対盗賊団
「グラッツ領で有名な盗賊ですか?」
翌日、俺とリオナさんは学院を休んで、ウーヌム村の竜狩り組合所にやって来た。組合所のお姉さんは腕組みして少し考えた後、口を開く。
「有名なのはヴァルター盗賊団ですね。頭のヴァルターは元竜狩りで、グラッツ領ではかなり暴れ回っていたと聞きます」
ヴァルター盗賊団か。
「頭の特徴とか分かりますか?」
「確か緑髪に紫のメッシュが入った短髪で、腕に竜にバツ印の入れ墨を入れていたとか。でもどうして、そんな事を? え? もしかして、ノエルちゃんを拐ったのって、ヴァルター盗賊団なんですか!?」
お姉さんは察しが良い。でもまだ推測の域を出ないけどね。
「それはないんじゃないか」
そう言って俺たちに声を掛けてきたのは、グリフォン退治の時にお世話になった竜狩りだ。
「どうしてそう思うんですか?」
「これさ」
と先輩竜狩りは懐から岩塩を取り出した。どこかで見た事がある岩塩だ。
「ここ最近、村に岩塩を売りに来ていた商人がいてな。そいつから買ったんだ。今思えば怪しい奴だったよ。村の住人の事を逐一尋ねてくるんだ。もしかしたら盗賊団の仲間で、村の様子を探っていたのかも知れねえ」
ほう? そんな奴が村に出入りしていたのか。
「それでどうしてこの岩塩が、ヴァルター盗賊団じゃない理由になるんですか?」
「グラッツ領ってのは縦に長い領でな。北は鉱山になっていて、南は海に面しているだ」
「成程、ヴァルター盗賊団だったら、岩塩じゃなく、海塩を売り捌いていたって事ですか」
「ああ。第一にグラッツ領はこんな田舎より資源の豊富な土地だ。わざわざここにやって来る理由がない」
理由がない、か。俺からしたら皆がそう思っている事が、余計に怪しさを醸し出しているな。ヴァルター盗賊団が裏でグラッツ子爵と繋がっていたとしたら? それをハミルトン・グラッツが動かせるとしたら? 邪推かも知れないが、考えずにはいられない。まあ、そうでなくてもノエルに手を出したんだ。その盗賊団には壊滅して貰おう。
「ブレイド殿。この岩塩……」
リオナさんも気付いたらしい。
「ええ、ソルトグレイヴの岩塩ですね」
ウーヌム村の西の山は峻厳で、人を寄せ付けない。そんな山の中腹に、岩塩の洞窟が存在する。岩塩が採れるとなれば、国を上げてその確保に奔走する所なのだろうが、場所が西の山である為、そこにたどり着くまでが険しい為に、国からも放置され、知る人ぞ知る場所となっている。それがソルトグレイヴだ。
何故俺とリオナさんがその事を知っているかと言えば、このソルトグレイヴの塩は、母の錬金術の原料の一つであり、アルジェントとシエロの好物の一つだからだ。
「あいつらか……!」
ソルトグレイヴの洞窟の入り口で、見張りをする、覆面をして、いかにもガラの悪そうな男が二人、槍を持って立っている。そんな二人を見据えながら、俺の後ろで父と母が殺気立っていた。これから突入するのだから、もう少し殺気は控えていて欲しい。
「行くぞ!」
父はもう辛抱出来ないと、木剣を抜くと見張りに向かって突進していった。
「ブレイド、遅れるんじゃないわよ!」
それに続く母。ああ、もう!
「リオナさん、討ち漏らしがないように、外で待っていて下さい!」
「分かりました!」
リオナさんの返事を背中で聞きながら、俺も両親の後を追う。が両親の進行は速く、既に見張りを倒してソルトグレイヴの洞窟内に侵入していた。
どれだけ速いのか、洞窟の中を進めども、打ち倒された盗賊たちの姿だけが点々と転がるのみで、両親の影も見えない。
「何者だ!?」
と洞窟の奥から声が聴こえる。
「お前らに教えてやる名前なんざねえ!」
父が吠えている。俺は急いで洞窟の奥に駆けていく。洞窟の奥は結構広い空間になっており、明るく照らされた洞窟の奥では、父が竜と渡り合っていた。
十人以上いる子分たちは母に任せ、茶色い竜とそれに乗る覆面の男と、互角にやり合う父ランデル。竜の顎を躱し、爪を躱し、尾を躱し、男の槍も魔法も躱す。そして躱しざまに竜に一撃食らわせていくのだ。
「ブレイド! そっちは父さんに任せて、こっちを手伝いなさい!」
洞窟の隅で呆けていた俺を叱責する母スィード。
「あ、ああ」
母に言われるがままに、俺は母の方に駆け寄っていった。十人以上の盗賊たちが俺たち二人を取り囲む。それぞれ手にバラバラの得物を持った盗賊たちが、じりじりと空間を狭めて近付いてくる。が、
「サンダー・スプライト!」
母が持っていた杖を高く掲げると、豪雷が洞窟に咲き放たれ、雷鳴が轟き地が揺れる。そして俺の手助けなど必要なく、十人以上いた子分たちはその場に倒れたのだった。
「次は父さんの手伝いよ!」
言うが早いか父の元に駆け寄っていく母。相手が両親二人になっただけで、俺の両親に圧倒され始める竜と男。その間俺は何をしているかと言うと、倒れた子分たちを縄で縛り上げていた。
「クソッ!」
毒づく男に合わせて、竜が煙幕を吐き出す。逃げるつもりか! が、それをさせない父ランデル。竜の尾を掴むと、地面とくっついているんじゃないか? と思う程竜が動けずにいる。驚いて声も挙げられない竜上の男。
「サンダーショット!」
その隙に母のサンダーショットが男に命中して、男は気絶してしまった。二人共強過ぎだ。俺の出る幕がなかった。
竜は父が一睨みすると縮み上がって大人しくなり、その間に俺の木網で縛り上げる。竜に乗っていた男の覆面を外すと、その髪は緑に紫のメッシュが入り、腕には竜にバツ印の入れ墨が彫られていた。どうやらヴァルターで当たりだったらしい。
その後、外で待機していたリオナさんとシエロにひとっ飛びして貰い、ウーヌム村まで竜狩りを呼んできて貰うと、ヴァルター盗賊団をウーヌム村まで護送した。




