冬の暇潰し
スノードラゴンとの戦いで、貴重な五騎の人竜を失った。スノーマン討伐で人死にが出たのは、ウーヌム村でもレアケースであった。しかし持ち帰ったスノードラゴンの魔核が、アルジェントでも一抱えする程の大きさだった事で、素人でもスノードラゴンの強大さ、凶悪さが推し量られ、死んだ竜狩りたちの親族宛に、スノーマン、スノードラゴン討伐の成功報酬が支払われる事になった。
同時に北の山への入山規制が掛けられる事になった。俺たちが一仕事終えた後、北の山に様子を見に行った竜狩りによって、山頂付近でメラニゲルの存在が確認されたからだ。かくしてスノーマン討伐は、何とか終わりを迎えるに至ったのだった。
「その山は曇天と激しい吹雪に覆われ、
何人も立ち入る事を拒んでいた。
勇敢な十二騎の竜狩りたちは、
麓より風雪吹き荒れるその山に登る。
敵は千を超える雪の魔物スノーマン。
それを竜狩りたちは竜と魔法の力を借りて、
跳ね返し、倒し、打ち負かし、ひた進む。
しかし山の中腹にて突如として轟く咆哮。
竜狩りたちは更に強い吹雪に見舞われた。
視界は奪われ、仲間の位置も分からない。
ここで焦れば更なる危機に見舞われよう。
山にはドシンドシンと何かが近付く震動。
そして二度目の咆哮は直ぐ間近であった」
「報告書か何かですか?」
俺がぶつくさ言いながら紙に何かを書き込んでいるのが気になったのか、リオナさんが覗き込んできた。
「いえね、余りにも暇でやる事がないんで、前回の激闘を詩にしようとしてるんです」
「詩、ですか?」
物凄く驚いた顔をされた。どこからどう見ても詩だと思うんだが。そう見えなかっただろうか?
冬を雪で覆われるここら辺では、基本的に外には出ず、各々家の中で出来る趣味をして過ごす事がほとんどだ。父と母は毛糸を編むのが趣味だし、リオナさんとノエルは、ナオミさんに刺繍を習って過ごしている。
俺もノエルも幼少の頃から父母に習って編み物を嗜み、マフラー、帽子、手袋、靴下、セーターと色々編んできたが、ここにきてナオミさんとリオナさんが刺繍と言う新たな文化を持ち込んできた事で、それまで俺と同じように編み物をしまくっていたノエルがそれに飛び付いた。
新しい事が出来るのが嬉しいのだろう。ノエルは新たな文化を吸収し、刺繍作品を量産している。俺もそこに交ぜて貰ったのだが、刺繍にはあまり馴染めなかった。
かと言って今更編み物に戻る気にもなれず、さてどうやって暇を潰そうか。と考えていた時、学院の文化・歴史の授業で、度々詩が現れるのが思い出されたので、これをやってみたのだが、これが中々難しく、既に挫けそうである。
「暇を持て余しているなら、家事をやりなさい」
と母に諭され、成程、と得心した俺は、まずは家中を掃除する事にした。モップで床の水拭きをする。『ウォッシュ』と言う生活魔法を唱えると、泡水が床に撒かれ、それをモップで擦って行くのだ。
特に玄関付近は汚れていた。俺とリオナさんが修練の為に、毎日外に出ていたからだろう。そんな玄関もウォッシュの魔法でピカピカだ。
次に壁に取り掛かる。壁にそのままウォッシュの魔法を掛けても、重力で地面に落ちてしまう。なのでバケツの中にウォッシュの魔法で泡水を注ぎ入れ、これを布巾に浸して壁を拭いていくのだが、一々バケツにその都度布巾を浸していくのは面倒臭い。
ここで俺は一考した。壁に直接ウォッシュの魔法を吹き付けられないものだろうか? 世界には重力があるから泡水は下に落ちていってしまうのだ。ならば魔法で重力をカットした泡水を吹き付ければ、下に落ちていく事はないのではないだろうか?
母に持論を説明して協力を仰ごうとしたが、難しい顔をされてしまった。重力魔法は扱いが難しいらしい。まあしかし冬休みの間は暇なのだ。俺は母に頼み込んでこの研究を協同で進める事にした。
その日以来来る日も来る日も修練と掃除と研究の日々で、暇など吹き飛んでしまった。更に途中で魔力回復のポーションドリンクの事を思い出し、その研究も追加したので、寝るのが夜遅くなる日々が続く。気付けば冬休みが終わろうとしていた。
「か、完成した」
ポーションドリンクの方は比較的早く完成した。体力回復のポーションドリンクの魔力版だからだ。やはり難航したのはウォッシュの改良だった。
母からは重力カットは早々に諦め、泡水に粘性を持たせて垂れ落ちないようにしたらどうか、とアドバイスを貰ったが、俺は何故か重力カットに拘り、その研究に明け暮れた。
そして完成したのが、小さな粒に泡水を閉じ込める『ウォッシュ・ドロップ』だ。重力をカットする上で難しいのは、量だった。ウォッシュを一回唱えると、バケツ一杯の泡水が顕現する。当然相応の重量で、それを重力カットするのは至難の業だった。
なので俺はどのくらいの量ならば重力をカットする事が出来るのか、ウォッシュの量をどんどん少なくしていって実験を繰り返した。結果、小指の先程度ならば重力をカットして泡水を宙に浮かす事に成功する。
しかしそれで終わりではない。小指の先程の泡水が一粒あった所で意味がないからだ。俺はウォッシュ・ドロップの数を量産する事に冬休みギリギリまで使った。そしてバケツ半分まで泡水を増やす事に成功する。
ウォッシュ・ドロップは意外な効果をもたらした。垂れる事がないので、バケツ半分の量でも、ウォッシュ以上に壁を綺麗に出来たのだ。これには家族もナオミさんも喜んでくれた。
こうして俺の冬休みは明けたのだ。
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