討論会その1
「それではこれより、会長選挙立候補者による討論会を始めたいと思います」
壇上の俺の宣言に、ホールに集った学生たちが沸き上がる。どうしてこうなった? 何故俺はホールの壇上に立って討論会の司会進行を勤めているのだろう。
事の起こりは昨日の事だ。俺が不用意にもレイン候補に絡んだ事に起因する。そこでレイン候補が『格付け』と口にした事に、その場に居合わせたイーリス候補が憤慨し、二人がその場で口論を始めた。それは他の立候補者も巻き込む大きなものとなり、更には騒ぎを聞き付けたガイウスや、俺が来ない事に痺れを切らしたクリフさんまでやって来て、現場は一触即発の様相を呈してきていた。
そこで一計を案じた俺は、ここで仲裁に入り、後日討論を交わす場を設けると約束して、その場は解散に。俺はこの事を教師陣に連絡。すると教師陣はこれに敏感に反応して、翌日朝一でホールにて討論会が開かれる事になった。
ここまでは良いだろう。では何故俺が討論会の司会進行をする事になったのか。俺はこの討論会の事をエドワード会長に伝えた。と同時にエドワード会長に司会進行のお願いに行ったのだが、見事に断られてしまった。
会長曰く、自分はもう卒業を待つだけの身だとか、自分はイーリス候補に肩入れしているので、公平な司会進行が出来ないだとか、要はやりたくない理由を並び立てられ、首肯するしかなかったのだ。それどころか会長の巧みな話術に誘導されて、いつの間にか俺が討論会の司会進行をする運びになっていた。
そんな訳で俺は今、ホールの壇上で討論会の司会進行をしている。
「では、今回の討論会に出る、勇敢な立候補者たちを紹介しましょう!」
急に決まった討論会だったが、十名の立候補者が名乗り出てくれた。クリフさんにガイウス、イーリス候補にレイン候補、他六名だ。壇上に上がった十名は自己紹介を兼ねて、まずは自身の公約を述べていく。
やはり違いが顕著に出るのは決闘祭でのブーストの扱い。そしてレイン候補に端を発した決闘に関してである。面白い所では、学食のボリュームを二倍、値段を半額にします! なんて宣言している立候補者もいた。一票入れたくなる公約だ。
「さて、各々自己紹介も済んだ所で、今回の討論会の議題について皆さんには口論を交わして頂きたいと思います」
俺が口を開くとホールがシンと静まり返る。しかし皆の熱視線が俺を注視しているのだけは感じた。
「今回の討論の議題は二つ。決闘祭でのブーストの扱い。それと昨日中庭で激論が交わされた決闘の扱いです。まずはブーストの扱いから議論していきましょう」
俺の説明の後、直ぐに声を発したのはガイウスだ。
「ブーストは直ぐにでも禁止するべきです! あれは身体に高負荷を掛ける魔法で、百害あって一利なしと考えます!」
「そうかしら? 確かにブーストは身体への負担が大きいから制限をかけるべきだけど、それをゼロにするのはやり過ぎだと思うわ」
反論したのはイーリス候補だ。
「はっ、どちらも弱者の考えだな! ブーストが身体に悪いから制限しろ? 使うな? そんなのどんな魔法だってそうだろ? 攻撃魔法だって武術だって、身体に当たれば危険なんだ。なんでブーストだけ制限をかける必要がある? ここは強者の学び舎だ。そんな心根なら学院から去るのをお勧めするよ」
これはクリフさん。豪胆な切りっぷりは口でも同様らしい。他の学校がどんな所か知らないから何とも言えないが、ネビュラ学院ではこの主張は主流である。クリフさんの言葉に、ホールの学生の半分くらいが沸いている。だが残り半分は白けていた。ブーストを嫌う学生は一定数いるようだ。
「俺も制限を設けるのは時期早尚だと思うな」
とこの発言は別の立候補者だ。
「制限を設けるには、俺たちはブーストについて知らな過ぎる」
ほうほう?
「ブーストは五感を含めた身体能力を強化する魔法だが、唱えた人間によってその効果に差が大きい魔法なんだ」
そうなのか?
「それが魔法を唱えた個人の、元の身体能力に起因しているのか、魔法の扱いの差なのか、それとも契約している竜の差なのか、良く分かっていない。制限を設けるなり、禁止するなりするには、ブーストの情報が少な過ぎる」
成程、この立候補者は魔法実験室の関係者だな。他の学生らに混ざって、アーノルドさんが拍手している。
「それそこがブーストが危険な魔法である証左じゃないか!」
ガイウスは我が意を得たりと声を上げる。
「ここは魔法研究の最高峰であるネビュラ学院だぞ! そこに通う学生としてその発言は看過出来ないな!」
新たな戦いが勃発してしまった。壇上では二人だけだが、ホールでは隣り合うガイウス派と、この立候補者を推す魔法実験室関係者が睨み合っている。
「とは言え危険は危険です。制限は設けるべきです!」
とイーリス候補。よく見るとレイン候補もイーリス候補に同調してうんうん頷いている。ここに関してはイーリス候補と同意見らしい。
「制限なんぞいらん! 身体が貧弱だからそんな弱気になるんだ! 鍛えればどれだけブーストを掛けた所で耐えられるようになる!」
クリフさん、それはどうかと思う。他の立候補者たちもそれぞれ自分の意見を表明するが、どれも、制限なし、制限あり、禁止、のどれかだった。まあ、何であれ、意見は出揃ったと言う所か。
俺はパンパンと手を叩いて、意見をぶつけ合う立候補者たちを鎮める。これは事前に打ち合わせしてあった事で、俺が手を叩いたら静かにして下さい、の合図である。合図通りに静かになる立候補者たち。
「さて、これ以上は新しい意見は出てこないようなので、この件に関しては、投票者の方々が自分に投票してくれると信じましょう」
まだ言い足りない立候補者もいるようだが、ここはただ騒ぐ場所ではないので見なかった事にする。
「では、次の議題に進みます」
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