奸知
「クリフさん、ちょっといいですか?」
その日の午後、剣術の研究コースを終えたクリフさんに話し掛けた。勿論内容は俺が持ち掛けられた決闘についてだ。
「は? 何言ってるんだ? 俺の聞いた話では、ジョアンが前々からハミルトンに絡まれていたのが、今回の決闘のきっかけだ」
決闘委員会に向かう途中、クリフさんに話を振ると、こんな反応が返ってきた。ふむ。俺がハミルトンに聞いた話と違うな。
「俺が聞いた話では、ジョアン・ラセドがハミルトン・グラッツを罵ってきたので、ハミルトンの下に付いている奴らと私闘になりそうになったので、決闘に発展した、そうです」
「う~む。間違ってはいないが、ジョアンがハミルトンを罵倒するまでには、そうなるように仕向けられた経緯があったんだよ」
どうやらそのようだ。とここで決闘委員会に着いたので話を打ち切る。決闘委員会のある教室前には、人が並んでいなかったので、決闘の申し込みはもう全て終わっているのだろう。ドアを開けると、レイン委員長だけでなく、ガトー会長の姿もあった。
「そんな抜け道が!?」
俺が決闘に出るかも知れない、と説明を聞いて、レイン委員長が愕然としている。
「それって良いのか?」
ガトー会長が尋ねてくる。
「決闘の取り決めは明文化もサインも無しですからね。今後はちゃんと文書に書き起こして、両者にサインをさせるしか、対応のしようはありません」
「なら今すぐにでも文書化して、両者にサインを書かせるべきだ」
とガトー会長。
「どうでしょうね? ジョアン・ラセドの方はほいほいサインするかも知れませんけど、ハミルトン・グラッツの方はなんだかんだとゴネてサインしないと思います」
その場の全員が頭を抱えてしまう。
「それに、問題はもう一つ。退学を賭けている事です。ジョアン・ラセドが負ければジョアン本人に加えてクリフさんが退学になるでしょう」
「ああ。そうさせない為に俺が決闘に出るんだ。ブレイドも、出るって言うならその覚悟を持てよ?」
「クリフ、そっちはそうかも知れないが、ハミルトン側はそうじゃないんだよ」
ガトー会長の言葉の意味が分からず、クリフさんは首を傾げる。
「悪いがブレイド、お前が出てきても、俺は全力で潰しに掛かるぞ」
クリフさんはそうだろうねえ。俺も、もし決闘に出る事に決まったなら、全力を出すつもりではある。が、問題はそこじゃない。
「ハミルトンが替え玉を使って、決闘自体に出てこない可能性があるんだよ」
「あん? どう言う事だ?」
クリフさんはガトー会長に説明されても、状況が理解出来ていないようだ。俺が説明を補足する。
「つまり、俺がハミルトンの代わりに決闘に出た場合、俺が負けて退学になるのは、ハミルトンじゃなくて俺になるんです」
「な!? はあ!? 何だそりゃあ!? ハミルトンの奴は、自分からケンカを吹っ掛けておいて、自分だけはまんまと逃げおおせるって事か!?」
俺たちは首肯する。今度はクリフさん一人が頭を抱えた。
「どうすりゃ良いんだ?」
とクリフさんに詰め寄られても、俺たちに出来る事と言えば、今後決闘志願者には契約書にサインをして貰う事と、ハミルトンに関しては、ハミルトン側から決闘には出ないようにするしかない。
「う~む。なんと言うか、はっきりしないな」
とクリフさん。まあそれは仕方がない。この件に関してはこちらの落ち度だからな。
話し合いを終えて教室を出ると、既に外は暗くなっていた。もう家に帰ろう、と竜舎の方に向かうと、竜舎前で誰かに声を掛けられた。
誰だろうと暗い中目を細めてみると、ライトの魔法で辺りが明るくなる。魔法の光を出したのはハミルトンだ。
「どうですか? 気持ちは決まりましたか?」
昼と変わらない笑顔だが、夜だからだろう、何か不気味なものを見ている気持ちになる。
「いやあ、まだ決心出来ませんねえ」
「そうですか。まあ今日中では無理ですかね。帰って親御さんとも相談すると良いでしょう。良い意見を授けてくれるはずです」
何だか含みのある言い方だ。俺は胸騒ぎがしてその場を後にすると、アルジェントに跨がり夜の空に飛び出した。
「父さん! 母さん! ノエル!」
家の玄関を開けると、中からは笑い声が谺していた。ホッとする。
「何だよ、楽しそうだな?」
俺が席に着くと、ノエルが説明してくれた。
「あのね、私ね、盗賊に連れ去られそうになったの!」
「はあ!!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「でもね、直ぐにお父さんが駆け付けて、盗賊たちを退治してくれたんだあ」
「流石はランデル殿です!」
リオナさんを筆頭に父がヒーローであるかのように褒めそやしているが、俺の背は冷や汗でびっしょり濡れていた。成程、あいつらこんな手でくるのか。ならこっちも相応の対応をしないとな。




