対マイヤー・サファイア
「ついにこの時が来たわね!」
空より青い竜サファイアに跨がり、俺とアルジェントと対面するマイヤーが語る。俺とアルジェントの二回戦の相手は、マイヤーとサファイアだ。
「そうだな! 一回戦は直ぐに終わって不満が残ってたんだ! マイヤーは直ぐにやられてくれるなよ!」
俺の不満の声に、マイヤーは不満顔だ。
「さっきも言ったけど、いつからブレイドは私に勝った気でいるのかしら! 私は貴方にも! 他の誰にも負ける気でここにいるのではないのよ!」
それはそうだろうが、悪いが負ける気はしない。それを察したのだろうマイヤーが付け加える。
「その勝ち気! 直ぐに凹ませてあげるわ!」
それは楽しみだ。おしゃべりはここまで、とポーリン先生が片手を挙げる。それを傍目に俺はマイヤーとサファイアを睨み、鞍の取っ手を掴む手とアルジェントを挟み込む太ももに力を入れる。もう片方の手に握る木槍を脇にしっかり抱え込んだ。マイヤーも愛用のハルバードをこちらへ構える。そこでポーリン先生の開始宣言だ。
「始め!」
「アルジェント!」
宣言と同時に俺とアルジェントはマイヤーとサファイアに向かって突っ込んでいく。
「ファイア・バレット!」
そんな俺たちに向かってマイヤーが放ってきたのは、ファイア・アローよりも低位の魔法、ファイア・バレットだ。火の礫を俺とアルジェントに向かって大量に放ってくる。
低位の魔法だけあって威力は低いが、量が多い。百以上の火の礫が俺に向かって来るが、所詮低位の魔法だ。竜のアルジェントにも、身体強化魔法を掛けている俺にも痛痒も感じない。マイヤーも何を考えてこんな無駄弾を。
俺とアルジェントは避けるのも面倒臭いと、火の礫を無視して突っ込んでいく。火の礫が俺やアルジェントに着弾する度に、弾けて火花と煙が上がる。大量の火の礫を浴びた所為で、煙に包まれる俺とアルジェント。それを抜けた先にマイヤーとサファイアはいなかった。
「ファイア・バレット!」
マイヤーとサファイアの姿を一瞬見失った俺とアルジェントに、死角となる斜め後方からまた大量のファイア・バレットが飛んでくる。
「くっ!」
またファイア・バレットか。こいつを煙幕にして俺たちを煙に巻く魂胆なのは既に知れている。
「レイジング・ウインド!」
逆巻く疾風が俺とアルジェントを包み込み、ファイア・バレットで作られた煙幕を吹き飛ばす。
「そこか!」
風で吹き飛ばされた煙幕の向こうにマイヤーとサファイアはいた。まだ俺たちの死角に移動中だ。そこに向かって俺とアルジェントは突進を仕掛けるが、
「ファイア・バレット!」
マイヤーは執拗にファイア・バレットを唱えて俺たちと距離を取り、空間魔法で作られた闘技場を逃げ回る。おかしい。マイヤーの性格から言えば、俺とアルジェントに一騎打ちを仕掛けてくると想像していたのだが、蓋を開ければ追いかけっこだ。もしや俺は誘導されているのか? 俺とアルジェントは流石におかしな相手の行動に、一端宙空で停止する。
「流石に怪しさに気付いたわね!」
とマイヤー。やはり何か仕掛けていたようだ。
「でももう遅いわ! ファイア・バレット!」
この後に及んでまだファイア・バレットに頼ってくるのか。これには付き合いきれない、と俺とアルジェントは右に移動してこれを避けるが、ドンッ! と避けた先の宙空でいきなり爆発に見舞われる。これは!
「どう? 私のトラップ・ボムは!」
成程。ファイア・バレットで煙幕を張っている間に、これを仕掛けていたのか。恐らく透明な爆発源は闘技場の至る所にあり、マイヤーとサファイアだけがその場所を特定している訳だ。やってくれたな。
「ファイア・バレット!」
更にファイア・バレットを撃ってくるマイヤー。だがこれを避ければファイア・バレットより威力の高いトラップ・ボムに、自分たちから当たりに行く事になる。
俺たちが素直にファイア・バレットに撃たれていると、煙幕を掻き分けてマイヤーのハルバードが顔を出す。慌ててそれを木槍で防ぎ、反撃に転じるが、敵の姿は既にそこには無く、追い縋ろうとした所でトラップ・ボムを爆発させてしまった。
「っ!!」
面倒な作戦を考えてきたものだ。いや、俺が無策で挑んで馬鹿を見たのだ。マイヤーは俺に勝つ為、ジョストを勝ち抜く為に策を練ってきたと言うのに。
マイヤーによるファイア・バレットとトラップ・ボムのコンボは見事に決まり、俺とアルジェントはどんどんと体力を削られていく。ファイア・バレットを避ければトラップ・ボムが、避けずにファイア・バレットを受ければ追撃でハルバードの一撃がやってくる。どちらにしても攻撃を食らうなら、どちらが被害が少ないかで考えなければならないだろう。
「ファイア・バレット!」
俺の思考を寸断するようにファイア・バレットの雨あられが降り注ぐ。煙幕に包まれる俺とアルジェント。動くべきか動かざるべきか。逡巡の間にマイヤーのハルバードが煙幕を縫って俺を切り裂きに来た。
「なっ!?」
驚きの声を上げたのはマイヤーだ。ハルバードを振り下ろしてきたマイヤーを待っていたのは、木槍ではなく木網だったからだ。俺の作戦は見事に的中し、マイヤーを木網に絡み取る事には成功した。しかしそこに隙が生まれてしまった。
「サファイア!」
マイヤーの声にハッとする。絡み取ったのはマイヤーだけだったからだ。どうやらマイヤーは木網までは予想出来なくても、何かしら俺が仕掛けてくる事は予想していたようだ。
マイヤーの指示を聞いたサファイアは、ブレスを放つ体勢になっていた。くっ、ここはこちらもブレスで対処するべき場面だが、まだ陽が高くアルジェントはブレスが吐けない。詰んだ。
俺がそう思った瞬間だった。アルジェントはその場の誰よりも速く行動していた。サファイアに向けて突進したのだ。それがあまりに唐突だった為、俺はマイヤーと共に宙空に放り出されてしまった。
宙を落ちていく中、アルジェントがサファイアのブレスより速く突進する事に成功するのが見えた。そしてチラリとこちらを見遣るアルジェントの目が訴えていた。ここで負けるつもりか? と。
空間魔法で作られた闘技場の底に身体が触れると、落下防止の魔法が働き、身体が魔法球に包まれゆっくり地面に落下していく。そこで試合終了である。そして例えマイヤーより遅く落ちたとしても、底に落ちた時点で両者負けと看做される。
俺はとっさにマイヤーを絡め取っていた木網を木槍に戻すと、それを地面に向かってグインと伸ばしていく。伸ばされた木槍は宙空に浮かぶ闘技場を貫き地面に突き刺さった。この木槍にしがみつく俺。しかし落下の勢いは中々削がれる事がなく、ズルズルと闘技場の底が迫ってきていた。
「止まれーー!!」
目を瞑って必死になって木槍にしがみついていると、ピタリと俺の身体が止まった。恐る恐る目を開けると、直ぐ目の前に底が見えていたが、俺の「身体」はそこに触れてはいない。
「そこまで! ブレイド・アルジェント組の勝利!」
それを聞いた俺は、そこで身体の力がフッと抜け、ズルズルと闘技場の底を抜け、魔法球に包まれながら地面に落下していくのだった。
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