かち合い
さ、寒い! 寒風吹き荒ぶ中、アルジェントに乗って学院に通うのは、例えコートとマフラーを身に着けていたとしても寒い。学院の竜舎に降りた頃には、身体は芯まで凍えていた。
「この寒空の下、良く竜で通う気になるよね」
竜舎で待っていたエドワード会長が、話し掛けてきたが、歯がかじかんでカタカタ言うばかりで返事も出来ない。俺は直ぐに竜舎に備え付けられている焚き火台に向かい身体を暖めた。
「冬は流石に厳しいですね。これからもっと寒くなると思うと、もうすぐ前期が終わってくれるのがありがたいです」
身体が暖まった事でようやく返事をした俺に、会長は嫌な顔せずに向き合ってくれる。
「まあ、ガラクシアは王国でも北の方だからね。南に行けばまだマシだけど」
「王都をこの地に構えた先人を恨みます」
「ハハハ、ここは急峻な地の多い王国でも拓けているから、竜が飛来しても直ぐに分かるっていう利点はあるんだけどね」
成程、それでこの地が王都になったのか。確かに、俺の家があるウーヌム村近辺も山に囲まれているし、リオナさんのバンシャン伯爵領も山向こうだ。これだけ拓けた土地と言うのも、ガラク王国では珍しいかも知れない。
「まあ、拓けている分、風が吹き抜けて寒いんだけど」
くっ、あっちを立てればこっちは立たずか。快適でいて守りの固い土地と言うのはそうそう無いだろうからなあ。
「焚き火台お借りして、ありがとうございました」
俺は焚き火に当たらせて貰ったお礼を述べると、校舎に向かった。
「清き一票を宜しくお願いします!」
竜舎から校舎に入ると、中庭で会長選挙の立候補者たちが寒空の下、呼び掛けを行っていた。票の獲得に難儀するだろう泡沫候補たちだけでなく、ガイウスやクリフさんの姿もある。ここで怠けると票に響くのだろうか。
「レインに清き一票を宜しくお願いします!」
そんな中に、俺たちの中で話題に上がったレイン候補の姿があった。黒茶の髪を肩で切り揃えた少女で、前髪が長いので目の色は分からない。
「レインに清き一票を宜しくお願いします!」
あまり前に出る事は得意ではないのか、今も側にいる友人らしき少女が、校舎の廊下から立候補者を遠巻きに見ている俺たち学生に投票の依頼をしていた。
「弱者の味方、レインに清き一票をお願いします!」
ふむ。強者の集うネビュラ学院で、弱者の味方をかたるか。面白いな。そう思いながら、俺は他の多数の学生たちのように、チラリと立候補者たちを一瞥しただけで教室に向かった。
「ブレイド! いるか!?」
授業が終わるなり、三年生のクリフさんが俺の名を呼びながら教室に入って来た。
「おお、いたかブレイド!」
クリフさんは俺の姿を見付けるや否や、他の一年生たちを押し退けて俺の元にやって来ると、いきなり俺の手を握る。握力が強くて痛い。
「ブレイド! 俺の応援演説をやってくれ!」
は? 応援演説? 何を言っているんだこの人は? 俺は助けを求めてカルロスたちを見遣るが、皆、関わり合いになりたくないのか、目を逸らす。
「むっ? そこにいるのは騎竜レースで優勝したカルロスだな! 君も俺の応援演説をしてくれ!」
今度はカルロスが捕まった。俺と同じように手を痛い程握られて、顔が苦痛に歪んでいる。
「多分、有名人を味方に付けて、選挙を有利に進めたいんだよ」
ショーンが見兼ねて俺に耳打ちしてくれた。
「有名人を味方にすれば、それだけで、あの有名人が味方をしているならって、票を入れる人が一定数いるらしいからね」
成程、それで俺やカルロスに声を掛けてきたのか。
「それってエドワード会長じゃ駄目だったのか?」
「エドワード会長は四年生で今回の会長選挙に投票権が無いからね。それに応援演説をするにしても、イーリス候補にするだろうし」
成程、俺やカルロスは都合が良かったんだな。
「どうだ! 二人とも!」
強引だなクリフさん。俺もカルロスも苦笑いを浮かべるしかない。が、
「お? やってくれるか?」
このままだと強引に応援演説をする事になりそうだ。
「一般コースの授業が終わるまで考えさせて下さい」
俺の答えに、「ふむ」と腕組みをするクリフさん。が、ここで粘っても良くないと考えたのだろう、
「一般コースの授業が終わるまでだな? 三年の教室で待っているぞ!」
と言い残してクリフさんは俺たちの教室を出ていった。
「どうするんだ? 応援演説」
一般コースの授業が全て終わって、俺とカルロスは三年の教室に向かっていた。
「断るつもりだよ」
祝勝会でアインの話を聞いていなければ、俺もクリフさんに一票入れていたかも知れない。しかしアインの話を聞いてしまっては、クリフさんの主張に賛同出来ないし、かと言ってガイウスのようにブーストを完全に禁止するのも違う気がする。となると残るはイーリス候補だが、似たような公約を掲げているレイン候補も気になっていた。入れるならこの二人のどちらかだろう。
「レインに清き一票を宜しくお願いします!」
三年の教室に向かう途中、中庭で呼び掛けをしているレイン候補の姿が目に入った。俺の足は自然とレイン候補の元に向かっていた。
「なあ、あんたたち」
ほとんどが通り過ぎていくだけの学生が話し掛けてきて、レイン候補とその友人は驚いて固まっていた。他にも呼び掛けをしていた立候補者はいたが、皆がこちらを注目している。
「レインさん、だっけ? あんたの公約読ませて貰ったけど、決闘委員会なんて、本気で言ってるの?」
俺の言葉に、黒茶髪の奥の目が光った気がした。
「はい。私には今の決闘のシステムが健全であるとは思えません」
声は小さかったが、レイン候補の強い意志を感じた。
「決闘委員会が決闘を管理して、不利な方には代役や増員の許可を下すって話だけど、その有利不利の線引きはどうやってするの?」
俺の質問に一呼吸置いて、レイン候補が口を開く。
「それには様々な要因が絡んできますが、授業での成績や決闘祭での順位などを参考に、学生たちを格付けするのが良いと思っています」
「格付けですって!?」
そこに反応したのは俺ではなく、こちらに注目していた立候補者の一人、蒼髪に赤銅眼の少女だった。誰?
「イーリス候補だろ」
俺にカルロスが耳打ちしてくれた。




