大きなかたつむり
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんと、大きなかたつむりがいました。
おじいさんとおばあさんには子どもがおらず、大きなかたつむりを自分たちの子どもだと思って育てていました。
おばあさんがかたつむりを拾ったのは、裏山でした。
きのこを採ろうと落ち葉をかきわけたところに、小さく金色に光るかたつむりを見つけたのです。
これは幸運のしるしに違いないと、そのかたつむりを葉っぱにのせて家に持って帰りました。
おじいさんは金色のかたつむりを見て、これは子どもがいない自分たちに天が授けてくれたのだと、大事に育てることにしたのでした。
おじいさんとおばあさんは大きなかたつむりに「つむり太郎」という名前をつけて、たいそう可愛がっておりました。
つむり太郎はどんどんと大きくなりました。
大きいといってもおばあさんの手のひらよりも小さいのですが、かたつむりとしては大きくなりました。
朝起きるとおじいさんはつむり太郎の触覚をつついて声をかけ、おばあさんは枯れ葉のご飯をやり、たまにきのこをあげました。
お椀に水を張って石を入れ、そこがつむり太郎の家でした。
おじいさんとおばあさんが寝るときには、お椀は布団のすぐ横に置かれました。
つむり太郎は、そんな生活に満足していたのか、お椀から出ても家の外へは出ようとしませんでした。
金色に光る殻も、綺麗に輝きつづけています。
ある日、おじいさんとおばあさんの家に、旅人がやってきました。
このあたりには村もなく、やっと見つけたのがおじいさんとおばあさんの家だったのです。
ふらふらになった旅人を、おじいさんとおばあさんは快く迎えいれました。
なけなしの鶏肉を茹で、食べさせました。
おじいさんの布団を譲り、ゆっくりと寝かせました。
次の日の朝、旅人が目覚めると、顔の近くを大きなかたつむりがはっています。
旅人はびっくりして、殻をつまんでみました。
かたつむりはぬめぬめとしていて、夜ご飯だけでは満たされなかった空腹にぴったりの食糧のように思えました。
旅人はためらいましたが、ここまで来るのに腐った鹿の肉や虫までも食べてきたので、かたつむりを食べるのもおかしくはないと思いました。
夜の火がほんの少し残っていた囲炉裏でかたつむりを焼き、刻んできのこ汁に入れてしまいました。
金色に光っていたはずの殻は、砕けて黒ずんでいます。
おじいさんとおばあさんが、畑から帰ってきました。
手には野菜があります。
おばあさんが旅人に言いました。
「あらまあ、お腹が空いて待ちきれなかったですかね。すぐにご飯を作りますよ」
旅人は言いました。
「汁を温めておきましたよ」
おじいさんとおばあさんと旅人の三人が、囲炉裏を囲みました。
朝ご飯を食べはじめます。
ところが、汁を飲むお椀はふたつしかないはずなのに、おじいさんもおばあさんも旅人も、その手にお椀を持っていました。
「おや、お前さんはお椀をお持ちだったのかい」
おじいさんが聞くと、旅人は答えました。
「いえいえ、これはこの家のお椀です」
おじいさんとおばあさんははっとして、つむり太郎のお椀を置いてあったはずの場所を見ます。
しかしそのお椀は旅人が持っていて、つむり太郎はどこにもいないのです。
「つむり太郎はどこだ!?」
おじいさんが慌てて探します。
「あなた、うちのつむり太郎をどうしたの!?」
おばあさんが旅人に訊ねます。
二人のあまりの剣幕に、旅人は怖くなりましたが、正直に答えました。
「この汁に入れました」
おばあさんがお椀の中を見つめています。
もう半分ほど食べてしまっていました。
おじいさんのお椀は空っぽです。
「うちのつむり太郎が!」
「うちの一人息子にお前は!」
おじいさんが旅人を睨むと、旅人はおずおずと言いました。
「かたつむりにはオスもメスもないですよ……」
おじいさんとおばあさんはわんわん泣きました。
可愛がって育ててきたつむり太郎を、食べてしまった挙句、息子でもないと罵られたのです。
旅人は怒り狂ったおじいさんに滅多打ちにされてしまいました。
おじいさんとおばあさんは、つむり太郎のお墓をつくりました。
つむり太郎くらいの大きさの石を置いて、毎日拝んでいました。
するとある日、お墓の下から触覚が二本、出てきました。
金色に光るそれは、まさにつむり太郎の殻と同じ輝きをしていました。
おじいさんとおばあさんは泣きながらその触覚を撫でました。
触覚はどんどん大きくなり、やがて谷になりました。
谷を流れる川は、旅人の子孫が暮らす村を押し流しました。
おじいさんとおばあさんは谷の上で、今は魚を釣って暮らしています。
めでたしめでたし。




