでもここに居られる条件が鍛冶師として役立つ事なのだ。

「それにしても⋯⋯」

 さっきナロンはセレナからここの炉の説明を聞いた時から、やる気が駄々下がりだった。

「馬鹿にしているのかなコレ?」

 普通ならコークスなど用いて火を起こすのだが、ここの炉は完全な魔力炉だった。

 しかも簡単な操作だけで必要な温度に調節でき、それを維持できる。

 その技術を得る為にドワーフ族がどれだけ長い時間研鑽を積むのか、その技術だけに特化し人生を捧げた者すら居るというのに。

「こんな設備じゃ子供でも出来るよ⋯⋯」

 まあ楽な事に越したことはないと割り切る、作家(志望)のナロンだった。


 それからナロンは一振りの剣を完成させた。

 滅茶苦茶楽だった⋯⋯ここの設備は。

「父ちゃんならブチ切れそう⋯⋯」

 そしてナロンは空腹を覚える⋯⋯そういえば朝食すらまだだったと。

 鍛冶場を出たナロンは、仮設ギルドの隣の食堂へ足を踏み入れる。

「おっ、嬢ちゃんさっそく一仕事終わったのか?」

「ええ、とりあえず一振り⋯⋯お腹がすいたので」

 とりあえずそこには昨夜の料理の残りが沢山あったので、適当にパンに挟んで食べ始める。

「ザナックさんはさっき起きたばっかりですか?」

「ああ、とりあえず飯食ってそれから一度森を見てこようと思っている」

「カインさん達も?」

「まあな⋯⋯とにかくここはヤベエ所だからな」

「そうですか、気をつけてくださいね」

「⋯⋯付いてきたい、そう言わないのか?」

「今は遠慮します、皆さん慣れるまでは足手まといが一緒は嫌ですよね?」

「ああその通りだ、だがいつかは連れて行ってやるよ」

「はい、その時はお願いしますね」

 そして食事を終えたナロンが鍛冶場に戻ろうとした時だった。

「ちょっとー、おいてかないでよー」

「あっアトラおはよう、もう起きてたんだ」

「とっくにね⋯⋯誰も構ってくれなくて退屈なの、アトラも連れて行ってよ!」

「ええー⋯⋯」

 今食堂に居るギルドの職員たちからも、連れて行ってくれと無言の圧力を感じる。

「⋯⋯わかったよ、でも鍛冶場の中に一緒だけど、それでもいいの?」

「構わないわ、剣を作るところなんて見たことないし、興味あるわ!」

「じゃあ行こうか」

 そしてナロンはアトラの入った水樽を持ち上げる。

「あっナロン、その前にいったん中の水を入れ替えてよ!」

「わかったよアトラ」

 こうしてナロンは鍛冶場に向かう前に川で水を汲むのだった。


 そしてナロンの剣作りが再開した。

 少し離れた邪魔にならない位置にアトラの入った水樽を設置して、ナロンは剣を打ち始めた。

 そしてそれを暫くアトラは黙って見ていたのだが⋯⋯

「ねえナロン、あなたどうしてそんな叩き方なの?」

 アトラは困惑した表情で苦言を漏らす。

「叩き方って⋯⋯普通だけど?」

「じゃあ毎回叩く音が違うのはワザとなの?」

「音が違う?」

 ナロンには全くわからない事だった、しかしもしアトラの言ってる事が正しければ毎回叩く力加減が違うという事である。

 鉄を打つ力にはちょうどいい力がある、強すぎても弱すぎても駄目なのだ。

 今までナロンは父やその弟子たちを参考にしてきたつもりだったが、ここへきてわからなくなる。

「んーと、大体十回に二回くらいはいい音って思うんだけど、後はなんか変」

 そのアトラの言葉にナロンは真剣に耳を傾ける。

「じゃあ今から十回叩くから、どれがいい音か教えて!」

「構わないわ、このアトラちゃんに任せなさい!」

 そしてナロンは槌を振るい始めた。

 カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

「どう?」

「三番目と八番目がいい音、後は駄目」

 カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

「今度は?」

「四番目と六番目」

 カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

 それを繰り返す内にナロンにも、手に伝わる感触でその違いがわかってくる。

 これまでは違いがわかっていてもどれが正しいのか、その判断がナロンにはつかなかったのだ。

 もう何度目だろうか、同じことを繰り返す。

 カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

「⋯⋯完璧!」

「十回全部?」

「ええ、とてもいい音よ!」

 ナロンはその感触を失わない内に、今の作りかけの剣を破棄し、新たに打ち始めた。

 そして完成した。

「綺麗な剣ね!」

「⋯⋯これ、ホントにあたしが作ったの?」

「当たり前でしょ、このアトラちゃんが見ていたんだから」

 そしてナロンはその成果を、セレナに見せに行ったのだった。


「これがお前の作か⋯⋯」

 簡素な柄を付けただけのその剣を見て、セレナは唸る。

 正直ここまでとは思っていなかったと。

「謙遜はよくないな立派なものだ、さぞや父上も鼻が高いであろう!」

「⋯⋯いえそうじゃないんです、こっちを見てください」

 そう言ってナロンが見せたのは最初に打った方の一振りだ。

「こちらも見事だが、それがどうかしたのか?」

「えっと全然違います、厚みの均一さとか、とにかく全部」

 そのナロンの真剣な表情を見てセレナは、手を抜いて作った訳ではないと判断する。

「なぜ急に上達した?」

「アトラのお陰です、槌の音が違うって⋯⋯あたしは今まで全然わからなかったのに」

「そうかあの人魚⋯⋯いやアトラが役に立ったか」

 そしてナロンは意を決して頭を下げる。

「セレナさん! 正式にあたしをここへ置いていただけませんか? もちろん作家に成るのを諦める訳じゃないけど、今初めて鍛冶が楽しいって思えて⋯⋯だから」

「剣以外の日用品も作れるのか?」

「はい、大抵の物なら」

「結構だ! あの鍛冶場はお前の物だ、あそこの隣の住居共々好きに使え⋯⋯これからも頼む」

「はい! ありがとうございます」

 鍛冶師としてだったがナロンにとって、ここまで認められ必要とされたのは初めてだった。

 そしてナロンは礼をしてセレナの前を去る。

 その後セレナは残された二振りの剣を見比べるがやっぱり違いがわからない、どちらも名剣なのはわかるのだが⋯⋯

 それから日が落ちてきた頃、初日の調査狩猟を終えた冒険者が無事帰還した。

 そしてセレナはザナックとカインに、その二振りの剣を試させてみた。

 その結果、ぶつかり合う剣の内片方は簡単にへし折れたのだった。

 折れずに残った方はナロンが言った通りの方である。

「大したものだな⋯⋯」

 セレナはこれからのナロンに期待を募らせるのであった⋯⋯鍛冶師として。

お読みいただき、ありがとうございます。

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