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Blade & Dragon Dance 〜月天を焦がす銀剣竜舞〜  作者: 西順


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決闘委員会始動

「ブレイド! 来てくれ!」


 またか。始業式から今日まで三日。俺たち庶務は大忙しだ。何故か? 


「二年と一年で決闘になりそうなんだ! 一度仲裁してくれ!」


 と言う具合に、私闘の仲裁に駆り出される事が多い為だ。俺たち五人は顔を見合せ「またか」と嘆息する。俺たちは学生会の庶務なのであって、決闘委員会の人間じゃないんだけとなあ。とこのクラスの決闘委員の姿を探すが、見当たらない。どうやらそっちも忙しいらしい。はあ。俺が行くしかないか。



 俺が駆け付けると、二年生と一年生が、互いの友人に押さえ付けられながら睨み合っていた。


「どういう状況なんですか?」


 俺の問いに一斉に声を荒げて説明してくるが、何て言っているのか分からない。


「取り敢えず落ち着いて。まず二年生の貴方からお願いします」


 俺はメモ用紙を取り出すと、話を聞き始める。


「こいつが道を譲らなかったのがいけないんだ!」


 はあ?


「普通、二年だと分かれば一年は道を譲るものだろう?」


 はあ? たまにこんな考え方を本気でしている人がいるんだよなあ。


「それで廊下でぶつかって、何故道を譲らないのか? と叱責したんだ。そしたら何て言ったと思う!?」


 あまり聞きたくないな。


「貴族でもない人間に譲る道は無い!」


 反論したのは一年生だ。貴族主義者か。


「ふざけるな! ここネビュラ学院は公平な学舎だ! そこに貴族だ何だを持ち込むな!」


「はっ、だったら二年だからって道を譲れ何てのも、横暴じゃないですか!?」


 どっちの言う事にも一理あるようなないような。気になるのは、


「貴族の二年生だったら道を譲ったんだよね?」


 俺は一年生に尋ねる。


「そうだね。いや、貴族にもよるかな。僕の家は伯爵家だからね。子爵や男爵、一代限りの騎士爵の子供に道を譲るのは抵抗があるな」


 はあ、そうなんだ。


「でもさ、ちらっと見ただけで、そんな相手がどこそこ家の誰々さんとか分かるもんなの?」


「まあ、僕みたいに『サロン』に入っているとねえ。学生先生問わず相手の爵位を当てられるのがサロンで活動する必須条件みたいな所あるから」


 ほう、そうなのか。しかし『サロン』か。この学院の運営にとっては厄介な所だよなあ。


「取り敢えず、決闘委員会まで来て貰っていいかな?」


「何でだよ!?」


「悪いのは向こうだろ!?」


 声揃ってるなあ。本当は仲良いんじゃないのか? ただ、


「何の解決もしてないからだろ」


 俺の言葉に二人は閉口し、渋々俺の後を付いてくるのだった。



 決闘委員会が使用している教室の前は長蛇の列となっていた。ここ三日ずっとこんな感じだ。前期の頃は私闘が始まりそうになったら、直ぐに先生を呼んできて決闘にして終わりだったが、後期になって間に決闘委員会が挟まった事でそれは不可能になった。そして出来上がったのがこの長蛇の列である。


 廊下には中央に間仕切りが備えられ、当事者たちはその左右に別れて列をなす。これは列に並んでいる途中で当事者同士が罵り合いや私闘に発展しないようにするための処置だ。初日にこれをやらなくて、委員会前で大乱闘が起こった為に設置された。


 俺は両者を列に並ばせると、決闘委員会の教室に入っていく。中では決闘委員会委員長のレインさんが机を挟んで座り、その横に副委員長と書記が座っている。机には書類が積み上げられており、ここにトップシークレットとなる学生たちの格付けが書かれているのだ。


 委員長と対面するように二脚の椅子が置かれ、そこに当事者二人が座っている。その後ろには決闘委員会でも選抜された指折りの戦士たちが立ち、不足の事態、主にその場で私闘を始めるのを押さえ込む責を担っていた。


 俺が来た事でレイン委員長は少し相好(そうごう)(ゆる)めたが、直ぐに当事者たちに向き直り、聴取の続きをする。


「ですから、彼は毎日毎日僕の昼食の薫製肉を横取りしており、もう勘弁ならないと決闘する事にしたんです!」


 片方はかなり意気込んでいるが、もう片方は、


「はっ、たかが肉切れ一つに何いってるんだか。すみません委員長さん、このバカ直ぐに連れ出しますから」


 へらへらとした男は、席を立ってもう一人の男を連れて帰ろうとするが、後ろに控えていた決闘委員会の戦士に遮られてしまう。


「何だよ?」


 男は不機嫌になって戦士を睨むが、戦士は強引に男を席に座らせた。


「悪いですが、ここに持ち込まれた時点で、事はそう簡単な事ではなくなっているのですよ」


 レイン委員長が努めて冷静に語る。


「それで、貴方は何を望むのですか?」


「今までの謝罪と、十万キルクルスです」


 レイン委員長に尋ねられた男はそう要求してきた。謝罪は分かるけど、十万キルクルスって、どんだけ薫製肉食べられてきてるんだよ。もう一方は顔を真っ赤にして怒っている。


「ふざけるなよ! あんなのただのコミュニケーションだろ!? 何で十万も俺が払わなきゃならないんだよ!」


「僕だって腹に据え兼ねてるんだ! だから決闘委員会に持ち込んだんじゃないか!」


「ああ、いいぜ! 決闘でも何でもしてやるぜ! お前、自分が俺に勝てた事がないって分かって言ってるんだろうな!?」


 お前も決闘委員会ってものを理解していないようだな。


「確かに、貴方たちには実力にかなり差があるようですね」


 机に積まれた資料から、そう結論付けるレイン委員長。にやりと笑う男だが、


「では、劣っている方に、二人の増員、または相手と同等の代役を認めます」


 その言葉を聞いて愕然とする男。討論会や選挙活動で決闘委員会に関してはかなり周知されたと思っていたが、こういう輩は一定数いる。まあ、バカには良い薬だろう。


 その後も二股彼氏の取り合いやら、泣き寝入りするしかなかったいじめへの反撃、研究コースでのいざこざなど、様々な案件が持ち込まれた。そして、


「退かなかったこいつが悪い」


「退かなかったこの人が悪い」


 本当に、仲が良いんだか悪いんだか。平民二年生と貴族一年生の言い争いに、しかしレイン委員長はしっかり沙汰を下す。


「この学院は王立ネビュラ魔剣学院ですよ? 王の名の下、全ての学生に平等に機会を与えているのがこの学校です。二年生だから一年生は道を譲れ、貴族だから平民は道を譲れ、が通用しないのがこの学院です。これは決闘を行っても覆らない事実です。この場合、両者が道を譲り合い、相手の気持ちを慮る精神を育む事が求められるのです。一度学生憲章を読み直す事ですね」


 二人はレイン委員長に言い包められ、反論も出来ずにすごすごと決闘委員会の教室を立ち去っていった。



「はあ〜、連日これでは、身が持ちません」


 一時休憩で皆で茶を飲む。愚痴をこぼすレイン委員長。


「最初の内はこうじゃないですか? その内件数も落ち着きますよ」


 副委員長がレイン委員長を宥めている。


「だと良いんですけど」


 まあ、そう易々と行かないのが、この学院なんだよなあ。


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