冬の魔物
膝上まで雪に埋もれる中を走れば、昨夜降り積もった雪が舞い上がり、視界を遮る。ハッと背後に気配を感じ、振り返ると同時に木剣を薙ぐと、上段より振り下ろされていたリオナさんの木剣を受け止めていた。
攻撃が失敗したと見るや、素早く飛び退くリオナさん。足場の悪い雪の中でも、彼女は軽やかに動いていた。俺も負けじと雪の中を駆ける。両者が駆ける事でまたもや雪が舞い上がり、視界を奪った。
そんな視界不良の中でもリオナさんの剣筋は正確だ。俺の頭を狙い、首を狙い、胴を、手首を、腿を狙って木剣を振るってくる。真面目で一直線な性格の良く出た剣筋だが、それ故に読み易い。
俺は呼吸をコントロールしながら、舞雪に紛れて攻撃してくるリオナさんの木剣を受け止め、受け流し、弾き返す。
攻撃すれども決定打とならない事に焦りが生まれたのだろう。上段から一際大振りな一撃を振り下ろしてきた彼女の木剣を、俺は半身になって躱すと、大振りで隙の生じたリオナさんの胴に向かって木剣を薙ぐ。
「ぐぶっ」
俺の木剣をもろに腹に食らったリオナさんは、近くの木まで吹き飛び、叩き付けられた。その衝撃で木は大きく揺れ、木に降り積もっていた雪がドサッとリオナさんをの上に落ちて、リオナさんは全身雪に埋まってしまった。
大丈夫だろうか? とリオナさんに近付いたのは不用心だった。雪の中から攻撃の機会を窺っていたリオナさんの鋭い横払いで、俺の木剣は飛ばされてしまった。
「くっ」
この好機にリオナさんは雪から脱出すると、同時に上段に木剣を構え振り下ろしてくる。木剣を拾う暇はない。俺はこちらへ振り下ろされる木剣に集中すると、半身になってそれを避けつつ、リオナさんの腕を掴んで投げ飛ばす。
リオナさんが雪に叩き付けられると、今日一番雪が舞い上がる。そんな事お構いなしに立ち上がろうとするリオナさん。俺はそんな彼女から木剣を奪い取ると、リオナさんの眼前にその切っ先を突き付けた。
「はあ……、参りました」
雪の中仰向けに手足を広げ、敗北宣言をするリオナさんを立たせると、彼女が雪を払っている間に、俺は弾かれた剣を取りにいく。が、雪に埋もれて場所が分からず、結局リオナさんにも手伝って貰って何とか探し当てた。木に引っ掛かっていた。見付からない訳である。
「ああ、寒い寒い寒い!」
家に戻った俺たちは直ぐ様暖炉の前を占領し、冷えた身体を暖める。そんな俺とリオナさんに、ナオミさんは雪に濡れた身体を乾かすように手拭いを渡してくれ、冷えた身体を内側から暖めるようにとお茶を差し出してくれた。ありがたい。
「ブレイド、村の竜狩りの組合所に行ってこい」
身体を拭いていると、いきなり父に命令される。
「何? いきなり。寒いし嫌だよ」
と俺が文句を垂れると、
「ふん、昨日山でスノーマンを見掛けたんだ。ちょっと気になってな」
と父に返されてしまった。スノーマンが出たのであれば仕方がない。スノーマンは冬限定の魔物だ。スノーマンと呼んではいるが、その姿は人型に限らず、魔核の周りを雪で覆った魔物は全てスノーマンである。学院の先生の話では、春から秋にかけて死んだ魔物の魔核が、何らかの要因によって再び活性化し、生命を得た死霊系に属する魔物であるそうだ。
雪山では一冬で一体二体は必ず見掛けるが、強い魔物でもないので放っておく。春になれば勝手に死ぬし。では何故そんなスノーマンを父が気にしているのかと言えば、恐らく数が多かったのだろう。
「何体くらい?」
「十体以上はいたな」
となるとその十倍はいると仮定した方が良さそうだ。スノーマンは一体二体程度なら問題はないが、数が多くなると吹雪を巻き起こすのだ。これによって冬の期間が長くなり植物の発芽に影響が出たり、大量の倒木で植生が変わったり、雪崩が引き起こされる可能性があり、山中に家を持ち、薬草採取で生計を立てる我が家としては、看過出来ない大問題だ。
身体の暖まった俺は、直ぐ様竜舎からアルジェントを連れ出すと、鞍を付けて跨がり、ウーヌム村に向けて飛び立つ。俺とアルジェントの横には、リオナさんとシエロの姿もある。リオナさんはこの機にウーヌム村の組合所で、竜狩りとして登録するつもりだそうだ。
ウーヌム村の竜専用の停留地では、組合所のお姉さんが竜が発着しやすいように、雪掻きをしてくれていた。しかし竜が多いな。二十頭近くいる。俺たちが停留地に降り立つとお姉さんが駆け寄ってきた。
「丁度良い時期に来てくれました」
お姉さんに促されるまま組合所に入ると、冬で魔物の出現数も少なくなっているのに、竜狩りが結構集まっている。
「北の山でスノーマンが大量発生したと、村周辺の巡回をしている竜狩りから報告がありました」
どうやら竜狩り組合は既に動き始めていたようだ。
「数は?」
「正確な数は分かりませんが、数百から、もしかしたら千を超えるかも知れないそうです。いつ吹雪が起こっても不思議じゃありません」
思っていたより事態は深刻だな。
「勿論俺も協力しますよ」
俺の言葉にお姉さんの顔が綻ぶ。多少なりとも不安を和らげる事が出来たようだ。
「私も協力させて下さい」
協力を申し出るリオナさんに、困惑するお姉さん。リオナさんが竜狩りではなく、更には伯爵令嬢だからだ。
「竜狩りとして、登録もします!」
ぐいぐいくるリオナさんに困って、お姉さんは目で俺に助けを求めてくるが、俺は頷くしかない。リオナさんは一度決めた事はやり通す人だからだ。お姉さんも観念したのか、カウンターの向こうから竜狩り登録用の用紙を取り出した。
「しかし北の山か。メラニゲルに遭遇しなければ良いけど」
俺がポロッと口にした事で、組合所か騒然となった。
「メラニゲルか北の山に戻ってきてるんですか!?」
俺に詰め寄るお姉さん。
「え、ええ」
「いつ!? いつ見掛けたんですか!?」
「夏ですけど」
「夏か」と頭を抱えるお姉さんに、「メラニゲルがいるなんて聞いてないぞ!」と逃げ腰になる竜狩りたち。リオナさんからも、「私聞いてないんですけど?」と白い目で見られる。あれ? 言ってなかったっけ?
ここまでお読み頂きありがとうございます! 来る〜、きっと来る〜、感想欄は白く〜♪ 書いてて切なくなるな。本編はともかく、この欄まで読み込んでいる人っているのか? フッ、何なら「うんち」と感想書き込んでくれても良いんだぜ?




