決勝戦前
エドワード会長が双頭の黄金竜ランスロットに騎乗し、準決勝を戦っている。のを控え場で覗いているのだが、そんな事をしている場合ではない! 何故なら、ポーションが無いからだ!
ヤバい、準決勝でのガイウス・デューク戦でかなり負傷消耗したのに、回復するポーションが無いとは、不覚! などと膝を突いている場合ではない。何とか回復手段を見付けなければ、決勝で戦いにならない。
「お困りのようですね」
とそこに現れたのは、ナオミさんだった。
「え? ナオミさん? どうしてここに?」
俺が疑問を口にすると、ナオミさんはそれには答えず腰バッグから瓶を取り出す。それはもしや……!
「ポーション!?」
「はい。スィード様からお預かりして参りました。恐らく無くなって困っているだろうから、と」
流石は我が母。俺の事を良く分かっている。俺が喜々としてポーションを受け取ろうとするが、ナオミさんにスカされた。
「ポーションと一緒に、ランデル様から言伝を賜っております」
父から言伝?
「ふん、戦いと言うのは九割方事前準備で決まるものだ。それを怠るとは何事だ。恥を知れ。だそうです」
ああ、父なら言いそうだ。
「はい。反省してます」
俺が肩を落としていると、ナオミさんがポーションを俺に握らせる。
「ノエル様からも言伝が」
ノエルからも?
「お兄ちゃん頑張って! お兄ちゃんなら絶対優勝だよ!」
はは。軽く言ってくれるな。でもやる気が出てきた。
「ナオミさん、俺からも三人に言伝を頼んでも良いかな?」
「なんなりと」
「絶対優勝するから期待して見ててくれ! てさ」
「かしこまりました。一言一句正確に伝えます」
そう言ってナオミさんは控え場を後にした。
「優勝宣言ですか。大きく出ましたね」
後ろから声を掛けられ振り返ると、エドワード会長とランスロットがそこにいた。
「もう準決勝終わらせてきたんですか?」
「ええ」
見た感じ、エドワード会長とランスロットに傷らしい傷は見当たらない。準決勝だと言うのに、ほぼ無傷で勝ち抜いてきたようだ。それにしても早すぎる。
俺はチラリと太陽の位置を確認するが、まだ夕方にもなっていない。これは決勝でルナ・バーストを放つのは難しそうだ。
「どうしました?」
「いえ、別に」
にこりといつもの笑顔で尋ねてくる会長から、目を逸らして答える。
「太陽の位置が気になりますか?」
ビクッとして恐る恐る会長の方を見遣るが、会長は笑顔のままだ。
「決勝戦は陽が暮れてからにしましょうか?」
「何を言いたいのか分かりませんね」
「そうですか。では決勝戦楽しみにしていますよ」
言って会長はランスロットにポーションを飲ませると、闘技場へと飛び立っていった。これは完全にバレてるし、短期決戦を仕掛けてくる可能性大だな。
「アルジェント」
俺の呼び掛けに、アルジェントは側に寄ってきてその顔を俺の顔に擦り付ける。アルジェントがもっと小さな頃からの愛情表現だ。そんなアルジェントを優しく撫でながら、俺はアルジェントにポーションを飲ませた。
「ごめんな、無理させて。でも次で最後だからさ。絶対勝とうな!」
俺の言葉にアルジェントは天に向かって大きく咆哮する。アルジェントもやる気充分のようだ。俺はアルジェントに股がると、取っ手を強く握り、下半身に力を入れる。
「行くぞアルジェント!」
俺の声に応えて、アルジェントが空に飛び立つ。ゆっくりと上昇していき、俺たちは闘技場中央へと向かった。
闘技場の中央では既にエドワード会長とランスロットが待機しており、その佇まいには学生とは思えない威厳が備わっていた。
「来たね!」
「そりゃ来ますよ! 優勝が直ぐ目の前なんですから!」
それに対して笑いを洩らすエドワード会長。
「良いね! その意気! 嫌いじゃないよ!」
他の人ならば「馬鹿にしてるのか」と憤慨する所だが、名実共に学院ナンバーワンの会長からは、嫌味ったらしく感じない。それは俺自身が少なからずこの人を尊敬しているからかも知れない。
会長と軽く会話を交わしている内に、試合進行のポーリン先生が出てきた。ザワザワとする会場がポーリン先生が片手を挙げただけで徐々に静まっていく。
「これより! ジョスト決勝戦を開始する!」
沸き上がる観客たち。応援は会長が圧倒的のようだ。一年生で、しかも先程の準決勝でブーストを使った俺は、どうやら不人気らしい。沸き立つ観客たちをまた手を挙げて制するポーリン先生。シンと会場が静まり返った。決勝が始まる。
「始め!」
「ブースト!」
「ブースト!」




