存続の危機
「ブレイド、ヴォーパル一刀流を継いでくれ!」
一般コースの授業が終わり、庶務五人で学生会の役員室に行くと、待ち構えていたクリフさんに両肩を掴まれて懇願された。目力が凄い。
「何ですか? いきなり」
両肩の手を離そうとしても、離れてくれない。
「実はヴォーパル一刀流は存続の危機に陥っているのだ」
はあ、そうなんですか。
「興味なさそうだな」
「俺は別にヴォーパル一刀流を名乗ってはいませんからね」
「だがヴォーパル一刀流の使い手だろう?」
恐らく父がネビュラ学院に通っていた頃に習っていただろうが、その父に習った俺がヴォーパル一刀流を名乗ってよいものやら。そんな事お構い無しにクリフさんは話を続ける。
「ここの所、我がヴォーパル一刀流から、ヴォルフリッヒの所のファンタズマ流に鞍替えするやつが多いんだよ」
ヴォルフリッヒ? 聞いた事ある名前だ。誰だっけ? 俺は助けを求めてカルロスたちの方を振り向く。
「決闘祭のデュエルでエドワード会長と戦ってたろ」
とアイン。ああ、あの人か。確か入学初日にクリフさんと手合わせしてたな。変幻自在な剣を使う人だ。その人の流派にヴォーパル一刀流から流れているのか。そう言われてもな。
「問題あるんですか?」
「大ありだ! ヴォーパル一刀流とファンタズマ流では伝統と格式が違い過ぎる! 俺たちの代でその伝統を途絶えさせる訳にはいかん!」
へえ、意外。クリフさんって伝統とか気にする人なんだ。
「ブレイド、この事態を引き起こした遠因には、お前も関係しているんだぞ!」
俺が? 何故? 全く心当たりがない。
「ブレイドは決闘祭や決闘で、ヴォーパル一刀流だけでなく、様々な戦法で戦っていただろう。それに我が流派のものが感化されてしまったんだ。ブレイドが色々やっているから、他の学生たちも色々手を出そうとしてしまったんだぞ!」
してしまったんだぞ! と言われてもな。何を研究コースで学ぶかは個人に任されている。それこそ俺やリオナさんのように研究コースを受けないと言う選択もある。
「ま、良いんじゃないですか? 人それぞれで」
「ブレイドぉ~、そんな事言うなよ~」
両肩を持って揺すらないで下さい。ガックンガックンいくんで。
「だいたい俺はほぼ我流なので、ヴォーパル一刀流がどんなものなのか良く分かっていないんですけど」
この発言がいけなかった。キラーンと目の奥が光るクリフさん。
そして俺は直ぐ様クリフさんに連れられ、練武場に来させられていた。カルロスたちはなんだかんだと理由を付けて断りやがった。
「良いか? ヴォーパル一刀流とは剛剣一閃を掲げる、最強の流派だ。その裾野は広く、ガラク王国だけでなく、隣国のボロス王国を初め、各国で取り入れられている実戦流派だ」
へえ、そんな凄い流派だったんだ。
「だと言うのに、今は……」
クリフさんがちらりと視線を向けるその方には、たった三名の門下生が控えていた。成程、存続の危機と言うのも頷ける。
対してヴォルフリッヒさんの所には、三十名を超える門下生が集い、ファンタズマ流を学ぶ為に剣を振るっている。
「良いかお前ら! 今から俺とブレイドが仕合を行う。これを見て大いにヴォーパル一刀流が何なのか学べ!」
いつの間にそんな事になったのか。クリフさんは木剣を持ち出し、俺に向かって中段に構える。はあ、これは一仕合やらないと、話が先に進まなそうだな。
俺は腰の木剣を抜くと、クリフさん同様に中段に構える。シンと空気が静まり返り、クリフさんの呼吸が聴こえる。吸って、吐いて、息を止めた。来る!
感じ取った瞬間、クリフさんは木剣を振り上げ、素早く俺の頭目掛けて振り下ろしてきた。俺はそれを木剣で払い、その勢いを殺さずに、クリフさんの喉を目掛けて突きを繰り出す。
が、それはクリフさんに半身になって躱され、その木剣が俺の胴を薙ぎにくる。それを後退して躱すと、俺は脚を狙って斜めに木剣を振り下ろす。それを脚を上げて避けるクリフさん。
更に勢いを殺さずに一歩前に一歩踏み込んできたクリフさんが、上段から木剣を振り下ろしてくる。俺はそれを横回転しながら躱すと、その勢いを活かしてクリフさんの胴を薙ぐが、これは木剣で止められてしまう。
俺とクリフさんの押し合いに、ギリギリと木剣と木剣が悲鳴のような音を上げる。しかし力任せでクリフさんには敵わないと感じ取った俺は、フッと力を抜いてクリフさんの木剣を受け流す。
肩透かしを食らったクリフさんの体勢が崩れた所を見計らい、俺は上段から木剣を振るうが、無理矢理半身になったクリフさんに躱され、その攻撃後の隙を突いて、脚に一撃食らって、膝を付かされしまった。
「まいりました」
俺が手を上げると、にやりと笑った追撃の手を止めるクリフさん。
「ふう、危なかった。危うく門下生の前で負ける所だった」
腰を捻りながら汗を拭うクリフさん。俺も額の汗を拭いながら立ち上がる。
「どうだ!? 三人もこんな事が出来るようになりたいだろ!?」
「……はあ」
熱く語るクリフさんだが、三人の反応は薄い。
「……あの」
「何だ?」
三人の内の一人が出てきて、意を決したように口を開いた。
「僕ら三人、ヴォーパル一刀流を辞めさせて下さい!」
「は?」
「やっぱり僕らも、ファンタズマ流がやりたいです!」
三人はそう言うと、ヴォルフリッヒさんのいるファンタズマ流の方へ、駆けて行ってしまった。
「一人になっちゃいましたね」
「どうしてだあ!!!?」
頭を抱えるクリフさんだが、俺にも理由は分からない。クリフさんはある程度人望があると思っていたんだが、何かあったとしか思えないな。
「あれ? クリフ一人だけか?」
そこに現れたのはラウド先生だ。
「先生こそどうしたんですか?」
放心のクリフさんの代わりに尋ねる。
「俺はヴォーパル一刀流の顧問だ」
そうなんだ。顧問がラウド先生でトップがクリフさんか。筋肉のうるさそうな流派だな。
「まあ良い。クリフから他の門下生に伝えてくれ。対外試合が決まったぞ」
対外試合?




