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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~  作者: 鮎咲亜沙
第一章 最後の魔女の始まり

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01-11 要求と対価

 交渉はまずお互いの要求を述べる事から始める事になった、それが出来るか出来無いか、どのような対価を要求するかはひとまず置いておく事にして、まずは言いたいことを言い合うという、交渉に慣れていないアリシアにとって非常に解りやすい形である。

 まずはエルフィード国側の、代表のラバンから始まった。

「我々がアリシア殿に望む事、一言で言えばこの国を守り豊かにするために、協力してほしいと言うことだ」

「具体的には?」

「戦いや魔法具の作成、各種薬品の製造など挙げればキリがないが、それらをそちらが負担にならない範囲内で依頼したいと考えている」

「曖昧ですね、とりあえずこちらの都合の悪い時、材料が揃わない時、そもそも実行できないもの、そちらの要求に対して必ず受けなくてはならないという義務を負わないなら考えましょう」

 漠然とした問いに対しアリシアもまた漠然とした答えを返す。

「今はその答えで充分だ、何か補足が必要かね?」

「私は自分自身への課題として様々な魔法具や薬品等を作り続けています、しかしあくまでも作ること自体が目的であって作った物は私にとってはどうでもいいので、私が渡しても構わないと言う物であればそちらで使ってください、あと戦いに関してですが竜や魔獣なんかは別に良いのですが人間相手にも戦わされる事があるのですか?」

「全く無いとは言い切れんな」

「この国って他の国と戦争でもしてるんですか?」

「いやそんな事はない、この国⋯⋯いやこの大陸は今や平和そのものだ、少なくとも今はな。 しかし森の魔女殿を失い世の均衡が崩れるだろう、この先何が起こるかわからん。 戦争がこれからも起きないとは言いきれん、だがそんな日が来ぬよう我々は日々努力し、そしてアリシア殿にも協力してもらいたいのだ」

 アリシアが師から受け継いだ知識や魔法の中にはおよそ戦争ぐらいにしか使い道のない、そういった類のものもある。

 それらが使われる機会に恵まれると言うこともある意味貴重だ、しかし争い事に積極的に関わりたいとはアリシアは思わなかった。

「では世界の平和を維持するために私の力が役立つことがあるのなら微力を奮いましょう、しかしこの国を守るためならともかく他国に攻め込むと言った場合には一切協力をしない。 それでどうです?」

「充分だ」

 これまでの話の流れで、エルフィード国側の人々の表情は随分と明るくなった、しかしここからアリシアの要求の番である。

「私がこの国に望むこと、大きく分けて三つあります」

「三つだと?」

「はい、まず一つ目はこの国が師への恩義をいつまでも忘れないことです」

「森の魔女殿への恩⋯⋯か、忘れることなどあるわけがないが、具体的に何をどうすれば良いのだ?」

「形式に何かこだわりが有るわけでもないのでそちらの、この国の負担にならない範囲で何か考えてください」

「わかった検討しよう、それで二つ目は?」

「私とこの国が、友好的関係を築くこと」

「友好的関係、それは我々とて同じ思いだ」

「具体的には⋯⋯誤解を恐れずはっきりと言えば私はこの国のことを知らない、別に守りたいとも思ってもいない、ただ師が愛し護ってきた国だから師の後継者である私はそれを引き継ぐだけ⋯⋯これが今の私の偽らざる思いです」

 そのアリシアの告白に対し、表情が硬くなるエルフィード国の面々、そしてアリシアはなおも続ける。

「こんな私がこの国を守りたいと思えるように協力してほしい」

「努力しよう、しかしそれはアリシア殿を全面的に甘やかすと言う意味ではない、もしそなたが悪行を行い世を乱すような事があればこの国の法に則り裁く、互いが尊重しあいより良き方向に高め合う、良き関係を築けるよう我々は、そして其方にも努力してもらう、これで良いか?」

