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Blade & Dragon Dance 〜月天を焦がす銀剣竜舞〜  作者: 西順


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偽装

 ボロシアには二つ大教会がある。東の大教会と西の大教会だ。今回集会が行われるのは、西の大教会である。


 四つの高い尖塔を有する西の大教会は、夜闇の中でもその大きさ故か、見上げる者にその威容を見せ付けていた。


「これを」


 入り口に立つ門衛に、招待状を見せると、


「おお! 貴方さまが!」


 と直ぐ様大教会内で、続々とやって来る信者たちを仕分けている、白装束の上から黒いローブを羽織った教徒に、俺の事を報告してくれた。しかし結構な数の信者が集まっている。五百人はいるんじゃないだろうか? 中には平民だけでなく貴族の姿もあった。


「お待ちしておりました。こちらへ」


 入り口で「武器はご遠慮下さい」と木剣を取り上げれた俺が、教徒に連れられていったのは、祭壇の間の席ではなく、その奥の控え室のような場所だった。


「デウニス司教、パーシヴァル様をお連れしました」


 教徒がそう言いながら控え室の扉を開けると、中には四人の男女がいた。ヴィレ大司教と似た白装束の禿頭の男がデウニス司教だろう。そして年の頃なら四十代だろうか? 褐色の肌をした商人風の男。そしてこんな魔剤の取り引き現場には似つかわしくない、ノエルと同じ年頃の女の子と、そのお付きらしき女性がいた。


「良くぞいらっしゃいましたパーシヴァル様。私がデウニスでございます」


 白装束の男は席を立つと、俺に近寄ってきて握手を求めてきた。怪しくならないように、俺はその手を握り返す。


「いえいえ、今日はお呼び頂きありがとうございます。今日あった対外試合も、あの聖水のお陰で見事勝利する事が出来ました」


 勿論嘘である。しかしそれで気を良くしたデウニス司教に、俺は席に着くよう案内された。直ぐ様外の教徒が、お茶と生菓子を持ってきてくれた。一口食べるが、ヴィレ大司教の所の菓子やお茶の方が、高級だと分かった。


「それで、こちらの方々は?」


 俺は気になっていた三人の正体を尋ねる。


「そうでしたな。こちらは聖女ミリアム様と、聖水の素を卸して下さっている、商人のゲラルドゥ様です」


 聖女に聖水の素を卸している商人ねえ。いや、意味が分からん!


「すみません、何分異国から来たもので、ウロ教の事には疎いのですが、聖女やら聖水の素とは一体?」


「そうでした、パーシヴァル様はガラク王国から来られていたのでしたな」


 そう言うとデウニス司教は、改めて二人の説明をし始めてくれた。


「ミリアム様は教会において、聖女と呼ばれる存在です」


「はあ」


「何故なら彼女は、竜と契約せずに魔法が使える、奇跡の体現者だからです」


 な!? 竜と契約せずに魔法が使える!? それが本当なら、人間でありながら体内に魔核がある事になるのだが!? 俺は改めて少女を見遣る。デウニス司教と同様白装束を着た少女は、青紫の髪と瞳をしていた。目は真っ直ぐこちらを見ていて、目が合うとゆっくりお辞儀をしてくれた。


「と言う風に信者たちには言っております」


 は? とデウニス司教は小声になる。


「ここだけの話、実際には服の裏に魔導器を取り付けており、それで魔法を使っているのです」


「はあ」


「ですが、この年で回復魔法が使えるのは本当ですぞ! その魔法で怪我をされた信者たちを癒やしているのです」


「へえ」


 その年で回復魔法が使えるのは凄い事だが、前半のハッタリは必要だったのだろうか? 教会的に箔が必要だったのかなあ? 流石にこの事は恥ずかしいのか、ミリアムは顔を赤くして俯いてしまった。


「こちらのゲラルドゥ様には、聖水の素をお安く卸して頂いております」


「その聖水の素と言うのは?」


「それは企業秘密です」


 俺の問いに答えたのはゲラルドゥだ。いや、明らかに魔剤だよね?


「褐色の肌をしていますけど、ラードーンの方なんですか?」


 だとすればヴィクトリウス王子にも、報告しなければならないかも知れない。


「いえ、ラードーンの隣の、メサイア教国の出身です」


「メサイア教国?」


 聞いた事がない。


「最近、ラードーンから独立した、新興国です。我々ボロスと同じく、ウロ教を国教としているのですよ」


 デウニス司教が説明してくれる。しかしデウニス司教は何でも説明してくれるな。悪事を働いていると言う意識が薄そうだ。


「聖水の素と言うのは、他でもやられている事なのですか?」


「ええ。ただの水を聖水と偽って売っては詐欺でしょう? 薬草やポーションを水に混ぜて販売するのが一般的です。中にはマールのように、酒を水で薄めて販売している者もおりますが」


 憎々しげにその名を口にするデウニス司教。確かマール司教と言うのは、デウニス司教と大司教の座を争っているのだったか。それに酒を水で薄めるのは一般的な酒の販売方法な気がするが。しかしもしかしてデウニス司教は、自分が売り捌いている聖水が、魔剤だと知らないのでは? だとしたら元凶はゲラルドゥか。



 色々話をしていると、控え室の扉がノックされた。


「デウニス司教、集会の時間です」


「分かった。直ぐ行こう」


 教徒の声を聞いて席を立つデウニス司教。連れて俺やミリアムは席を立つが、ゲラルドゥは立たなかった。


「貴方は集会に参加しないのですか?」


 と俺が尋ねると、


「ええ。私はここで待たせて頂きますよ」


 との返事。不味いな。集会で一網打尽にする作戦なのに、ここにゲラルドゥを一人にしたら、逃げられるかも知れない。この場で俺が動くか。と逡巡していると、


「パーシヴァル様」


 とデウニス司教に声を掛けられた。


「はい、何でしょう?」


 返事はしたが声が裏返ってしまった。もしかして作戦がバレたのか?


「集会ではパーシヴァル様からも、信者にお声掛けをして下さいませ」


「ヘ?」


「あの聖人パーシヴァル様のご子孫のお話、きっと信者たちも期待している事でしょう」


「はあ」


 どうやら作戦がバレた訳ではなさそうだ。とホッと胸を撫で下ろしていると、誰かが駆け寄ってくる足音が。


「デウニス司教、大変です! いきなり教会軍が訳の分からない事を言いながら、教会内に雪崩込んできました!」


 クララさんが作戦を開始したのか。ならこっちも動き出そう。見ればオロオロするデウニス司教やミリアムと違い、ゲラルドゥは直ぐ様この場から逃げ出そうとしていた。


 逃さないよ。一番の証人だからな! 俺は懐から木片を取り出すと、それを木網に変えてゲラルドゥを縛り上げた。


「な、何をするのですかパーシヴァル様!?」


 動転するデウニス司教とミリアム、それにお付きの女性やその場にいた教徒なども木網で動きを封じる。そして俺は教会軍の人たちが来るのを待ったのだった。


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