浮かれ気分
春と言えば何を思い浮かべるだろう。芽吹く新緑、咲き誇る花々。浮かれ気分の人々。人によって、また地域によって様々だろう。そしてここ、王都の南の森で春と言えば、発情期らしい。
森に入るなり、けたたましい鳴き声がそこら中から響き渡る。南の森に通うようになってそれなりの時を過ごしてきたが、南の森は聴いた事のない鳴き声で溢れていた。オスなりメスなりがつがいを求めて鳴いているのだ。
動物や植物に発情期や繁殖期があるように、魔物にもそれらは存在する。人間のように年中発情している魔物もいるが、大概の魔物は年に一、二回の発情期に相手を探し、仔を成す。
春にそれらを行うのが多いのは、妊娠期間を逆算し、実りの秋までに子を産み落とす為だ。
とは言え動物の繁殖ならまだしも、魔物の繁殖を看過しておける程、人間は甘くない。何故なら放っておけば、秋に大繁殖した魔物が王都に押し寄せて来るからだ。
なのでこの時期が魔物狩りの最盛期であり、これを生業とする者は朝夜問わず何日もぶっ続けで、南の森を初め、王都周辺の魔物を狩りまくる。
そんな流れに乗りながら、俺たち庶務五人も、四日に一度の休日を使って、南の森で魔物狩りをしていた。
「ふ~ん、それじゃあハミルトンたちの代役で決闘を行った四人は、退学も納得の上で決闘に挑んだの?」
俺たちを取り囲むミラージュ・カメレオンに、ファイア・アローをぶつけながらマイヤーが尋ねてくる。
「ああ、どうやら本人たちは行き詰まりを感じていたらしい。このままネビュラ学院を卒業しても、王都で自分の思い描く職に就くのは難しい。ならばいっそ自領に帰って、ネビュラ学院に入ったと言う実積で領から厚待遇を受けた方が利がある。って考え方らしい」
「ふ~ん、分からなくはないけど、何だか打算的ね」
ネビュラ学院に入ったからって、皆が皆、成功する訳じゃないからな。どういったものを望むかは人それぞれだ。とは言えこの話も、ハミルトンに代役たちがそのように唆された、と言う裏話があるのだが、今は伝えなくても良いだろう。
「しかし森の魔物たちって、こんなに気性が荒かったっけ?」
カルロスがサンダー・ショットでミラージュ・カメレオンを倒しながら、同意を求めてくる。
「いや、多分発情期で気性が荒くなっているんだろう」
とはショーン。俺も同意見だ。それに一匹一匹が強くなっているのも感じる。発情期、厄介だな。
普段であれば人間を見たら直ぐに隠れる、ハイドラットなどの小型種や、アーミー・ビーのような昆虫種も多く見られた。中でもハイドラットが大量に手に入れられたのは俺たちにとって儲け物だった。
ハイドラットは別名宝石鼠と呼ばれており、その名が示す通り、その額には宝石が輝いている。この為、多くの魔物狩りの標的にされるのだが、流石はハイドラットと呼ばれる通り、普段であればその姿を見掛ける事すら難しい魔物だ。
だがそんな貴重なハイドラットも、発情期の浮かれ気分がそうさせるのか、この時期になると人前に出て来て、攻撃してくるのだからありがたい。小型種なので的として当てにくいのが厄介だが。
「結構狩ったんじゃない?」
とマイヤー。
「そうだな。もうマジックバッグも半分以上埋まってるし、帰りを考えると、ここら辺で引き返すのが打倒じゃないか?」
そしてふと気付いた。俺たちは魔物がガンガン狩れる喜びで、いつの間にか南の森を結構奥までやって来ていた。森の空気が入り口付近とはまるで違う。
「これは、直ぐに引き返した方が良いんじゃないか」
アインも何かを感じ取ったのだろう。腰バッグから方位磁石を取り出した。が、
「何だこれ!?」
アインにしては珍しく、素っ頓狂な声を上げた。




