対エドワード・ランスロット
「始め!」
「ブースト!」
「ブースト!」
開始早々ブーストを掛けて特攻してやろうと思った俺の耳に、もう一つブーストの声が聴こえてきた。これに沸き上がろうとしていた観客たちにもどよめきが起こる。
「会長、今ブーストって言いました!?」
「ああ、言ったよ! もしかして竜にブーストを掛けても平気なのは自分だけだと思ってたのかい!?」
そうは思っていなかったが、反感の強い竜へのブーストを、学院のナンバーワンである会長が自ら唱えるとは思わなかった。
「ブレイドくんも言っていたじゃないか!? この魔法は絆が重要だと! 僕とランスロットにもそれだけの絆がある! と言うだけの話さ!」
確かに、毎日毎日学院中の竜の世話をしている会長ならば、竜との絆は最大かも知れない。そう思わせる。実際ランスロットは暴れる兆候もない。
「来ないのかい!? ならこちらから行くぞ!」
槍を脇に構えた会長を乗せ、ランスロットがこちらへ突進してくる。くっ、こちらも行くしかない。
「ウインド・シールド!」
俺は前方に風の盾を展開し、木槍を構えてアルジェントの名を呼ぶ。俺の合図を受け取ったアルジェントが、ランスロットに向かって急突進を始めた。
交錯の瞬間、二頭の竜は互いに衝突しないように身体を直角に捻ると、両者交錯していく。その瞬間に俺とエドワード会長が槍を突き交わす。
エドワード会長の槍の直撃を風の盾で受け流しながら、俺の木槍をエドワード会長に突き出すが、やはり魔法の盾で俺の木槍は逸らされてしまう。そして離れていく二頭の竜。
ブーストを掛けているからだろう。たった一回交錯しただけで、相当体力を削られた。肩で息をするのを整え、振り返ると、既にエドワード会長とランスロットはこちらへ向かって突進してきていた。初動が速く、次に繋がる動きに無駄がない。
「アルジェント!」
アルジェントに声を掛け、こちらもランスロットに向かって駆けさせるが、やはり動き出しの差が出た。グンッと一気に近寄ってくるランスロットと、正面衝突しそうになるのを、アルジェントが寸での所で無理に捻って躱した。
「大丈夫か? ランスロット?」
「グルルゥ」
大丈夫だと鳴いてくれるが、それより俺を心配していた。交錯する瞬間、会長の槍が肩を掠ったからだ。左肩からポタポタと血が垂れる。
「大丈夫だ! それより! また来るぞ!」
会長とランスロットは既に反転を終えて、こちらに向かってきていた。
「ファイア・アロー!」
少しでも時間を稼ごうと、ファイア・アローを唱え、距離を取ろうとするが、会長の魔法の盾で簡単に弾かれてしまった。
「クラウド・ハイド!」
更に接近する人竜を煙に巻く為に雲を発生させるが、エドワード会長とランスロットはそれを切り裂き、こちらを捉えた。ランスロットの二つの頭が、アルジェントの両翼に噛み付く。
「アルジェント!」
アルジェントをがっちり固定させて、会長が槍を連続で突き刺してくる。それを避け、躱し、木槍や魔法で受け止めたり受け流したりしながら、チラリと陽を見るが、やはり日没にはまだ遠い。
「ふふ、あの強力なブレスがあれば、ここまで接近されなかったのにな」
会長が槍を突きながら皮肉を言ってくる。俺の頬を槍が掠めて血が流れた。アルジェントが自分だって苦しいだろうに、俺を気遣って鳴き声を上げている。
「大丈夫だアルジェント。会長も、少し油断が過ぎるんじゃないですか?」
口角を上げる俺を見て、会長は何かを察したようだがもう遅い。俺は腰バッグから魔核を取り出すと、それをアルジェントに食べさせる。
「ランスロット! 退避だ!」
「アルジェント! チープ・バースト!」
魔核を食らったアルジェントは素早くブレスの体勢になると、口内を赫々に燃え上がらせ、俺たちから距離を取ろうとするエドワード会長とランスロットに向かってブレスを放出する。
高熱のブレスがランスロットに直撃し、爆煙に包まれるエドワード会長とランスロット。ランスロットが苦痛の声を上げた。
「確かに、油断は禁物だったね!」
