修正
「もう限界です」
後期が始まって七日。食堂でガトー会長とレイン委員長が、昼食がてら軽い話し合いをしている所に俺は突撃して、泣き言を口にした。
「どうしたんだ泣き言なんて、らしくない」
とガトー会長。何を持って俺らしくないのか知らないが、俺はもう限界である。
「来る日も来る日も各委員会や教師陣との調整、これは分かります。俺の仕事ですから。私闘に発展しそうなのを諌めて、決闘委員会に連れて行く。俺の本来の仕事ではないですけど、良しとしましょう。何で俺が決闘の代役やら増員に駆り出されなきゃならないんですかね?」
そう、決闘委員会によって定められた代役や増員と言う制度は、とても画期的ではあったが、穴もあった。一般学生にとって、代役や増員を頼むにしても、伝手がないのだ。または友人を頼るにしても、断られる事が多いようだ。
これは決闘相手もまた友人であるケースや、決闘相手との力量差に恐れをなして断るケースなど様々なのだが、こう言った理由などから、代役や増員の確保が難しい学生がちらほら、いや、結構な数見られ、そう言った学生は、自ら決闘に臨むか、俺やクリフさんのような、決闘祭で有名な人間に頼むしかないのだ。
クリフさんなら喜び勇んで決闘の代役や増員に応じるだろうが、俺もそう暇じゃない。ましてや通いなので、学生会の仕事で帰りが遅くなるならともかく、決闘で帰りが遅くなるのは勘弁して欲しい。
「その事については今レイン委員長とも話し合っていた所だ。場所を移そう」
と席を立つガトー会長とレイン委員長。いや、俺まだ昼食摂ってないんだけど? などと話を聞いて貰えそうにないので、俺はそのまま二人の後について食堂を後にした。
「現状、決闘の代役、増員を引き受ける者が少ないのはこちらでも把握しています」
場所を学生会役員室に移しての話し合い。レイン委員長が口を開く。
「実際の所、事態はより深刻で、ペックくんが討論会で指摘していたように、貴族やお金持ちの学生による強者の囲い込みや、金銭の授受、弱者側が圧倒的に強い代役に立てる事によって、強者に理不尽な要求を飲ませるような事例も発生してきています」
どうやら俺の周りで起こっていた事は、問題の一端だったらしい。
「で、どうするですか?」
俺が尋ねると、レイン委員長が口を開く。
「取り敢えず、決闘委員会で代役や増員の人員を出来るだけ確保して、それらの確保に目処がない学生の助力になれば、と思います」
「そうだな。金銭の授受については学生会としては見つけ次第教師に通告。厳罰を与えて貰う方向で動く」
とガトー会長。
「でも、無償で代役や増員に応える物好きなんて、この学院にそんなにいますかね?」
との俺の質問に、
「まさかブレイド、金を受け取って決闘の代役や増員を引き受けていたのか?」
「まさか!? 俺はちょっと可哀想だなあと思って手を貸していただけです」
とんだとばっちりだ。
「そうだろう。それにこの学院には決闘祭と言う大きな催しがある。それに出場しようと言う学生には、決闘は打って付けだ。逆に金を払ってでも決闘しようなんて輩もいるんじゃないか?」
と笑う呑気なガトー会長。横でレイン委員長が少し呆れ気味だ。それにしても腹減った。でももう次の授業の時間だ。
かくして決闘委員会名義で、決闘の代役、増員を務める者を募集したのだが、意外とこの学院の学生は血の気が多いらしい。代役、増員の受け付けを開始すると、列をなしてその受け付けに並ぶ者たちが現れた。その中にはマイヤーやアインの姿もあった。
「何やってんのお前ら」
「ブレイドこそ」
「俺は列整理だよ。しかしこんなに列に並ぶ人間が出るなんてな」
五十人は並んでいる。しかしまあ、これで俺に代役や増員を頼む人間が減ってくれる事だろう。
「ブレイドくんだよね! 頼む! 俺の代わりに決闘を受けてくれ!」
いや俺今、列整理をしているですけど。列に並んでいる人たちからの視線が痛いんですけど。
「何で俺なんですか?」
一応尋ねてみる。
「いや、決闘相手が俺の研究コースの上級生で、友人たちは皆怖がって決闘を受けてくれないんだ」
ああ、同じ研究コースとかだと、決闘で決着しても、遺恨が残るのか。それに友人を巻き込む訳にもいかないものな。だからと言って俺も暇じゃないのだ。
「丁度良かった。今、決闘の代役や増員の募集を掛けているんです。その中から選びませんか?」
俺がそう言って初めて、その学生は俺の横の列が何なのか気付いたようだ。その列をじっくり眺める学生。
「ブレイドくんは並ばないのかい?」
「俺は暇じゃないんです。今だって列整理で忙しいんです」
「いや、でも……」
諦めきれないようだ。
「何で俺なんですか?」
話を聞けば引き受けてくれると思ったのか、学生の顔がパアっと明るくなる。
「それは勿論、君が決闘無敗だからだよ! 君に引き受けてさえ貰えれば、決闘は勝ったも同然って噂で持ち切りだよ!」
そんな噂が出回っているのか。マイヤーやアインの方を見遣ると頷いて返された。どうやら本当らしい。
「つまり貴方は、俺が引き受けてくれるのを前提に、無茶な決闘をその上級生にけし掛けたんですか?」
俺の詰問に顔を引き攣らせる学生。いや、本当にそんな計算で決闘を仕掛けたのかよ。
「すみませんが、その決闘お断りします」
「そんな……」
崩折れる学生。俺は心の中で嘆息し、今後滅多な事がない限り、決闘の代役や増員は引き受けない事を誓った。




