対外試合その3
「始め!」
最終試合。初めての対戦の為、誰もが静かな立ち上がりだろうと考えていた所に、俺と正対するマッシュは、いきなり距離を詰めてきて、上段から一撃振るってきた。
この一撃で終わらせるつもりだ。その気合を感じるマッシュの鋭い一撃を、俺はなんとか木剣で受け止める。が、マッシュの一撃は凄まじく、俺は片膝を突かされてしまった。
マッシュの攻勢は続く。片膝を突いて一段下に位置する俺に対して、上段から振り下ろしの連撃である。
勢いの乗った攻撃は、俺をその場に釘付けにして、俺はマッシュの連撃を木剣で受け止めるのに必死で、反撃に転じる事が出来ない。
しかし止まない雨はないように、連撃の雨も十回、二十回、三十回と振り下ろされる内に、段々とその威力を弱めていった。
そして俺はその隙を逃す程甘くない。連撃の威力、速度が弱まった間隙を縫って、俺はマッシュの腹に向けて突きを放つ。
が、寸前で身を引いたマッシュに当たりは浅く、俺の突きはマッシュを後退させるに留まった。
「はあ……、はあ……」
「はあ……、はあ……」
互いに追撃はない。俺は防御で、マッシュは攻撃で、かなり体力を消耗していたからだ。この内に俺は立ち上がり、中段に構えると、呼吸を整え、体力の回復に努める。
「はッ!」
「いやあッ!」
呼吸が整い、少し体力が回復した所で、気合の掛け声と共に互いに距離を詰めて、木剣の打ち合いに突入する。
頭、胴、小手、足、と俺が満遍なく攻撃するのに対して、マッシュの攻撃は上段からの振り下ろしがほとんどだ。動きも前進、後退は素早いが、左右へのフットワークは鈍い。
だからと言って侮る事は出来ない。マッシュはこの前進後退と振り下ろしが異様に鋭いからだ。
こっちが距離を置こうと後退しても、一気に距離を詰めてくるし、逆に追い縋ろうと一歩踏み出しても、向こうは二歩後退しているような状態だ。前進後退と振り下ろしだけで追い詰められるのは初めての経験である。
が、左右へのフットワークが鈍い、と言う確かな弱点もある。俺は出来るだけ前進後退を使わず、左右への足運びでマッシュに対抗していく。
攻撃されれば左右どちらかに避け、こちらが攻撃する時も左右に回り込むように動く。こうする事でマッシュの鋭い動きを、少しでも鈍化させていく算段だ。
そしてそれは一部奏功した。左右からフェイント混じりに揺さぶりをかけられたマッシュは、最初俺の動きについてこれなくなり、どんどん試合場の隅へと追いやられていったが、隅に追いやった事で、マッシュから動きの選択肢を狭めてしまったのは、間違いだった。
出来る事に制限が課せられた事で、行動に迷いのなくなったマッシュは、また鋭い動きを見せ始めた。
「くっ!」
隅まで追い詰めたと言うのに、倒し切れなかった俺は、一旦後退して距離を開けようとするが、追い縋るマッシュの動きは鋭い。
鋭い振り下ろしが何度となく俺を襲う。が、こちらもそれには慣れてきていた。左右に身体を反らす事で余裕を持ってこれを回避、その隙を縫って胴、小手、足を狙って木剣を振るう。マッシュもこれを嫌がり、俺から距離を置いて攻撃の隙を窺うようになった。
試合場の中央で対峙する俺とマッシュ。息が上がり、体力が回復しない。そろそろ体力的に限界が近い。それは肩で息をしているマッシュも同じだろう。本気で打ち合えるのはあと数回と言った所か。
互いに中段に木剣を構える。マッシュがジリジリとこちらににじり寄ってくるのに対して、俺は右回りに動いてマッシュの動きを鈍化させる。互いにあと半歩で木剣が届くと言う所で足を止め、息を整える。
深く呼吸をする。剣先にまで神経を尖らせて深く集中していく。木剣だからだろうか、一瞬木の匂いが鼻孔をくすぐり、住み慣れた山の森の景色が思い浮かび、同時にスッと身体が軽くなる。
これならいける。と俺は正対するマッシュに向かって一歩踏み出す。それに反応するようにマッシュが木剣を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてくる。ゆっくりと。いや、俺にゆっくりと見えているだけだ。
それに対して俺は一歩後退して鼻先寸前でこれを躱すと、木剣を振り上げ、バンッ! と勢い良く振り下ろしていた。
眼前では、肩から胸にかけて俺に切られたマッシュが、血を噴いて倒れていく。それも俺にはいやにゆっくりと見えた。
「そこまで! ブレイドの勝利! 救護班ポーションを!」
マリオ先生のその言葉にハッとした。やり過ぎてしまったか! と救護班に囲まれるマッシュの方を覗き見ると、
「お見事……でした」
と傷口に回復ポーションをかけられながら、マッシュが俺を称えてくれた。
「あ、ああ。傷、大丈夫か?」
「これくらい。どうと言う事ありません。俺の事より、周りに目を向けて下さい」
マッシュにそう言われて周りを見回すと、観客に回っていた学生たちが、俺の態度に喜んで良いのやら、複雑な顔をしている。
「勝者は勝者の義務を果たして下さい」
成程。俺はマッシュに言われて、拳を突き上げ勝利のポーズを取る。そして観客たちは改めて沸き立つのだった。