爆煙が晴れて痛々しく焦げた身体を見せるランスロット。会長はランスロットを落ち着かせる為に首を撫でていた。
「会長の予想通りアルジェントは昼間ブレスは吐けません! だからってそんな弱点そのままにしておくと思いますか!?」
「してやられたな!」
それでも笑顔を崩さない会長に背筋がゾッとする
「キュア!」
会長がそう唱えると、痛々しかったランスロットの傷が回復していく。回復魔法まで使えるのかよ。回復魔法の使い手は恐らく国内でも十人といない。まさかお目にかかれるとは思わなかった。
「そっちの引き出しの中身も大層なものですね!」
「いやあ、ありがとう!」
俺の皮肉は通じないらしい。
「さあ、戦いの第二幕を開けよう!」
会長の言葉にランスロットの双頭がブレスの体勢に入る。
「くっ、ブースト!」
俺はアルジェントに更なるブーストを付加した。
「大丈夫かい!? 更にブーストを唱えるなんて!」
心配ご無用だ。ここまでのブーストは経験済みである。俺は取っ手をしっかり掴むと、下半身に力を入れて前傾姿勢を取る。するとそれを察したアルジェントが猛スピードで闘技場を縦横無尽に飛び始めた。
ランスロットの双頭から吐き出されるブレスを避けながら、ランスロットに接近していくアルジェント。そのまま交錯する。この猛スピードでの交錯で、俺の木槍はエドワード会長の魔法の盾をぶち壊す事には成功したが、こちらの木槍も壊れてしまった。俺は直ぐに木槍を元に戻すと、アルジェントと共に反転する。
反転するやエドワード会長とランスロットは既にこちらに接近していた。それは俺の予想通りだ。
「アルジェント! チープ・バースト!」
反転の折りに魔核を食べさせていたアルジェントが、向かってくるランスロットに向けてチープ・バーストを吐き出す。爆音と共に高熱のブレスが噴出し、宙空を焦がしランスロットに接近するが、会長とランスロットはそれを身体を捻って避けながら、更にこちらに接近してくる。やはり簡単には倒れてくれないか。
交錯の瞬間槍と木槍がぶつかり合う。そして弾けるように破砕される俺の木槍。しかしアルジェントはブレスを吐きながら、俺たちの横を駆け抜けていった会長とランスロットを振り返る。
流石にこれだけ長時間ブレスを吐き続けるとは思っていなかったらしく、相手は振り返った瞬間にアルジェントのブレスを食らった。
これを好機と捉えランスロットに突進していくアルジェント。が、会長とランスロットは直ぐ様体勢を整え、こちらに向かって突進してきた。またも交錯する竜と竜。
ブレスを吐き、槍を交わし、魔法を撃ち合い、突進で身体をぶつけ合う。こちらは総力を使ってエドワード会長とランスロットに肉薄しようとするが、しかし会長とランスロットはそれをすかし、いなし、躱し、受け流し、受け止め、跳ね返す。
普通であればそれは時間の浪費であり、ただ疲労と傷が蓄積していくだけだが、アルジェントにとってはそれは違う。チラリと会長が陽の方を見遣った。空はもう暗い青に変わり、太陽が沈もうとしていた。
「まさかここまで追い込まれるとは思わなかったよ!」
いつもの笑顔が、横日で影を作り、暗く諦観を帯びて見える。そして陽は沈んだ。
「行くよ! ブレイドくん! アルジェント!」
言ってランスロットと共にこちらに突っ込んでくるエドワード会長。最後の特攻だろう。俺がアルジェントの背を叩くと、ブレスの準備に取り掛かる。後ろから見てもアルジェントの口中は煌々と輝き、それは時間と共に膨れ上がっていく。今にも零れ出しそうだ。
「アルジェント! ルナ・バースト!」
月のような銀光が、光の直線を夜空に描く。それは一瞬にしてランスロットに到達し、そのままエドワード会長とランスロットを闘技場の外まで突き飛ばしたのだった。
「そこまで! 優勝はブレイド・アルジェント組!」
月の浮かぶ夜空に、ポーリン先生の優勝宣言が谺した。
ここまでお読み頂きありがとうございます! 感想なんぞを貰えますと作者の励みになります! 宜しくお願いします!