 ラバンはこれこそが、森の魔女から託された事なのだと理解する。

「それで構いません、それで三つ目ですが私が魔女として成長するために協力してほしい」

「協力だと?」

「私自身、今の自分にまだ満足してはいません、それだけ師は偉大でしたから、いくつかの分野では師と肩を並べたという自負がありますが全体的にはまだまだ遠く、自身の未熟さを痛感しています」

「⋯⋯薬剤関連は、既に超えているのではないか?」

「薬剤関連はようやく師と肩を並べる、といったところですね」

「だがエリクサーは作れないと、森の魔女殿は言っていたが」

「悲しい現実ですが師も衰えてしまっていたと言うことです、私に教えるのが精一杯で実演はもうできない⋯⋯と、言っていましたから」

 アリシアは、悲しそうに師について語る。

 ラバンは森の魔女の経歴をざっと思い返す、森の魔女がこの国に根ざしたのは今から約二百年ほど昔、それ以後森の魔女はこの国の守護神として君臨してきたが、それは主に武力によってである、エリクサーを作ったと言う記録は無い。

 ⋯⋯見栄を張ったな、そうラバンは断定した。

「わかった、そなたの成長はこの国にとっても有益である、協力を惜しむ気は無いが具体的に何を望む?」

「⋯⋯今のところ何かして欲しいと思うことはないです、ただあまり何かをしてくれとこちらの時間を割かないで欲しい⋯⋯です」

「言いたいことはわかるが、それでは二つ目の望みと矛盾はしないか? 両者の関わりが薄くなれば相互の理解も友好も発展はせぬぞ?」

「それはわかっています、しかし友好関係を構築することと、私自身が成長すること、どちらも同じ位私の中では大切なんです」

「難しい問題だな」

「極端な話、この国を守る力を身に付けている間にこの国が滅びている⋯⋯と言うような事はさすがにする気はありませんが、どちらもゆずれない私の本心です」

「まぁこちらから依頼する事は、魔女である其方にしかできぬ事のみに止めるつもりだったから、そう頻繁に其方の手を煩わせる事はない、と思う」

「それは助かります」

 こうして双方の要求は概ね出尽くした、次はどんな依頼に対しどんな対価を支払えば良いのか、その基準について話を進めることになった。

 ⋯⋯ここが全ての元凶だった、ここまでうまく話が纏まりすぎていたため、ラバン自身も忘れてしまっていたのである、魔女がどれほど厄介な存在かという事が、それはアリシアの次の一言に集約されていた。


「相場に関しては私は全くわかりません、あとお金に関しては今は十分に持っているので金銭以外での支払いを希望します」


 相場に関してはまだ良い、しかし何が欲しいと言う質問に対しアリシアは答えられなかった。

 なぜなら何も欲していないからである。

「爵位とか、どうだ?」

 と言うラバンの質問に対しアリシアは、

「必要ありません。 魔女に権力など不要、魔女はその魔力を持ってのみ身を立てる存在」

 と、返す。

 無論少数派ではあるが爵位を持った魔女は歴史上何人かはいる、ラバンはアリシアにまともな交渉能力が無いことなどとうに見抜いている、だからこういったアリシアの姿勢を単なるわがままや駆け引きとは思わない、おそらくアリシアの中には理想の魔女像が既にあってそれに近づこうとする純粋さなのだと判断する。

 だからと言ってその厄介さが変わるわけではない、王にとって最も扱いに困る人材、〝優秀なのに無欲な者〟それが魔女(アリシア)の本質だっただけである。

 アリシアとて何かしらの要求を出せばこの場が収まる事は分かってはいるのだが欲しい物が思い浮かばない、かといって何の報酬もなく仕事を引き受けるわけにもいかない。

 双方手詰まりのままただ重苦しいだけの時間が過ぎていく。

 せっかく全てがうまくいきそうだったのに、どうすればこの現状を打破できるのか、フィリスには何一ついい考えが浮かばない。


 そんな時だった、一人の青年が手を挙げて発言を始めたのは。

「王よ、そして魔女様、私に提案があるのですが、発言よろしいでしょうか?」

 彼こそがここまで沈黙を守ってきた、この国の王太子アレク・エルフィードその人だった。

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