隣国へ
「すみません、リオナさん! 面倒事を頼んでしまって!」
俺、リオナさん、クリフさん、ラウド先生は、竜に跨がり、ボロス王国に向かっている。何故か。それはボロス王国で各国の学生が集まり、ヴォーパル一刀流の対外試合が行われるからだ。
「いえ、国の代表として外国で試合が出来るなんて、誉れですから、それについては良いのですが、私に務まるのかが心配で!」
「リオナさんは強いんですから、もっと自信を持って下さい!」
確かに最初出会った時は危なかっしい感じがあったリオナさんだが、父に剣術を習うようになって、その実力をグングン伸ばしていった。今では斬鉄も可能である。だと言うのに、いまだ我が家に居候してストイックに武を学び続ける様は、尊敬に値する。
「この旅に出る前に一度手合わせさせて貰ったが、実力は相当なものだ! 胸を張ってヴォーパル一刀流を名乗って良いぞ!」
横を飛ぶ黒銀の竜に跨がるクリフさんが、リオナさんを褒めそやしている。ここでリオナさんに抜けられると、対外試合に出るのは俺とクリフさんの二人になってしまうので、必死である。まあ、俺も実際には部外者なのだが、行き掛かり上、放っておく事も出来なくなったので参加した次第だ。
「そろそろアイボリー領の領都だ! そこで今日は一泊するぞ!」
赤紫の竜に跨がり、先行して飛ぶラウド先生が、俺たちにそう声を掛けてくる。その言葉の通り、山向こうに街が見えてきた。
「やあ、よくぞお越しになられました」
領主館で俺たちを迎えてくれたのは、車椅子に乗った、アインと同じ白髪に藍色の瞳のアイボリー領の領主、クラーク・アイボリー伯爵と、伯爵の車椅子を押す、黒髪に紫の瞳の伯爵夫人、メアリ・アイボリーさんだ。
「お久し振りです。クラーク殿。今回もご厄介になります」
ラウド先生が恭しく頭を下げるので、俺たちもそれに倣うように頭を下げる。
「いやいや、私もこれが楽しみだからね。この館を自分の家だと思って寛いでくれ。しかし……、随分人数を絞ったな」
朗らかなクラーク伯爵に対して、ラウド先生は空笑いをするしかなかった。
「君がブレイドくんだね。息子の手紙で知っているよ。何でもランデルの息子だとか?」
「はい。アインくんとは仲良くさせて貰っています」
俺の返事ににこりと微笑むクラーク伯爵とメアリ夫人。
「夕食時にでも、その話を聞かせてくれ。ランデルとはもう十年以上音信不通になっていたから、楽しみだよ」
伯爵にそう言われ、俺たちは館に招き入れられた。
与えられた一人部屋で旅の疲れを癒してからの夕食。食堂の長テーブルに豪華な食事が並べられた。肉を葉野菜に包んで煮た物がメインで、恐らくはこの地方の伝統料理なのだろう。他にパンやポタージュなどが食卓を飾り、どれも美味しかったが、俺は伯爵や伯爵夫人と会話する事を求められ、余り食事に時間を割けなかった。
翌日、少し空腹を覚えて目を覚まし、部屋の窓を開けると、爽やかな風が吹き込んでくる。と中庭でリオナさんが知らないおじさんと手合わせしていた。ここの勤め人だろうか?
俺は木剣を持って中庭に出る。木剣のリオナさんに対して、勤め人は槍だ。それもかなりの使い手で、リオナさんが手も足も出ずに負けてしまった。ただその戦い方から、この人がアインの師匠であろう事が想像ついた。
「ブレイド殿も目覚められましたか」
今気付いたのか、リオナさんは汗を拭きながら朝の挨拶をしてくれた。
「おはようございます。リオナさん、こちらは?」
白髪混じりの茶髪を整髪料できっちり固めた黒眼のおじさんの説明を求める。とおじさんの方から説明してくれた。
「私はアレン・サードと申します。このアイボリー家に奉公する、しがない騎士にございます」
「これはご丁寧にありがとうございます。アレンさんでしたか、その槍、もしやアインの槍の師匠はアレンさんですか?」
「はは、師匠などとお恥ずかしいですが、確かにアイン坊ちゃまに槍を伝授したのは私でございます。本来であればアイン坊ちゃまには、クラーク様の剛槍を受け継いて頂きたかったのですが」
まあ、車椅子では槍を教える事は出来ないよな、それにしてもアインが「坊ちゃま」か。なんか心の中でニヤついてしまう。
「今日は国境まで、私か先導させて頂きます」
そうなのか。
「それは、よろしくお願いします」
その後もなんやかんやと会話を交わしながら、朝食に呼ばれるまで、俺とリオナさんはアレンさんにしごいて貰った。
朝食後、伯爵夫妻に別れを告げると、俺たちはアレンさんの先導で更に東へと飛び、昼前には国境に到着。
国境を跨ぐ街道には、関所が設けられており、ガラク、ボロス両国から騎士が詰めて、国境の警備や旅人の整理にあたっていた。
アレンさんは国境警備に就く両国の騎士とも顔馴染みのようで、国境で列を成す商隊や旅人を尻目に、俺たちはスムーズに国境の関所を通り抜ける事が出来た。
その後国境のあるバスコールの領都で一泊。翌日、俺たちの前に対外試合の使者が現れた。
ガラク王国で言う所の、我らがネビュラ学院と同等の、ボロス王国の国立ガンド魔剣学園の学生であった。
「マッシュ・アジールです」
腰に剣を差し紺色の学生服を着た金髪碧眼の美少年は、俺たち一人一人と爽やかに握手を交わす。が、その握手だけでピンとくるものがあった。この男、強い。使者を任されると言うのは、恐らくそれだけの実力者、と言う事なのだろう。
マッシュの乗る青に黄色の線の入った竜の先導で、俺たちはいくつかの領を超え、ボロス王国の東端に位置する、王都ボロシアにたどり着いた。
「あれが海か!」
ボロシアの先は真っ青な海になっていて、初めて見る海は水平線の向こうまで茫洋と続いて空と交わっている。港には大きな帆を張った船が何隻も泊まっており、街には独特の匂いがしていた。
俺たちは街には立ち寄らず、そのままボロシアの南西に位置するガンド魔剣学園に降り立ち、今後何日か滞在する事になる寮の部屋に案内された。六人部屋に、俺とクリフさんとラウド先生。リオナさんは女子なので別部屋だ。
この夜俺は、他国に足を踏み入れた事と、海を初めて見た興奮で、中々寝付けなかった。




