対ガイウス・デューク
「ふふ。この時を待っていたよ! 君とは一度サシで戦いたかったんだ!」
闘技場中央。俺とアルジェントの眼前には、巨竜デュークに股がったガイウスがいる。準決勝の相手はこの人竜だ。幼竜のアルジェントの三倍はあろうかと言うその巨体は、対面しているだけで威圧感が凄い。
「あの件に関しては、そちらの謝罪でお終いになっていたと思いますけど!」
言って俺は木槍を構える。
「確かにいじめに関しては二年生に非があった! だからと言って、君たちに食らったあの一撃を忘れた訳じゃない! 借りは返させて貰うよ!」
やっぱり律儀な人だな。あの一撃と言うのはルナ・バーストの事だろう。別に忘れてくれてて良かったのに。チラリと陽の位置を確認するが、かなり傾いてきたもののまだ高い。決勝で放てるか微妙な所だ。このガイウスとデュークはルナ・バースト無しに倒すには厄介過ぎる相手だと言うのに。
「始め!」
ポーリン先生の開始宣言で試合が開始される。俺、ガイウス共に槍を構える。ガイウスの槍はかなりの長槍だ。デュークの身体がデカいからあれだけ長くなければ敵に槍が届かないのだろう。対抗して俺も木槍を伸ばす。
「アルジェント!」
俺の声に反応して、アルジェントがデュークに向かって突進していく。向こうも同様だ。だがスピードはこちらの方が速い。
ドンッ! 避けながら木槍を突こうとした所に、巨体を捻って体当たりをしてきたデューク。激しい衝突で、俺とアルジェントは弾き飛ばされてしまった。何とか宙空で姿勢を立て直し、ガイウスとデュークの方を見るが、俺たちと衝突した所から一歩も動いていない。これは、正面突破は難しそうだ。
「アルジェント!」
俺の声にアルジェントは右に展開する。正面突破が無理なら、相手が武器を持たない左から攻めるのはジョストの常道だ。が、それはガイウスとデュークも分かっている事だ。
デュークは俺たちが右に移動しようとするのを、自身が素早く左に移動する事で封殺する。それがかなり手慣れており、いつも相手がこの戦法を仕掛けていたのが窺えた。
結果、正面同士での衝突となり、宙空でアルジェントとデュークは体当たりをし、俺もガイウスと槍を打ち合うが、両者に吹き飛ばされてガタガタだ。これがあと何回か続けば、それで試合終了だろう。
「デューク!」
どうするべきか思案しようとした所に、デュークがこちらに追い討ちを仕掛ける。俺たちは、その突進を避ける。避ける。避ける。俺は魔法を放ちながらデュークと距離を置くが、アロー系もスピアー系も火も風も氷も土も、デュークにはまるで歯が立たない。とにかくデュークと突進対決になれば当たり負けするのは確定なのだ。俺たちはひたすら敵の攻撃を避け続けた。
が、それはガイウスの罠だった。俺たちは自由に避けているものと思っていたが、避ける方向はガイウスとデュークによって定められており、俺とアルジェントはいつの間にか闘技場の隅へと、追いやられていたのだ。
「ふふ。どうした!? こんなものか!? あのブレスを吐いてきても良いんだぞ!?」
俺たちを追い詰めたガイウスは巨竜の上から俺たちを見下ろしている。
「あのブレスは取って置きですから、まだ使いません!」
「ふ〜ん。ならばここで敗れるのだな!」
そう言って突進を仕掛けてくる。
「クラウド・ハイド!」
その瞬間俺は魔法で大量の雲を発生させた。そして雲に隠れて闘技場の隅から抜け出す。
「やってくれるな!」
雲が晴れた所で、闘技場中央で向かい合う俺たち二組の人竜。
「隅からは抜け出せたが、君たちに打つ手がない事に変わりはない! さっきと同じ事を繰り返すだけなら、潔くここで負けを宣言したらどうだい!」
既に勝った気でいるようだが、俺たちだって負ける気は毛頭ない。
