芽吹き
雪の降る日が少なくなってきた。体感温度も少し温かくなってきているのを感じ、雪が雨に代わるのも近いかも知れない。外でリオナさんと修練を繰り返していると、足元がぐちゃぐちゃになる。
「ブレイド、行くぞ」
翌日、朝早く父に叩き起こされた俺は、籠を背負って外に出る。まだ雪が積もる外界だが、一度それを掘り起こすと、地面からは山菜の新芽が出始めていた。こういった事に対する父の嗅覚は流石だな、と感心する。俺にはまだこんな事は無理だろう。
父の指摘する箇所を掘り進み、木々の新芽を摘んだりしながら、籠一杯になったので家に帰る。その日はこの新芽を使った料理である。油で炒めたり、灰汁を抜いて煮たりと新芽の料理がテーブルいっぱいに並んだ。
「げぇ~」
食卓に並んだ山菜の新芽に、ノエルが苦い顔をした。
「レディがそのような顔をするものではないですよ」
ナオミさんに両肩を後ろから叩かれて諭されるが、
「だって苦いんだもん」
と珍しく反論するノエル。それは分かる。俺も食べれない訳ではないが、この苦味はどうにかならないものだろうか?
「ふん、わがまま言うなら食べなくたっていいんだぞ」
「うう、食べるよう」
嫌々ながらも食卓に着いたノエルは、意を決したように新芽を一口食べるが、口に広がるその苦さに、顔のパーツを中央に集めたような渋い顔になる。それでも吐き出さずに飲み込んだのは偉い。
翌日、夜が明ける前に我が家を出立する。目指すはネビュラ学院だ。今日から後期が始まるのだ。
肌寒く薄暗い闇の空を、アルジェントに乗って東へ駆ける。遠距離を飛ぶのは久し振りだからだろうか、アルジェントがウキウキしながら大空を飛んでいるのを、鞍越しに感じる。それに少し嬉しさを覚えながら、俺たちは速度を上げた。
「おはよう。早いねえ」
学院の竜舎に降り立つと、まだ朝早い時間だと言うのに、エドワード会長ら厩務員たちは働き始めていた。
「おはようございます、エドワード会長。学生会の仕事がありますから」
俺がそう述べると、会長にクスクス笑われてしまった。
「僕はもう会長じゃないよ」
そうだった。後期からはガトーさんが会長なんだ。新学生会のメンバーなのに、間違うとか、恥ずかしいな。
「え、エドワードさん。おはようございます」
慣れない『さん』付けに少し戸惑いながら、挨拶すると、エドワードさんも満足いったのだろう、大きく頷いて「おはよう」と返事をしてくれた。
「じゃあ俺、役員室行かないといけないんで、アルジェントの事よろしく頼みます」
そう言い残すと俺はアルジェントに別れを告げて竜舎を後にした。
「おはようございます」
役員室に入ると、ガトーさん、もといガトー会長にクリフ副会長、イーリス書記にペック会計がいた。カルロスたち庶務の姿は見当たらない。
「あれ? カルロスたちはまだですか?」
との俺の問いにガトー会長は、
「四人はもう来ている。ホールで椅子を並べているよ」
とのお言葉。どうやら俺が一番遅かったようだ。四人は既に登校しており、ホールで始業式の準備を進めているようだ。
「会長たちは何やってるんですか?」
俺の問いに、
「始業式での挨拶を詰めているんだ。会長になって初めての仕事だからな。失敗出来ないんだよ」
会長職も大変なんだな。俺は四人でにらめっこでもするように顔を付き合わせている四人に、「ホール行ってきます」と声を掛けてその場を後にした。
「遅いぞブレイド」
ホールで椅子を並べていたカルロスたちにちょっと睨まれてしまった。
「これでもいつもより早く出たんだよ」
そう答えながら、ホールに学生たち用の椅子を並べるのを手伝い始める。
「ブレイドも学院の寮に入った方が良いんじゃないか?」
とはショーン。御免被る。確かに家からこの学院は遠いが、遠いからこそ楽が出来ている部分が少なくない。下手に寮暮らしになれば、朝から晩まで色んな事に巻き込まれそうな気がしてならない。
「銀世界に雪割草が顔を出し始める今日この頃、芽吹きのこの季節、この善き日に、始業式を始められる事を嬉しく思います」
壇上でガトー会長が時候の挨拶を始めた。それが良いのか悪いのか分からないが。自信に満ちた顔で話しているので本人的には満足なのだろう。後期の始業式は前期と違って外部から客人を招く事をしないので、それでリラックス出来ているのもあるのかも知れない。
ガトー会長の挨拶が終わると、次は学生会のメンバーの紹介。そして各委員会の委員長、副委員長の紹介だ。ここで注目を受けるのは、やはり決闘委員会の委員長であるレインさんである。衆目の熱視線がレインさんに集まっているのを感じた。
決闘委員会は今日から本格始動だ。色々あるだろうが、頑張って欲しいものだ。