「悪いですけど、往生際が悪いんですよ! 特にアルジェントが!」
「宣言負けは無しか! 後悔するなよ!」
言って突っ込んでくるガイウスとデューク。それを俺たちは迎え撃つ。
「馬鹿め! 今までの戦いで力較べでは敵わないと覚ったはずだ!」
そう思うだろう? しかしアルジェントは体当たりをかましてきたデュークを、いくらか身体を後退させながらも受け止める。
「なっ!?」
ふふ、驚いている今が好機。俺は木槍をガイウス目掛けて突き出すが、デュークが肩を揺すって狙いを逸らされてしまった。そして一旦俺とアルジェントから離れるガイウスとデューク。
「どうなっている? 君の竜の力は、デュークには及んでいなかったはずだ!」
それに対して口を噤む俺。種明かしなんてそうそうするものじゃない。が、何かを察したのか、ハッとするガイウス。
「まさか竜に対して『ブースト』を掛けたのか!?」
ガイウスの言葉に観客たちもザワザワとし出す。
「別に、ルール違反をしている訳じゃないですから!」
「だからって、下手をすれば竜の制御が利かなくなるんだぞ! 今まで先人がブーストを掛けた竜を扱い切れずにどれだけの失態を冒してきたか!」
普通の竜ならばそうかもしれない。ブーストは身体の様々な能力を向上させる。筋力に五感、そして闘争心なども向上すると考えられているのだ。基本的に竜の闘争心は人間より強いと考えられている。だからブーストでそれを向上させれば、竜が暴走するのは自明の理。と言う訳だ。
「悪いんですけど、俺のアルジェント……、俺とアルジェントの絆を舐めて貰っちゃ困る! 制御!? 扱う!? 竜は道具じゃなくて同志であり家族だ! 元々制御なんてするもんじゃない! 俺とアルジェントは絆によって共に戦っているんだ!!」
「その思想は危険だな!」
長槍をこちらに構えるガイウス。
「君をここで打ち破り、その思想を正す!」
ガイウスを乗せたデュークがこちらに突っ込んできた。
「アルジェント!」
俺の声に応えたアルジェントも、デュークに向かって突進していく。二頭が交錯すると、ドシンッ!! と凄い音が闘技場に響き渡り、衝撃だけで身体が吹き飛ばされそうになる。
それを両ももと取っ手を握った手で踏み堪えて、木槍をガイウスに突き出す。相手も同様で、俺に向かって突き出された槍を、俺は頭を下げて避ける。そして素早くその場を離脱した。
それを二度三度四度と繰り返し、どちらの竜も騎手もどんどん疲弊していくのが分かる。五度目の突進で俺の木槍がガイウスの肩を掠めたが、こっちも頬に傷を負ってしまった。恐らく次が最後だろう。
闘技場中央で睨み合う俺とガイウス。竜共々乱れた呼吸を整えると、
「アルジェント!」
「デューク!」
互いに竜の名を呼び、アルジェントとデュークはそれに応えるように天高く吠えると、相手の竜に突進して行った。ドシンッ!! と言うここ一番の轟音と振動を踏ん張って耐えたガイウスは、俺目掛けて長槍を突き出したが、そこに、鞍上に俺はいなかった。
ぶつかった振動が来る前に飛び上がった俺は、デュークとアルジェントがぶつかった直後、アルジェントの首の上に着地してそのまま首を駆け登り、ガイウスに接近すると、俺の姿を見失っているガイウスの頭上から、木槍を振り下ろした。完全に死角からの攻撃に、ガイウスは成す術がなく吹き飛ばされて闘技場の底に落ちていったのだった。
「そこまで! ブレイド・アルジェント組の勝利!」
ポーリン先生の勝利宣言を、デュークからアルジェントに跳び移って聞いた俺だったが、観客たちの拍手は疎らだった。どうやら俺がアルジェントにブーストを掛けたのは、それ程までに受け入れられないものだったらしい。
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